南 果歩さん『大人のおしゃれ手帖』連載「I am Here!」
『大人のおしゃれ手帖』で連載中の南 果歩さんの「I am Here!」。今回は2021年のスタートに、いつも自身を励ましてくれる言葉とエピソードを綴っていただきました。
「これから」
さあ、新しい年が始まりました!
私は1月生まれということもあり、新しい年とお誕生日が共にやってくる、年末から新年にかけてのこの時期が大好き! 最もワクワクする季節です。
コロナに始まりコロナに暮れた2020年でしたが、新しい年を新鮮に迎えたいと思います。
だって、私たちは頑張った! 本当に頑張ってるもん! 不思議なことに私は、世界中の人達と2020年を共に駆け抜けた同志のような感覚を持っています。2020年は色んなことを立ち止まって考える時間を沢山もらった年でもありましたね。でも時間だけは平等にやってきては過ぎてゆく。だったら自身も気持ちよく、周りもハッピーになる方がずっといいと思うんです。
だから、まずは言葉。言霊。年末に新宿駅前にかかっていた広告に「ほめよう。2020年のわたしたちを。」という言葉がありました。私は感動してその場に立ち尽くし、しばしその広告を見つめていました。
たったこれだけの言葉が、私を含めて、どれだけ沢山の人の心を勇気づけることだろう。その新宿駅前の喧騒の中で、私は心の奥底にある一つの言葉を思い出していました。
「これから」
私のデビュー作は映画『伽倻子のために』。進学のために上京して1年後の19歳の時に、オーディション記事を新聞で見つけ応募したのです。
東京に出てきて初めて観た映画がすべての始まりでした。新宿の小さな映画館で上映していた『泥の河』。評判が評判を呼び映画館前には長蛇の列、その中に私もいました。こんな日本映画があったのかという感動と衝撃と共に、それまでは洋画一辺倒だったのが、邦画に興味を持つきっかけになった映画でした。それからは往年の名作を見るために名画座をハシゴしたり、その1年間で『泥の河』も4回も観ました。
そしてその小栗康平監督の第2作目のオーディションの公募記事に出合ったのです。
これは運命としか考えられない!
皆さんが想像するものとはかけ離れたオーディションを受けました。まず、履歴書と共に「私について」という作文提出。書類審査の後は会場に集められたのですが、セリフを読んだり演技をしたりすることは全くなく、中原中也の詩集を一冊渡されて好きな詩を読んだり、何かを考えながらこの会場の中を歩いてくださいとか。その後は個別に監督と会ってお話をする、それを繰り返すこと4ヶ月。華やかな発表も何もなく、ある日渡されたシナリオに自分の名前が印刷されていて、それで自分が選ばれたことを知ったのです。
初めての撮影現場に入ってみると、そこは想像を遥かに超えた厳しい世界でした。大学を1年休学して覚悟を持って入ったはずなのに、毎日監督に叱られ、自分の不甲斐なさに落ち込み、この撮影が終わったら綺麗さっぱりと辞めよう、でもこの役だけは人生をかけて全うしようと思っていました。毎日断崖絶壁に立たされているような緊張感の中にいました。
撮影も中盤に差し掛かり、冬の札幌のポプラ並木でのナイター撮影の準備をしていたとき、私は監督と火にあたりながら会話することもなくジッと本番を待っていました。普通の会話など怖くてできなかったというのが正直なところです。ナイターのライティングに気がついたご近所の人が数名、監督だとも知らずに声をかけてきました。
「誰が出てる映画ですか?」
「南果歩が出てますよ」
「知らないな。誰ですか、その人」
「この子が南果歩ですよ。この子はこれからだから」
そんな何気ない会話を交わしたのです。でも、私の心に「これから」という言葉がそのとき刻まれたのです。
「これから」いつも私はこの言葉に励まされてきました。「私はこれからなんだ」そう思える言葉をくださった小栗監督に報いるためにも、私は女優を続けてきたんだと思います。今年もそう。私はこれから! そう思っています。
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PROFILE/南 果歩(みなみ・かほ)
1984年、映画『伽倻子のために』で主演デビュー。第62回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した、ブリランテ・メンドーサ監督最新作『GENSAN PUNCH〜(義足のボクサー)』(日本、フィリピン合作映画/邦題は仮)、ダニエル・デンシック監督『MISS OSAKA』(デンマーク・日本・ノルウェー合作映画)がそれぞれ公開予定。
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photograph:Takashi Noguchi(San Drago)
styling:Kuniko Sakamoto
hair & make-up:Keizo Kuroda(K Three)
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