受けとめて、生きていく。
大人世代になると、つい臆病になってしまう「始めること」と「続けていくこと」。さまざまな変化を受けとめながら軽やかに生きていく心の持ち方を、小林聡美さんに伺いました。
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捉え方を変えれば日常は発見に満ちている
立春を過ぎ、光が少しずつ春めきはじめてきた某日。あたたかい季節を待ちわびながら、春らしいアイテムを着こなしてくれた小林聡美さん。パフスリーブのブラウスの袖を揺らしたり、ワンピースの裾をひらひらとさせたり。ちょっとおどけて、ポーズをとるたびに、現場が陽気な空気になっていきます。
この春には主演映画『ツユクサ』の公開が控えている小林さん。久しぶりにラブストーリーに挑戦することでも話題になっている作品です。松重豊さん演じる吾郎さんとの恋愛の部分は「恥ずかしかった!」と語りますが、演じたのは50歳を目前にした、何か過去のある主人公、五十嵐芙美。物語の冒頭から、人がいない田舎町、「断酒会」やひとり暮らしのアパート住まいなど、平凡な日々の中の影が描かれ、何かを背負っている女性だとわかる……。と同時に、隕石との遭遇や、新しい出会いなど、小さな奇跡が描かれていきます。小林さんにとってあまり出会ってこなかった作品だけに、戸惑いもありつつ「きっと動くものがある」と思ったと言います。
「この作品は平山秀幸監督が、10年間あたためていたそうです。大人の恋愛や、歳の離れた親友との交流、同僚たちとのやりとりなど、ファンタジーな部分とリアルな部分のバランスが面白い作品だと思いました。平凡な日常が、少しずつ動き出す感覚は、観る世代によって感じ方が違うかもしれませんね」
小林さんが演じた芙美はまさに『大人のおしゃれ手帖』読者世代。半世紀生きてきて、ひと通りの経験をして、ある意味「諦め」に似た気持ちが頭をもたげてくる。でもそんな日常に起こった小さな奇跡から物語が始まる映画は、「もしかしたら」と思わせてくれる希望があります。小林さんにとっては、少し前の年齢になりますが、50代をどう捉えているのでしょう。
「若い頃は自分の可能性が未知で、さまざまなことに挑戦したい気持ちのほうが大きいけれど、50年も生きていると、『このくらいだろうな』という雰囲気がわかってきてしまう。余計なダメージはできれば受けたくないし。そこに折り合いをつけていくのが40代の半ばくらいから、それを受け止めて生きていくのが50代なのかもしれませんね」。でも、それは諦めることとは違うと小林さんは続けます。
「できないのであればできないなりに始めてみるのもいいのではないかと思うようになりました。という意味で、私も諦めないようにしています。ガツガツした欲ではなく、小さく、始める。もしかしたら100年生きるかもしれないんですから、新しく始めないでどうする、と思います。経験していないことを始めるって、それだけで楽しいし、ワクワクするじゃないですか」
映画の中で描かれる大人同士の恋愛も、可能性が「ない」と思えばその扉は閉じるけれど、「ある」と思えば開いていくのかもしれません。
「恋愛自体は何歳になってもあるものだと思います。もちろん、若いときと違って、いろいろ複雑なこともありますし、あえて深く踏みこまないようにしてしまうのかもしれないですけど。まるっきり無邪気にというわけにはいかないですからね。でもその歳なりの感情を大切にすればいいのではないかと思います。関係を続けたいとか成就させたいと願うと、困難もあるかもしれませんが。大人ですから。カタチはたくさんありますよね」
思えば、コロナ禍になってから、「ないない」尽くしの日々が続いています。人に会えない、出歩けない、自由に話せない——。後ろ向きになれば、いくらでも思考はマイナスになるけれど、捉え方を変えれば発見の日々。
「外食をしなくなって、人と会わなくなって。世の中が静かになって、私自身は心が落ち着いた感覚がありました。年齢からくるものかもしれないですが、変な無理をしなくなりましたね。無理しなくていいと思えるようになったというか。シンプルな食事で満足できることもわかったし。以前は、なんであんなに凝った料理を外に食べに行っていたんだろうと思ったり。おかげさまで早寝早起きが身について、その生活のリズムが体にいちばんいいこともわかってきました。コロナ禍だからなのか、年齢による自然現象なのかわからないけど(笑)」
衣食住、人との付き合い。どのくらいが自分にちょうどいいのか。自分にとっていらなかったもの、逆に変わらず大切なものを知るための時間を持つことで、視界がクリアになっていきます。小林さんはコロナ禍でも変わらず、毎月の句会を続けているそうです。
「俳句を詠むことは季節をより意識するし、イメージを膨らませることなので、一日のうち数分考えるだけでも心が豊かになるんです。句会の仲間たちは、俳句が好きで続けている人ばかりなので、なんとしてでも続けようと努力しています。会えなくても、それこそオンラインでやろうとか。映画の中の芙美さんもそうですが、一人で暮らしていても、一緒に工場で働く仲間とか、さまざまなコミュニティーの中で人と向き合っているし、良い関わり方をしています。こもっているわけではないんですよね。上手にいろいろと受け止めて暮らしていって、無事に眠れて、朝起きられれば幸せです。イコール、生きているってことではないですか」
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INFORMATION/映画『ツユクサ』
監督:平山秀幸 脚本:安倍照雄
出演:小林聡美/平岩 紙、斎藤汰鷹、江口のりこ
桃月庵白酒、水間ロン、鈴木聖奈、瀧川鯉昇、渋川清彦
泉谷しげる/ベンガル、松重 豊
4/29よりロードショー
人生は小さな奇跡の連続でできている。隕石とぶつかった1億分の1の出来事も、草笛を吹けるようになった喜びも、思いがけない出会いも。ぜんぶ何てことない日常の延長線。長い人生の中で立ち止まり、幸せを見失うことがあっても、巡りあわせの奇跡をたぐりよせてまた前を向く力に変える。大人の心に寄り添い光を灯す、爽やかな物語。
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PROFILE/小林聡美(こばやし・さとみ)
1965年生まれ。『転校生』(82)で映画デビュー。以後、『かもめ食堂』(06)や『めがね』(07)、人気ドラマシリーズ「やっぱり猫が好き」(88〜91)など、数多くの映画やテレビドラマに出演。近年の作品に映画『閉鎖病棟―それぞれの朝―』(19)、『騙し絵の牙』(21)などがある。またエッセイなども執筆し『聡乃学習』(19)(幻冬舎)等、著書多数。
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photograph:Megumi Seki
styling:Noriko Fujitani
hair & make-up:Ichiki Kita
text:Masaki Takeda(mineO-sha)
(大人のおしゃれ手帖 2022年5月号)
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