「執着は捨てるのではなく捨てさせられるもの」 樋口恵子さんに聞く、楽しい生き方の秘訣

「憎らしいばあさんになって楽しく」 “年寄り反抗期”を90代目前の評論家・樋口恵子が分析

仕事や子育てなど、忙しい日々から抜け出した老後の人生。
自由に使える時間は増えますが、一方でどう過ごそうかと悩まれる人も多いはず。

そこで今回は老年期を楽しく生きる秘訣を、TJ MOOK『素敵なあの人特別編集 執着の捨て方』に寄稿している東京家政大学名誉教授で評論家の樋口恵子さんに教えてもらいました!

TJ MOOK『素敵なあの人特別編集 執着の捨て方』

シニアになれば、若い頃とは生活のリズムも、暮らしで大切にすべきことも変わってきます。無理なく楽しく、持続可能なシニア生活を送るために、溜め込んだ「執着」を手放してもっと自由になりませんか? さまざまなプロの視点から、頑固者になっていく原因を探りつつ、愛されるおばあちゃん&おじいちゃんになって、楽しく自由な日々を過ごしましょう。

加藤登紀子さん[歌手]、やましたひでこさん[断捨離®提唱者]、樋口恵子さん[評論家]、根本裕幸さん[心理カウンセラー]、矢作直樹さん[医学博士]、德田民子さん[ファッションコーディネーター]、山﨑美津江さん[家事アドバイザー]

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今は“年寄り反抗期” ! 執着は捨てるのではなく捨てさせられるもの/樋口恵子さん

「かわいいおばあちゃんになんてならなくていい! 」後期高齢者のありようを“ヨタヘロ期” と名付け、話題を呼んだ樋口恵子さんは現在、“年寄り反抗期” の真っ最中です。
イヤでも執着を捨てなければいけないときがくるのだから、今はやりたいことを全部やるつもりで生きてやる! 樋口さんの「理由なき反抗」は、とても楽しそうで、思わずマネしたくなります。

 

いずれ執着を捨てざるを得ないときがくる

執着を捨てるなんて考える必要はありません。執着は捨てさせられるもの。
いずれ、年をとるに従って、望まなくても執着を捨てざるを得なくなります。

たとえば私は声楽が好きで、上手とは言えないまでも、大学でコーラスに参加したり、年末年始には海外までオペラツアーに出かけたりしていました。私は人生設計をきちんとしていたので「年をとって海外に行けなくなったときのために」と、レーザーディスク(LD)を買い集めていました。1枚1万円くらいでしたから、毎月少しずつ、100万円近くをつぎ込んだかしら。

でも、そうしておけば、老後はゆっくりと家のソファでオペラを楽しめると思ったのです。ところが世の中は日進月歩。今やLDなんてどこにも売られていません。うちに何台かあるテレビのどれかにLDのハードが内蔵されているはずですが、このごろはかけることもない(笑)。LD自体は売ろうにも買う人がいませんから、家のどこかでホコリをかぶっていると思います。
そうやって、いずれ楽しもうと思った趣味も、技術の日進月歩によって再現すらできなくなったのです(笑)。

それと同時にオペラ仲間、うるさくもおもしろい極上の人間関係でしたが、そのなかに5~6歳年上の、とても人柄の良い女性がいらして。経済的に自立して社会的地位もある方で、彼女に頼めば海外の公演でも良い席を取ってくれたものです。それで10~20人のグループで観に行き、幕間にああでもない、こうでもないとおしゃべりをする。お友だちもできて、楽しい時間を20年くらい続けました。その方はお金持ちでしたから、お気に入りのスターの国際的追っかけもしていましたが、年をとるとやはり海外旅行は体力的に難しくなる。さらに、オペラには一幕が1時間程度ある演目がざらにあります。そうするとトイレがもちません。若いころと違って幕間に駆け込むのも競争が激しい。そのため、お金はあるのに、まず海外に行かなくなり、日本の公演にも行かなくなりました。今、彼女は亡くなり、オペラグループも自然消滅です。

今は皆さんも趣味をお持ちでしょう。けれど、今のような超高齢化社会では、それができなくなる日がやってきます。あとでのんびりやろう、なんて考えると、私のLDのように、古いものが使えなくなるし、新しく買い揃えようとすると、今度はお金がない(笑)。だから体が動くうちにやれることはやっておいたほうがいいのです。

 

