「豆乳入り珈琲とダイヤモンド〜Thirsty Thirty, too Happy〜」 By LiLy

前半のあらすじ:
30歳を目前に控えたハルは、5年付き合っている4歳年上の彼と、刺激は少ないけれど平和な毎日を送っていた。今年に入って突如訪れたステイホーム期間中に、彼のあたたかさや優しさをあらためて感じ、なんてことのない日常こそが幸せなのだと気がついた。29歳を迎えるときにそっと胸にしまい込んだはずの結婚願望が込みあげてきて、思わずわたしから告げた言葉は、「結婚しよ」。でも、なぜだろう、幸せなはずなのに、頬を伝う涙が止まらない……。わたし、ちゃんと愛されているのかな?

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なんとなく婚約したのかもしれなかったが、わざわざ誰かに報告したいような気持ちには0.1ミリもなれないまま仕事をした。サロンの閉店後、誕生日を覚えていてくれた職場のみんなからサプライズで花束をもらった。嬉しかった。少し、泣いたくらいだ。そして、そのまま笑顔で職場を後にしたものの、家の最寄駅に着いた頃には気分はどこまでも落ちていた。

エミカがバースデーパーティを計画してくれているのは週末だけど、もしタイミングが合ったら今から会えないかと電車に乗る前にラインをした。でも、既読にならないので家の最寄り駅まで帰ってきてしまった。
もう先に帰宅しているという彼に、会いたくなかった。思い出したくないのに、今朝の彼の返事が脳裏によみがえってくる。なにが「いいよ」だ! ああ、また、泣きそう。

部屋の前で、鍵を手に持ったまま、もう10分以上が経つ。なんだかもう全てにガッカリだ。こんなことになるなら昨夜、誕生日のことをリマインドすればよかった。結婚はあなたから言ってという会話も、何度だって繰り返せばよかった。自分のこれまでの我慢を台無しにしちゃったことが、なんだかもう、とっても悔しい。でも、もう、いいや! 30歳、諦めスタート。ふぅん、そっか。これがオトナで、これがわたしの結婚か。

最低最悪な気分のまま、彼の顔すら見ずにベッドに潜り込んで眠ってやろう。昨日寝ていないから、身体のほうもヘトヘトなのだ。

鍵を回してドアを開けると、ガシャン!という金属音とともにドアを押し開けようとした手に衝撃が走った。チェーンがかかっている。こんなことは初めてで、一瞬、何が起きたのかわからなかった。

10センチの隙間から、部屋の中で彼がごそごそと何かやっている音がする。と、すぐに彼がこちらに走ってきて、彼の指がチェーンを外す。

 

ドアが開く。玄関にーーというよりも、ブーツを履いたわたしのつま先の20センチ前方にーー皿にのせられた丸いショートケーキが置いてある。「3」と「0」のカタチをした水色のロウソクが、2つの小さな炎をユラユラと灯している。

 

ーーーーー「遅くなってごめん」

 

そう言って彼は、ポケットから小さな四角い箱を取り出した。わたしは、ただただその場に立ち尽くす。目の前で、彼の指がゆっくりと箱を開ける。

「遅くなってごめん」

彼がまたさっきと同じセリフを繰り返す。たったの一言。だけど目の前には、光り輝く一粒のダイヤモンド。

「結婚」とか「誕生日」とか、この場においても言葉にできない彼のことが、突然、もうどうしようもなく、とてつもなく、心張り裂けそうなくらいに愛おしく、わたしは両腕を広げて彼に思いっきり抱きついた。

30歳になったばかりの、その夜。こんなに泣いたことないってくらいわたしはいつまでも泣き続けて、彼をすっかり困らせた。

それでも翌朝には、「はい。豆乳入り珈琲」「ソイラテ。どうもありがとう」といつもの目覚め。ただ、あたたかなマグカップを受け取るわたしの左手、薬指には生まれて初めてそこに輝くダイヤモンド。

パーティ会場のレストランに入るなり、エミカはわたしの指輪にピンポイントに向かって猛ダッシュで駆け寄ってきて、わたしの左手を両手で包みながら大喜びしてくれた。あまりのはしゃぎっぷりに、友達歴10年以上のわたしのカンがピンときた。

「なにか、いいことあったでしょ、エミカも」

他の友達には聞こえないように小さな声で言うと、更に小さな声でエミカがわたしに耳打ちする。

「実は、タイプど真ん中の方との出会いがあって。まだわからないよ。脈アリかどうかも全くわからない。でも、今度デートしようって誘われてて……」

「キャーー!!」

思わず叫んでしまったわたしに、エミカが「シッ!」と人差し指を自分の唇に押し当てる。

「なんか、もし上手くいったら、もう付き合うのすっ飛ばして結婚できたらいいなぁとかって先走って思ってる自分がヤバイッ!! ……まだ脈すらわからないのに!!」

「キャーーー!!それ、それ!! 世界で一番楽しい時期!! 恋愛初期!! 」

声を下げることなどできないくらい、どこまでもテンションが急上昇したわたしに釣られてエミカまで叫び出す。

「たまらーん!! この感じ、ちょー久々!! 生きててよかったー!!」

なになに、どうしたのよ?? 奥にいた女友達たちが、みんな弾けるような笑顔でわたしたちのまわりに集まってくる。いつも通りの歓喜の叫びをあげながら、わたしたちの30代が幕開ける。

【記事内で着用したリング】

Bouquet Rococo
ブーケ ロココ

プロポーズの言葉と共に贈られる花束がモチーフのリング。お花を丸く束ねたブーケのようなデザインは、何度見てもロマンティックな気持ちにさせてくれます。

リング[ブーケロココ]¥190,000~
Material: PT(プラチナ)

銀座ダイヤモンドシライシ

日本初のブライダルジュエリー専門店。ダイヤモンドとデザインをそれぞれ選べるセミオーダー方式だから、運命のリングが完成します。こだわりのダイヤモンドは、イスラエルの現地法人でバイヤーが厳選し買い付けるからこそ、高品質なダイヤモンドが豊富に揃います。運命の一石となるダイヤモンドの輝きをぜひ店頭で確かめてみて♡

お問い合わせ先
銀座ダイヤモンドシライシ 銀座本店
03-3567-5751
https://www.diamond-shiraishi.jp/

story_LiLy
Model_HARUMI SATO
Photo_KAORI IMAKIIRE
Styling_ETSUKO YAMAMOTO
Hair & Make-up_YUKI ISHIKAWA[Three PEACE]
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