愛好家の想いが籠る一本。／マヂカルラブリー・村上さん
腕時計とは時を刻むだけなく、持ち主の想い入れも刻む存在だ。マヂカルラブリーの村上さんが愛用している時計と、その一本に出会うまでのストーリーを伺った。
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“いい時計を手に入れたい”、それが仕事を頑張るモチベーションになる
マヂカルラブリーの村上さんの左腕に静かに収まるIWCのヴィンテージウォッチ。1970年代製の名作と呼ばれるこのヨットクラブに出会うまでには紆余曲折があった。
「僕はひょっとしたら古い気質の芸人なのかもしれません。お笑いを始めた学生時代から、いつか売れたらいい時計を買うぞって決めていましたから。同期や後輩にこんなモチベーションを持っている人はなかなかいないかも。ずっと目標にしていた時計は、IWCのポルトギーゼでした」
2017年に初めて日本一の漫才師を決める大会「M-1グランプリ」の決勝に進出し、仕事も順調に増え始めたことから翌年に念願だったポルトギーゼを手に入れた。
「でも今は手元にないんですよ。後輩に預けて使ってもらっています。もっといい時計を買ったら返してくれよってハッパをかける想いで。時計にしても靴にしても、いいものを身に着けたら周りの目が変わると思うんですよ。やっぱり古い考えですかね？（笑）」
なんとも太っ腹な先輩である。その後、村上さんの腕に収まったのがA.ランゲ＆ゾーネのグランド・ランゲ1・ムーンフェイズ。いきなり雲上時計の頂点を手に入れたのだ。
「憧れの先輩、バナナマンの設楽さんがランゲ1を持っていらして、僕もいつかこの世界で大成したら手に入れるぞって決めていたんです。いつになるかと思っていたら2020年のM-1で優勝して、まとまった賞金が入った勢いで思い切って手に入れちゃいました。設楽さんと同じモデルが欲しかったんですが、よいタイミングでグランド・ランゲ1に出会ってしまって」
ところがまもなくインデックスが外れる故障に見舞われ、修理完了まで使えない状態になってしまった。
「それでグランド･ランゲ1を修理に出している間のつなぎとしてIWCのヨットマスターを手に入れたんです。文字盤の昔のロゴマークや、筆記体のブランドネームが魅力的でひと目惚れしました。思えば僕の時計の趣味嗜好は、超メジャーブランドすぎず、クラシックなデザインが好みなのかもしれません。“いい時計をしているぞ！”って主張したくないからだと思います。それもあってか、いつも時計の文字盤を手首の内側にして着けています。見せびらかさず、わかる人だけに気づいてもらえたらいいかなって。この着け方をしていると時計が見やすいし、時計をぶつけずにすむんですよ」
機械式時計にこれだけ想い入れを見せていると、周りからは時間を確かめるならスマホで十分だとか、時計を着けるにしても正確なクォーツでいいでしょうと言われるそうだ。
「機械式時計は時間がズレるからいいんです。もっというと壊れるからいい。そこが可愛く、愛着が湧く。大切に使い続けようという気持ちにもなる。これからも買い集めたいですね。次はブレゲかジャガー・ルクルトかなあ」
IWC（アイ・ダブリュー・シー）／ヨットクラブ
時計界のピカソと称される故ジェラルド・ジェンタ氏デザインの名作。搭載するムーブメントはCal.85系ペラトン式自動巻きのこれまた名品だ。「IWCの旧式のブランドロゴに惚れました。シンプルなデザインが好みなので、その点もドンピシャでした」
現在最も愛用しているIWCのヨットクラブ。手首の内側に文字盤がくるように装着するのが村上さんのマイルール。メリットがたくさんあるという。「目立ちすぎない、時間が見やすい、時計をぶつけにくいです」
M-1グランプリの優勝賞金で購入したA.ランゲ＆ゾーネのグランド･ランゲ1・ムーンフェイズ。知人のディーラーがグッドコンディションの個体を見つけてくれたそうだ。
グランド･ランゲ1のクロコダイルベルトはジャン・ルソーでオーダー。自分の手首周りにぴったり合うよう一つ穴にしているこだわりようだ。裏は汗が染みないラバー仕上げ。
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PROFILE／お笑い芸人 マヂカルラブリー・村上（むらかみ）さん
1984年、愛知県生まれ。法政大学のお笑いサークルHOSに所属し、大学お笑いサークルの全国大会で2005年、2006年と連覇。大学卒業後の2007年に野田クリスタル氏とお笑いコンビ「マヂカルラブリー」を結成。2020年にM-1グランプリで優勝を果たす。多数のテレビ番組に出演、MCなどで活躍中。
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撮影／大村聡志
取材・文／高橋政喜
（MonoMaster 2022年8月号）
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WEB編集／FASHION BOX