憎らしいばあさんになって楽しく生きる

かわいいおばあちゃんになんてならなくていい。私はどれだけ憎らしいばあさんになって、家族と小競り合いをしながら楽しく生きるかということを考えています。我が家は娘とふたりで暮らしていますが、なんだって争いの種になりますからね。娘は医師で、仕事が忙しく、帰宅が遅いからもっているようなもの。どんなに彼女が忙しくても、労ったりはしません(笑)。だって、こちらは89歳ですよ。60代初めの娘に労ってもらわないと。だいたい、闘いを仕掛けるのは向こうなのよ。

「ほら、今朝も緑黄色野菜を食べていない! 」「最初に野菜サラダを食べて、牛乳を飲んで、そこから炭水化物を食べるべきなのに、あなたはいきなりパンをかじってるじゃないですか! 」というところから始まる(笑)。

もちろん、彼女は医者ですから言っていることは向こうが正しいのです。食べる順序によって胃酸の出方とか、栄養の吸収具合が違ってくるそうなのです。しかし、この説教調!
「はい、すみませんでした」なんて、絶対にならない!
「うるさい、つべこべ言うな、食べてしまえばみな同じだ! 胃のなかで消化の番号札を出すかよ! 」と、応戦し、朝から闘いが始まってしまうのです。

 

“年寄り反抗期” がやってくる!

“年寄り反抗期” がやってくる!

私たちが子どもを育てるときには、二度の反抗期を経験しています。それを上手に乗り切ることが「親の腕前」だと言われていました。一度目は2歳から4歳くらいにかけての、いわゆる「イヤイヤ期」。それを乗り越え、中学生くらいになると、思春期の反抗期がきます。男も女もブスーッとふてくされて口もききやしない。親よりも友だちとの付き合いが大切になって、友だちにはニコニコ、親には仏頂面という状態ですね。でも、これは正しく成長している証です。

二度の反抗期をやり過ごして、今度は――70歳をすぎると“年寄り反抗期” がやってきます。子どもが親に反抗する時期とは逆に、親が子に反抗する“親の反抗期” です。それを上手にいなすのは、子どもの役割なんです。
うちもそうですが、言うことはだいたい、子どものほうに理があります。うるさく言うのも、子どもが親のことを思っているからだということもわかります。

しかし、70、80にもなる親に対して非常に高飛車である! こちらは分別の盛りもとうにすぎた、尊敬されるべき高齢者なのよ(笑)。“先生” と呼ばれる人たちもたくさんいるわけです。そんな人に対してすべての子どもが高飛車です。指示・命令的です。

年寄り反抗期は、耳が遠くなるせいもあると、私は思っています。私は人に応対はできますけれど、発音が明瞭でなかったり、早口だと聞き取れないこともあります。うちの娘は医者のせいかとても早口(笑)。

「何を言っているのかわからない」と言うと、今度はわざと大きな声で「〇〇をなさい! 」と命令口調。
「親に対して『なさい』とは何事か。今後は母に対して指示・命令は禁止! 」

そこから悪口合戦、舌のちゃんちゃんばらばらです(笑)。
でも、これでいい。子どもの言うことになんでも「そうね、あなたの言う通りね」なんて言う親はいませんし、いたらボケています(笑)。

年寄り反抗期のもうひとつの理由としては、記憶力がなくなること。人によっては60すぎくらいから記憶力が衰えます。特に後期高齢者になると、認知症でなくても咄嗟の言葉が出てこなくなるし、少し前のことを忘れる。それを子どもは鬼の首を取ったようにワーッと責め立てます。それでまた頭にきてやり合うのくり返し。
私の場合は実の母娘ですが、嫁・姑の立場だと、お互いにそこまで言い合うことができずに、のみ込んでしまうでしょう。それがいかにストレスが溜まることか。ケンカができるだけまだマシなんです。

 

自分が老いた今、母の思いがわかってきた

自分が老いて、娘とぶつかるようになると、母のことを思い出します。
私は成績が良く、できの良い「自慢の娘」でしたから、若いころはそうぶつかることはありませんでした。
母の聴力と記憶力が衰えてきたころのことです。原因はささいなことでしたが、私が母に「きちんと片付けてちょうだい」と注意をしたことがありました。

すると母は「きちんと片付けた! 」と言い張る。本当に母は片付けを忘れていたのです。自分の衰えにショックを受けているところに、娘の私が居丈高になって責め立てたことがよほどこたえたのでしょう。それからいつまでも怒っていました。

