『呪術廻戦』伏黒恵のモデルは安倍晴明？十種影法術「式神」との共通点は??

伏黒恵の十種影法術にみる「式神」

マンガとアニメ、ともに大ヒット中の作品『呪術廻戦』（「週刊少年ジャンプ」集英社）。主人公・虎杖悠仁（いたどりゆうじ）の同級生の伏黒恵（ふしぐろめぐみ）の術式・十種影法術（とくさのかげぼうじゅつ）は、呪術御三家のひとつ・禪院（ぜんいん）家相伝のもので、十種の式神を使役する呪術だ。式神の「式」とは「もちいる」の意味だ。陰陽道における式神には、神霊系と操作系の2種類がある。

『呪術の日本史』を購入する！

宝島社公式通販サイト「宝島チャンネル」から電話注文もOK◎ 詳しくはこちらをクリック
【TEL】0120-203-760
【受付時間】9:00～18:00（土日祝日を除く）
※電話注文でご利用いただけるお支払い方法は「コンビニ前払い」「NP後払い」のみ

古典『大鏡』『源平盛衰記』に登場する安倍晴明と式神

『大鏡（おおかがみ）』には次のような話がある。花山（かざん）天皇が出家した際に安倍晴明（あべのせいめい）の自宅の前を通った。

天皇の出家を霊力で察知した晴明は家の中で手を打って「車の用意をせよ。式神ひとり内裏（だいり）（宮中）へ参れ」といった。すると式神が戸を押し開けて出てきて「ただいま帝はご門前をお通りになりました」と伝えたという。式神は普通の人にはみえない神霊で、陰陽師の召使い的な役割を担（にな）った。

晴明は十二神将という式神を使役したとされ、『源平盛衰記』には晴明の妻が、式神・十二神将が家の中をうろつくのを恐れたため、普段は京都の一条戻橋（いちじょうもどりばし）の下に隠し、用事がある際に呪縛を解いて呼び出したとある。

この十二神将とは、陰陽師の占術に用いられる道具「式盤（ちょくばん）」に記された十二天将のことを指すとされる。また、『呪術廻戦』第117話に登場した十種影法術における最強の式神「八握剣（やつかのつるぎ）異戒神将（いかいしんしょう）魔虚羅（まこら）」のモデルは、仏教における十二夜叉大将のひとり・摩虎羅（まこら）と考えられる。

古典『宇治拾遺物語』に記された伏黒恵の式神

もうひとつの操作系の式神は、紙や木片などの無生物を陰陽師の呪力によって、動物などの姿に変えて操るもので、目的が達成するともとの紙や木片に戻る。『呪術廻戦』第7話に登場した十種影法術の式神・鵺（ぬえ）は骸骨（がいこつ）の面をつけた怪鳥だが、『宇治拾遺（うじしゅうい）物語』には次のような話が伝わる。藤原道長（みちなが）の依頼を受けて呪詛（じゅそ）をかけられたものを発見した晴明が、懐から紙を取り出して引き結んで呪文をかけた。すると紙は白鷺の姿へと変えて呪詛をかけた呪術師・蘆屋道満（あしやどうまん）の家へ降り立ったという。

また同じく『宇治拾遺物語』には、蔵人少将（くろうどのしょうしょう）が参内しようとした時、カラスが飛んできて汚物をかけた。晴明はこのカラスが式神であることを見抜き、死へと至る呪詛がかけられたことを少将に伝え、呪術によってその身を守った。晴明に見破られた式神は、呪詛をした者に逆戻りしたため、翌日懺悔して名乗り出たという。

式神にまつわる白犬と蝦蟇（がま）のエピソード

晴明のエピソードには、伏黒の十種影法術における式神のモデルがほかに2つある。
ひとつは偵察や戦闘などを行なう式神・玉犬（ぎょくけん）「白」だ。前述した『宇治拾遺物語』の藤原道長のエピソードでは、道長が法成寺（ほうじょうじ）を訪れたところ飼っている白犬が服を噛んで寺門に入ることを妨げた。こうしたことから道長は晴明に相談をしたという。呪物を察知した道長の白犬の姿は、索敵を行なう伏黒の玉犬「白」と重なる。

また、伏黒の式神のひとつに蝦蟇（がま）があるが、『今昔物語集』には次のような話がある。
ある日、呪殺について晴明に話を聞いていた貴族が庭にいる蝦蟇を殺すようにいった。気が進まないながら、晴明は草の葉に呪文をかけて式神にして飛ばした。そして草の葉が蝦蟇に触れた瞬間、蝦蟇はぺしゃんこに潰れて即死したという。

監修：加門七海

【Profile】
（かもんななみ）
東京都墨田区生まれ。美術館学芸員を経て、1992年『人丸調伏令』で作家デビュー。オカルト・風水・民俗学などに造詣が深く、作品にもそれらの知識が反映されている。他の著書に『うわさの神仏日本闇世界めぐり』『霊能動物館』『着物憑き』（以上、集英社）、『お祓い日和その作法と実践』『お咒い日和その解説と実際』（ともにKADOKAWA）、『加門七海の鬼神伝説』『大江戸魔法陣徳川三百年を護った風水の謎』（朝日新聞出版）などがある。

（抜粋）