唾液力を高めて感染症シーズンに備えましょう
風邪やインフルエンザに加え、新型コロナウイルスなど、感染の危機がより高まる寒い冬。元気に暮らすには、日々の暮らしで免疫力をキープすることが大切です。そんななか、最近、免疫力や全身の健康を左右することがわかり、注目されているのが唾液。感染症対策はもちろん、アンチエイジングにもなる、唾液力を高める習慣を始めましょう。神奈川歯科大学副学長の槻木恵一先生とTOKYO BREATH CLINIC院長の上田恵子先生に詳しくお話をうかがいました。
唾液の状態が、心身全体の健康に影響
「近年、唾液が虫歯や口臭など口内の環境だけではなく、全身の健康を左右する要素として注目されています。唾液の99%は水分ですが、残りの1%には、免疫力を高めるIgA抗体や、眠気をうながすメラトニン、粘膜を保護するムチンなど、様々な成分が含まれています」と、槻木先生。唾液には、グロースファクターと呼ばれる、肌の若さを保ったり、脳の老化を抑える成分も含まれています。唾液の量が少なくなり、自浄作用が弱ると、動脈硬化やがんなど、様々な病気を呼び寄せる原因にもなるのです。
現代人のライフスタイルとマスクで唾液力が低下!?
健康に大切な唾液ですが、現代人は唾液力が低下傾向なのだとか。
「唾液は1日1000~1500mLほど出ますが、PC作業などでうつむく姿勢が多いと、唾液腺が圧迫され唾液量が減ります。唾液の分泌は自律神経により調節されているので、ストレスも唾液を減らす原因に。また、マスクをしていると、のどの渇きに気付きにくかったり口呼吸になってしまったりと、口が渇く要素が増えて、唾液の分泌にはよくない環境なのです」と上田先生。
“唾液力”を上げると、感染症対策にもつながる
感染症が増える冬は特に、唾液力を高めて免疫力を鍛えることが大切。口は外界と接している部分なので、細菌やウイルスが体内に入らないように、IgAという抗体が門番の役割をしています。IgAは、口内で病原体などを発見すると、それにくっつき、体内に病原体が入り込まないように防御。IgAに囲まれた異物は洗い流されるので、感染しにくくなるのです。つまり、免疫力を高めるには、唾液の量を増やし、唾液に含まれるIgA抗体にしっかり働いてもらうことが重要。
「高齢者の死因に多い、誤嚥性肺炎も唾液力の低下が一因。唾液には、ほかにも様々な役割があり、若さと健康を守るカギを握っています」(槻木先生)。唾液の力を高め、健康を守りましょう。
万病に効く!? 「唾液力」とは?
唾液には、抗体であるIgAのほか、細胞の活性化や修復をうながすEGF、脳のストレス耐性を高めるBDNF、神経伝達物質の活動を助けるNGF、抗酸化物質のラクトフェリンなど、老化やストレスから体を守る物質が多く含まれています。
check! 当てはまる項目が多いほど要注意!
□咳が出やすい
□風邪をひきやすい
□毎年インフルエンザにかかる
□虫歯になりやすい
□口呼吸をしている
□口臭が気になる
□緊張しやすい
□ハミガキ回数が多い
□せっかちである
唾液力を高める生活習慣
量も質も充分な唾液にするためには、日々の生活習慣が大切。口が渇きがちなこのシーズンこそ、見直すチャンスです。
朝食前にハミガキをする
寝ている間は唾液が出にくく、口腔内で雑菌が増えていきます。これがねばつきの原因に。朝のハミガキは朝食後ではなく、朝起きてすぐに行うのが正解。夜も寝る直前が◎。
1口につき20回以上噛む
1日のうちで、いちばん唾液が出るのは、食事中。1口につき20回は噛むようにしてゆっくり食べると、唾液の力を高められます。主食はパンや麺より、ごはんがおすすめ。
夜スマホは厳禁
規則正しい生活習慣で自律神経を整えることが唾液の分泌には大切。朝は、太陽の光を浴び、夜眠る前はスマホなどを見るのをやめ、リラックス状態になることで唾液の分泌もスムーズに。
こまめに水を飲む
食事と食事の間は口が渇いています。朝のハミガキのあと、10時、15時、21時に水分補給をしましょう。利尿作用のあるお茶やコーヒーではなく、コップ1杯の水が◎。
ウォーキングやヨガなど軽い運動を
ウォーキングやヨガなどの軽い運動は、血行をよくして体や脳の機能をリフレッシュし、自律神経を高めます。マラソンなど激しい運動は、免疫力を下げるのでほどほどに。
深い呼吸を意識する
緊張すると呼吸が浅くなり、唾液の分泌も減ります。深い呼吸を意識すると、副交感神経が高まり、唾液も出やすくなります。口呼吸も口が渇く原因になるので、改善を。
ヨーグルト、乳酸菌をとる
乳酸菌を含む食品やヨーグルトを食べると、唾液の中のIgA分泌をうながすので、感染症を予防したい時季にぴったり。毎日食べ続けることが大切。
<TOPICS>R-1乳酸菌が唾液力をアップ!
インフルエンザA(H3N2)亜型に反応する唾液中のIgAの推移比較
出典:Acta Odontologica Scand.2019 May 16(一部改変) 1. 乳酸菌OLL1073R-1株を使用したヨーグルト 2. プラセボヨーグルト、1日1回100g摂取
被験者数:高齢者96名を2グループに分けて実施
R-1乳酸菌使用のヨーグルトを毎日とったグループと、ほかのヨーグルトをとったグループを3か月間比較した試験で、R-1乳酸菌のグループのほうが、唾液中のIgAの濃度が高くなることがわかりました。R-1乳酸菌は、IgAのほか、ウイルス感染した細胞を抑止する、ナチュラルキラー細胞を活性化する働きも見られています。
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いつでもできる「らでスマイル エクササイズ」。舌を、「ら」という音を発音するときのように持ち上げて左右に動かします。そのとき、口角を上げ笑顔の表情で。舌の動きがよくなり、唾液が出やすくなります。
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教えてくれたのは……神奈川歯科大学副学長 槻木恵一先生・TOKYO BREATH CLINIC院長 上田恵子先生
【PROFILE/槻木恵一先生】
歯学博士。専門分野は口腔病理診断、唾液腺健康医学。著書に『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』(扶桑社)など。
【PROFILE/上田恵子先生】
2002年新浦安デンタルクリニックを開業。口臭治療分野で全国1位の実績をあげ、2017年銀座で女性のための口臭専門クリニックを開業。
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illustration:Hitomi Hasegawa
text:Ema Tanaka
(大人のおしゃれ手帖 2021年1月号)
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