でも、今になってわかります。母は専業主婦でした。忙しく働く娘を支え、家事を仕切ることが生きがいだったのが、年をとり、ひとつ、ふたつと失敗を重ねていきます。それはとても心細かったと思うのです。私自身も、もの忘れをしたときはショックですもの。ですから、今思えば失敗した母を慰めてあげればよかった。できたことは「お母さま、助かるわ」と評価してあげればよかったと思うことがあります。
私はこの年齢になっても仕事を持ち、やることがあるからまだいいのです。仕事優先の生活をしているから、娘とのケンカもほどほどですみます。

ですから、特にご家族と同居なさっている方は、仕事でもボランティアでも、何かやることをお持ちになったほうが絶対にいいです。忙しくしていれば、家族に忖度してストレスを溜めることもありません。

 

デイサービスを嫌がらず“ケアされ上手” になる

仕事をするのが無理なのであれば、行政やNPOなどのデイサービスに率先して行くことをおすすめします。デイサービスに行きたがらない人も多いようですが、それはダメ。

四六時中、家族と一緒にいたら、お互いに煮詰まって当然です。介護保険のデイサービスは、6時間は預かってくれますから、その間に子どもやお嫁さんもリフレッシュできて、かえってよくしてくれますよ。1日の半分を家にいるのといないのとでは大きな違いがあります。

特に、家で老後を過ごして、家族に看取られたいと思うなら、デイサービスに行くことを嫌がってはいけません。年寄り反抗期なんてどう転んでもかわいくないのですから、“ケアされ上手” になったほうが得です。

 

新しいコミュニケーション手段を考えていく

新しいコミュニケーション手段を考えていく

これから体が動かなくなることを考えると、ICT(情報通信技術・メールやSNSなどオンラインでのやりとり)も取り入れて、新しいコミュニケーション手段を持っていることも必要になると思います。都内で講演会を開くと、そこで私の中高時代の友だちと会うことができます。けれど、体が動かない友だちは来ることができません。会って話すことが難しいのであれば、別の手段を取らなければいけません。

なので、私もこれからパソコンとやらの勉強を始めることにしました。「高齢社会をよくする女性の会」でも勉強会を開いて、みんなで覚えていこうと思っています。じつは私はパソコンやらICTやらからは、逃げ切るつもりでいたのです。けれど、コロナで人に直接会うことも減り、「これはどうにも逃げ切れないのではないか」と。

もう、ここまできたら、パソコンから目をそむけてはいられませんね。だから、今、苦手意識を持っている方もぜひ勉強を始めていただきたいと思っています。

ともあれ、私は執着はありすぎるほどあります(笑)。
おいしいものも食べたいし、オペラにも行きたい。幸い、私はトイレが遠いので、昼間の良い演目には今でも行きます。先日は辻井伸行さんのピアノ公演を聴きに行き、その素晴らしさに改めてひっくり返りました。老いというものに捨てさせられることのほうが多いのですから、パソコンでもなんでも使えるものは付け加えて、取り入れて、令和の欲張りばあさんを目指しまーす! 今、執着できるものを手放さないようにしないといけませんよ(笑)。

女は60歳から!著名人らが月刊誌『素敵なあの人』の魅力を語る

 

樋口恵子(ひぐち けいこ)/Profile

樋口恵子(ひぐち けいこ)/Profile
1932年生まれ。評論家。東京家政大学名誉教授。「高齢社会をよくする女性の会」理事長。健康寿命と平均寿命の間にある10年を「ヨタヘロ期」と定義した『老~い、どん!』(婦人之友社)が話題に。最新刊『老いの福袋』(中央公論新社)は人生100年時代を楽しく過ごすヒントが満載!

 

(抜粋)

TJ MOOK『素敵なあの人特別編集 執着の捨て方』

シニアになれば、若い頃とは生活のリズムも、暮らしで大切にすべきことも変わってきます。無理なく楽しく、持続可能なシニア生活を送るために、溜め込んだ「執着」を手放してもっと自由になりませんか? さまざまなプロの視点から、頑固者になっていく原因を探りつつ、愛されるおばあちゃん&おじいちゃんになって、楽しく自由な日々を過ごしましょう。

加藤登紀子さん[歌手]、やましたひでこさん[断捨離®提唱者]、樋口恵子さん[評論家]、根本裕幸さん[心理カウンセラー]、矢作直樹さん[医学博士]、德田民子さん[ファッションコーディネーター]、山﨑美津江さん[家事アドバイザー]

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家と土地の断捨離で豊かなシニア生活を! やましたひでこが解説

 

[イラスト]上坂じゅりこ
[ライティング]萩原みよこ
[編集]山口未和子

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[WEB編集]FASHION BOX

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