前回の記事では、医師の長尾 梓先生監修のもと、生理の経血量が多い「過多月経」には血液疾患が潜んでいる危険があると触れました。症状の一つに過多月経がみられる血液疾患は、「血友病」「特発性血小板減少性紫斑病(ITP)」「白血病」などさまざまですが、今回特に知っていただきたいのはが「フォン・ヴィレブランド病」です。
未診断患者が多いと推測される フォン・ヴィレブランド病(VWD)
フォン・ヴィレブランド病とは、血中に存在する止血に必要なフォン・ヴィレブランド因子(VWF)が欠乏、あるいは働きが弱いために、血が止まりにくい先天性の病気です。耳慣れない病名ですが、なんと日本国内だけで推定未診断患者が約1万人*1 もいるといわれており、あなたも病気であると「気づいていないだけ」かもしれません。
「女性の場合は経血量が多すぎたとしても、異常な状態だと自覚せずに過ごしているか、または何かおかしいと思っても婦人科への通院を躊躇するなど、受診に至らないケースが多いと推測されます。遺伝性の病気のため母や姉妹も同様に経血量が多い場合があり、『そういうものなんだ』と思われていた患者さんもいらっしゃいました」と長尾先生。
過多月経の女性のうち、およそ13%がフォン・ヴィレブランド病の診断を受けたとの報告*2 もあるそう。自分がフォン・ヴィレブランド病だと知らずに、鉄欠乏性貧血症状(貧血)や生理の悩みを抱える未診断患者がかなり多く存在すると考えられます。
貧血でQOLが下がるだけでなく、出産・手術では出血の危険も
フォン・ヴィレブランド病は、フォン・ヴィレブランド因子の働きが弱い、または因子の量が少ないという病気で、1型~3型に分類されます。軽症の1型では鼻血が止まりにくい、あざが多いなど、粘膜系の出血症状がよく見られるそう。女性の場合は月経過多の原因になっていることも多く、それに伴って貧血による動悸や息切れ、疲れやすい、だるさなど、日常的に不定愁訴(なんとなく不調な状態)に悩む人も。
軽症で現時点では大きな支障がなかったとしても、怪我や事故にあったり、無自覚の未診断で手術や出産を迎えたりすると止血が難しくなるリスクもあるのだとか。
長尾先生も「女性は月経や出産があり、出血の機会が多い分リスクが高まります。また過多月経が収まらないときは、輸血や副作用の強い薬を飲んだり、子宮摘出に至ったりすることもあります。大変な思いをする前に診断を受けることが大切です」と警鐘を鳴らします。
心当たりがあれば、婦人科・血液内科へ
リスク回避のためには、チェックリストを使って、まずは自分が過多月経かどうか気づくことから。
【過多月経、フォン・ヴィレブランド病に起こり得る症状 チェックリスト】
① 生理で100円玉より大きい血の塊が出ることがある
② 生理で多い日にはナプキンを2~3時間に1回の頻度で取り換える必要がある
③ 生理が7日以上続く
④ 夜用・多い日用ナプキンを3日以上使っていたことがある
⑤ 貧血症状(めまい・息切れ・立ちくらみ・疲れやすい・頭痛)がある。または健康診断などで鉄欠乏性貧血を指摘されたことがある
⑥ 血が止まりにくい症状がある(鼻血、歯茎からの出血、切り傷など)。 または分娩時・手術時に指摘されたことがある
⑦ ぶつかった記憶がないのにあざがよくできる
⑧ 家族も血が止まりにくい体質だ
「思い当たる症状があれば、血液凝固に詳しい血液内科や婦人科に相談しましょう。もしフォン・ヴィレブランド病であれば、適切な治療を行うことで予期せぬ出血のリスクや、月経の悩みを軽減できるかもしれません」
出典:*1公益財団法人エイズ予防財団「血液凝固異常症全国調査」令和2年度報告書のVWD診断患者数、総務庁統計局人口推計(2021年8月1日現在)の総人口1億2530万人をもとに計算 *2 von Willebrand disease in women with menorrhagia:a systematic review Shankar M, et al: BJOG 2004; 111: 734―740
監修:長尾 梓先生(医療法人財団 荻窪病院血液凝固科)
熊本大学理学部大学院卒。熊本大学エイズ研究センターで研究に従事した後、信州大学医学部に編入。2009年卒業後に荻窪病院に入職し現職。専門は血友病、フォン・ヴィレブランド病をはじめとする血液凝固異常症、HIV感染症。
フォンヴィレブランド病.jp https://vonwillebrand.jp/
取材・文=リンネル編集部