鬼滅・炭治郎の柄、黒と緑の市松模様に秘められたメッセージとは?[歴史学科教授 監修]

【鬼滅の刃】炭治郎の羽織柄・黒と緑の市松模様に隠されたメッセージとは?[歴史学科教授 監修]

 

『鬼滅の刃』キャラの紋様に隠されたメッセージ

黒と緑の市松紋様といえば、今や誰もが『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が着る羽織をイメージするだろう。
世界にはさまざまなデザインの紋様があるが、日本ほど紋様の種類が多い国は珍しい。『鬼滅の刃』でもさまざまな伝統的な紋様が登場しているが、その紋様の意味を知ることで、そのキャラクターの特徴をより深く知ることができる。単行本に収録されているコーナー、「大正コソコソ噂話」でもキャラクターごとの紋様について紹介されていることから、それぞれの紋様は無意味に用いられたのではなく、キャラクターへのメッセージが隠されていると考えられる。

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竈門炭治郎の石畳紋

『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎の羽織の柄は、黒と緑の「市松紋様」である。
市松紋様は、2色の正方形または長方形の格子の目が色違いに並んでいる。古墳時代の埴輪の服装や、法隆寺や正倉院の染織品にも見られることから、古代から存在した紋様とされる。英語では「チェッカー」「チェック」などと呼ばれるが、これは同様の紋様をしたチェス盤からきている。チェスが由来ということで、勝負運に通じるともされる。モータースポーツのフィニッシュラインで振られるチェッカーフラッグも、2色(主に黒と白)の正方形または長方形が交互に配置された紋様である。

この紋様が「市松」の名で呼ばれるようになったのは、江戸時代中期頃である。当時、若衆形(わかしゅがた)や女形(おんながた)として人気を博した歌舞伎役者の佐野川市松の名前が由来とされている。寛保元年(1741)、市松は江戸の中村座で演じた『心中万年草(しんじゅうまんねんそう)(高野山心中)』の小姓・粂之助(くめのすけ)役で大当たりしたが、このとき、彼は白と紺の正方形を交互に配置した袴を穿いて登場した。これがおしゃれに敏感だった江戸の女性たちの間で大流行し、石畳紋様の小袖をこぞって着はじめたという。

江戸時代の歌舞伎は庶民にとって最大の娯楽で、役者はいわばスーパースターのような存在だった。彼らの一挙手一投足に注目が集まり、その姿を描いた役者絵も大ヒットした。歌舞伎役者たちの舞台姿だけでなく、楽屋での様子や日常の姿なども描かれ、現代でいうブロマイドのようなものだったが、役者絵に描かれた人気役者の髪型やかぶり物、着物の柄や帯の結び方、履き物などは、ことごとく大流行した。江戸時代の歌舞伎役者は、当時のファッションリーダーでもあったのである。
佐野川市松の姿も奥村政信や鳥居清重、石川豊信など、江戸時代を代表する絵師によって描かれた。このとき、正方形を交互に配した紋様も描かれ、「市松の紋様」として広く知られるようになる。いつしか「市松紋様」「市松格子」「元禄紋様」などと呼ばれるようになり、人気の柄として現在に至っている。

歌舞伎役者はファッションリーダーだった
歌舞伎役者はファッションリーダーだった

 

石畳紋は禰豆子の守護者を表している

市松紋様は同じ柄が上下左右途切れることなく続いていくことから、子孫繁栄や商売繁盛などの意味が込められている。五輪のエンブレムに採用されたことで話題になったが、「永遠」や「発展」、「繁栄」といった縁起のよいイメージが、採用の決め手にもなった。ちなみに、五輪のエンブレムの市松紋様は3種類の四角形を組み合わせてできているが、これは国や文化、思想の違いを示してる。「違いがあっても、それを超えてつながる」という、五輪の「多様性と調和」のメッセージが込められているのだ。

市松紋様は、元々は自然石を使って舗装された路面を図案化した「石畳」「霰(あられ)」などと呼ばれた。石畳は城や神社に用いられた。「【鬼滅の刃】禰豆子はなぜ竹をくわえているの?日本史で読み解く意外な理由[教授 監修]」という記事で、禰豆子(ねずこ)は目に見えない存在(神や鬼)と人をつなぐ巫女を象徴していることを紹介したが、石畳紋はまさに禰豆子という神聖な存在、神社の御神体に通じる参道をイメージできる。また垂直に線が並ぶ図式は、「九字切(くじぎ)り」と形が似ていることから、魔除けの力があるともいわれる。九字切りとは、「臨(りん)・兵(ぴょう)・闘(とう)・者(しゃ)・皆(かい)・陣(じん)・烈(れつ)・在(ざい)・前(ぜん)(行)」の九字の呪文を唱え、悪鬼怨霊を遠ざける護身法のことである。禰豆子の守護者である炭治郎にふさわしい紋様といえる。

また、市松紋様には魔除けの力があるともいわれるが、数々の激闘をくぐり抜けた炭治郎兄妹にも、そのご加護があったのではないだろうか。

 

(抜粋)

書籍『「鬼滅の暗号」解読の書』

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監修:瀧音能之

 

監修者 プロフィール

瀧音能之(たきおと・よしゆき)

1953年生まれ。駒澤大学文学部歴史学科教授。著書・監修書に『カラー改訂版 忘れてしまった高校の日本史を復習する本』(KADOKAWA)、『図説 出雲の神々と古代日本の謎』(青春出版社)、別冊宝島『古代史再検証 蘇我氏とは何か』『日本の古代史 飛鳥の謎を旅する』『ビジュアル版 奈良1300年地図帳』『完全図解 日本の古代史』『完全図解 邪馬台国と卑弥呼』、TJ MOOK『最新学説で読み解く日本の古代史』(すべて宝島社)など多数。

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編集:青木 康(杜出版株式会社)
執筆協力:青木 康、常井宏平
編集協力:小野瑛里子、阪井日向子

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WEB編集:FASHION BOX

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