【市川猿之助】舞台『藪原検校』で盲目の悪党に! エンタメ業界への思いも語る|インタビュー

【市川猿之助】舞台『藪原検校』で盲目の悪党に! エンタメ業界への思いも語る|インタビュー

雑誌『大人のおしゃれ手帖』で連載中の「大人の文化部」。今回は歌舞伎役者の市川猿之助さんにインタビュー。

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大人の文化部/歌舞伎役者 市川猿之助さん

本当は写真を撮られるの、苦手なんだよねえ。そうボヤきながらも、カメラの前ではキッチリと決めてくれた市川猿之助さん。歯に衣着せぬからっとした物言いは、いかにも江戸っ子らしい。久々の歌舞伎以外の舞台となる「藪原検校」で演じるのは、盗みに殺し……と悪行の限りを尽くして、金と権力を手に入れようともがく盲目の男。落語や講談、歌舞伎でも描かれてきた稀代の悪党を、いかに表現するのか。「自分と役に落差があるほど面白い」という、悪を演じる醍醐味に加えて、窮地に立たされている歌舞伎界への思いも伺いました。

【市川猿之助】舞台『藪原検校』で盲目の悪党に! エンタメ業界への思いも語る|インタビュー
衣裳協力:JACK of ALL TRADES

 

“人事を尽くして観客を待つ”。
やれるだけのことをやったら、後はお客さんに任せます

作品の魅力を問われると、よく通る声に、キビキビと歯切れの良い口調で返ってくる答えが小気味よい。
「歌舞伎でも他の舞台でも、台本を読むのは前月の半ば過ぎか、稽古が始まる10日前。子どもの頃からそういうリズムでやってきてるからね。ただ最近は記憶力が衰えてきたから、そろそろ同じやり方はできなくなる気もしてるけど」

市川猿之助さんにとって久々の歌舞伎以外の舞台となる「藪原検校」。井上ひさし氏による傑作戯曲で、これまで蜷川幸雄氏や栗山民也氏が演出を手がけてきた。
「以前、僕がやらせてもらった『雨』という井上作品は、地元の産業を守るために村が団結して、よそ者をスケープゴートに仕立てる物語。日本人って村八分的なところがあって、団結もするけど、よそ者をいびり殺すくらいの意地悪もする。そういう日本のいい面も悪い面も書かれた方。全作品に言えることだけど、言葉の持つ怖さを大切にされていた方でもある。日本人にしかできない芝居ができるのは、役者としても日本人としても嬉しいですね」

演じるのは、生まれつき盲目の主人公・杉の市。盗みも殺しも厭わず、悪事で得た金で、盲人の最高位である検校の座に上り詰めようとする稀代の悪党だ。
「役者は自分と対極にあるほど演じやすい。反対に、身近なものほど演じにくいんですよね。杉の市みたいな悪人は、まず現代にはいないじゃないですか。だからこそ演じていて面白いんじゃないかな」

悪党であると同時に、悪事を働かざるを得ない弱者の悲しみや必死さを抱えた杉の市。その悲劇性をいかに伝えるかが肝となる。
「井上作品に限らず、脚本がよければそういうものは誰がやっても通じるんだよね。そこにどうやってプラスアルファしていくかが重要。この人がやったら悪党の部分が濃く出るけど、この人がやると愛嬌が勝つな……とか。それが役者の個性なんです。それで言うと、僕が今回お手本にしたいのは勝新(太郎)さん。どんなに悪いことをしても、あの人がやってると可愛いし、なんか許せちゃうんですよね。『医者からたばこを止められてる』って言いながら、わざと吸ってみせるとか(笑)。今回の作品でも、そういう“なぜか憎めない”人物像を作っていきたい」

かつては古田新太さんや野村萬斎さんも演じた役だが、過去の公演に縛られることはない。そこには歌舞伎役者ならではの、ある種の割り切りがある。
「先人を意識したら、歌舞伎なんかやってられないからね。この役はもう十何代やってます、とかザラだから。お芝居ってね、自分がこうやりたいと思っていても、共演者とやり取りする中で思わぬ変化が起きて、考えていたのとは全く違うところに行っちゃう場合がある。だから僕らはよく『人事を尽くして観客を待つ』と言うんです。芝居はお客さんの反応で、さらに育っていくものだから。やれるだけのことをしたら、後はもう任せます」

