【鬼滅の刃】禰豆子はなぜ竹をくわえているの?日本史で読み解く意外な理由[教授 監修]

【鬼滅の刃】禰豆子はなぜ竹をくわえているの?日本史で読み解く意外な理由[教授 監修]

いま、日本中が熱狂する国民的マンガといえば『鬼滅の刃』(集英社)だ。昨年11月に封切られた劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』は、日本で公開された映画の最高興行収入記録を更新した。
『鬼滅の刃』の人気キャラクターといえば、禰豆子(ねずこ)だが、彼女の口かせには何故、竹が使われているのだろうか? 素朴な疑問を、日本史の視点から読み解こう!

※本文には一部、ネタバレとなる箇所があります。ご了承ください

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『鬼滅の刃』って、どんな話?

まずは『鬼滅の刃』を知らない人のために、物語の導入部分を少しだけご紹介しよう。

舞台は、今から約100年前の大正時代。東京・山梨・埼玉の都県境にある雲取山(くもとりやま)の山中で炭焼きをして生計を立てながら平和に暮らしていた少年・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)は、いつものように街に炭を売りに出た。しかし翌日、炭治郎が家に帰ると家族は鬼に惨殺されており、唯一の生き残りである妹の禰豆子は、鬼の血を浴びて鬼になっていた。炭治郎は鬼になった妹を人間に戻すために、鬼殺しを行う集団・鬼殺隊(きさつたい)に入り、鬼との戦いに身を投じる。

『鬼滅の刃』には、日本のさまざまな歴史が反映されているという。当時の民俗文化のほか、古くから継承されてきた神話も、話のモチーフとして取り入れられている可能性がある。
炭治郎と禰豆子の関係性も、日本の神話と似通った部分があるのだ。

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古代のヒメヒコ制と竈門兄妹

竈門炭治郎と妹・禰豆子のような男女きょうだいのペアは日本の古代や神話によく見られるパターンだ。邪馬台国の女王・卑弥呼(ひみこ)には弟がおり、卑弥呼が祭祀を、弟が実質的な政治や軍事を取り仕切る体制がとられてきたとする説がある。きょうだい関係にある男女の首長が「聖」「俗」をそれぞれ担当するという考え方で、「ヒメヒコ制」と呼ばれる。

 

禰豆子は巫女!?

日本神話においても、男女のペアが描かれていることが多く、古代日本においては男尊女卑的な考え方は薄かったことがわかる。例えば、日本列島や神々を生んだイザナキ(夫)とイザナミ(妻)、至高の神・アマテラス(姉)と地上世界へと降り立ったスサノオ(弟)、九州へと遠征した14代仲哀(ちゅうあい)天皇と神功(じんぐう)皇后などがいる。共通するのは、女性の方が目に見えない世界(神や死者の世界)と近い存在であり、神と人々をつなぐ巫女的な役割を担っている点だ。

『鬼滅の刃』においても、人間である炭治郎に対して、禰豆子は人間と鬼の中間に位置する存在である。第195話で描かれた、人間に戻る薬を投与された禰豆子の右目が人間の目、左目が鬼の目という半鬼半人の状態の姿は、禰豆子のキャラクターを象徴するシーンだ。「禰」とは神が宿る場所や人の代わりになるものを意味する漢字である。ちなみに豆は「魔を滅する」に通じることから、鬼除けとされる食物だ。神社では宮司を補佐する役職を禰宜(ねぎ)と呼び、この漢字が用いられる。このことからも禰豆子は、古代日本における巫女的な存在といえるだろう。

豆は鬼除けに効く!?
豆は鬼除けに効く!?

 

禰豆子が竹の口かせをしている理由は?

禰豆子のトレードマークといえば、竹製の口かせだろう。口かせに竹が用いられていることも禰豆子の巫女性を表している。竹や笹は古代から神が降りる神聖な植物とされる。
正月に玄関に飾る門松はその家に恵みをもたらす年神(としがみ)を迎えるための依代(よりしろ)(神が憑[よ]りつく対象物)である。また『竹取物語』で月の世界から追放されたかぐや姫が赤子となって竹から生まれる話も竹の神聖性を表している。
『古事記』や『日本書紀』に登場する最古の巫女・アメノウズメは、スサノオの乱暴に恐れを抱いて天岩戸(あまのいわと)に隠れたアマテラスを出すために、天の香具山(あまのかぐやま)に生える笹葉をとって舞ったと伝えられる。竹は禰豆子の巫女性を象徴するアイテムなのだ。

竹にはもうひとつの意味がある。竹は現在でも神事に用いられており、建物を建てる際に土地の神に許しをこう地鎮祭(じちんさい)などに用いられる。地鎮祭では四方に竹を立ててしめ縄を張って結界をつくるが、これには聖と俗の空間を分ける意味がある。神聖な竹で結界を張ることで禰豆子に宿る人間を超えた力を抑える効果があるのだ。

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(抜粋)

 書籍 「鬼滅の暗号」解読の書

書籍『「鬼滅の暗号」解読の書』
監修:瀧音能之

 

監修者 プロフィール

瀧音能之(たきおと・よしゆき)

1953年生まれ。駒澤大学文学部歴史学科教授。著書・監修書に『カラー改訂版 忘れてしまった高校の日本史を復習する本』(KADOKAWA)、『図説 出雲の神々と古代日本の謎』(青春出版社)、別冊宝島『古代史再検証 蘇我氏とは何か』『日本の古代史 飛鳥の謎を旅する』『ビジュアル版 奈良1300年地図帳』『完全図解 日本の古代史』『完全図解 邪馬台国と卑弥呼』、TJ MOOK『最新学説で読み解く日本の古代史』(すべて宝島社)など多数。

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編集:青木 康(杜出版株式会社)
執筆協力:青木 康、常井宏平
編集協力:小野瑛里子、阪井日向子

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WEB編集:FASHION BOX

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