歌舞伎役者である以上、外部作品に出られる機会には限りがある。何が出演の決め手なのだろうか。
「この人とお芝居ができたら、と思える共演者や演出家の先生。三宅健さんは歌舞伎がお好きだそうで、劇場で何度かお見かけしてるんですよ。そんな方と共演できるのは嬉しいですね。キザに聞こえるけど役者には“芝居での会話”というものがあるんです。歌舞伎役者なら入ってきた瞬間に精神状態が分かるけど、初めての方だと何を考えてるかわからない。いい意味で、懐の探り合いを楽しめたら。それと、外部作品に期待するのは休演日(笑)。後は歌舞伎もそれ以外も、僕の中では同じ大事な舞台です」

コロナ禍によって、かつてない苦境に直面しているエンタメ業界。その危機感は歌舞伎界も同様だ。
「歌舞伎、下手したらつぶれますよ。皆さんは『歌舞伎なら大丈夫』って言うけど、松竹という一企業がやってるんだから、倒産すればなくなってしまう。去年の3月から7月は舞台が休演して収入がなくなって、バイトを始めた役者もいますしね。同じ伝統芸能でもお能や狂言の人は家に稽古場や鏡の間、能装束があるから、家族が集まればできる。でも歌舞伎役者はかつら一つ持ってない。歌舞伎というのはすべての専門職が集まらないとできないんです。歌舞伎役者の一人として本当に無力さを感じましたね」

演者も観客も、安心して芝居の世界に集中できる。今後はそんな環境作りも役者に求められる。
「今、歌舞伎座に出ていて思うのは、こっちも命がけだし、見に来る人も命がけ、ということ。今までの役者は芝居のことだけ考えていればよかったけど、これからはお客さんの安全を第一に考えなきゃいけない。時代は変わったなと思うね。だから『藪原』でも、上演時間にはこだわりたい。今は歌舞伎座でも、感染症対策のために長い作品はカットしていますから。井上先生は一言一句カットしちゃダメという方だけど、演出家やご遺族と相談しながら、どうしたらお客様が安心して過ごせるかを研究したい」

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『藪原検校』

1973年に初演された井上ひさしによる戯曲を気鋭の若手演出家・杉原邦生が演出。江戸時代中期、塩釜で盲目の赤ん坊が生まれた。生きる術を身に付けるべく、幼くして座頭・琴の市に預けられたその男児は、杉の市と名付けられる。目明きと対等になるには金の力で検校になるしかないと考えた杉の市は江戸へ向かい、殺しと欲にまみれた栄華への道を上り始める。

作:井上ひさし
演出:杉原邦生
出演:市川猿之助 三宅 健 松雪泰子 髙橋 洋 佐藤 誓 宮地雅子 松永玲子 立花香織 みのすけ/川平慈英

東京公演:2021年2月10日〜3月7日 PARCO劇場
名古屋公演:2021年3月9日・3月10日 日本特殊陶業市民会館・ビレッジホール
石川公演:2021年3月13日・3月14日 こまつ芸術劇場・うらら
京都公演:2021年3月18日~3月21日 京都芸術劇場・春秋座

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PROFILE/市川猿之助(いちかわ・えんのすけ)

東京都出身。1980年7月歌舞伎座『義経千本櫻』の安徳帝役で初御目見得。1983年7月歌舞伎座『御目見得太功記』で二代目市川亀治郎を名乗り初舞台を踏む。2007年、大河ドラマ「風林火山」で映像作品に初出演。2012年6・7月新橋演舞場「二代目猿翁 四代目猿之助 九代目中車 襲名披露公演」で四代目市川猿之助を襲名。立役から女形まで幅広く活躍し、現代劇や映画、ドラマにも出演。昨年はドラマ「半沢直樹」への出演も話題に。

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photograph:Kentaro Hisadomi (sputnik)
styling:Kazuya Mishima
hair & make-up:Yoshito Shiraishi
text:Hanae Kudo
大人のおしゃれ手帖 2021年3月号

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web edit:FASHION BOX

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