南果歩さん『大人のおしゃれ手帖』連載「I am Here!」
『大人のおしゃれ手帖』で連載中の南果歩さんの「I am Here!」。ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、さまざまな場所でウクライナを支援する活動が行われています。果歩さんは映画を通して支援する「ウクライナ映画人支援緊急企画」に参加してきたそうです。いったい、どんなイベントだったのでしょうか。
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「ウクライナと映画」
私たちはニュースでロシアのウクライナ侵攻を見ています。映像で戦争を見ているというのは、とても不可思議なことです。日毎、戦時下と化していくウクライナを見続けることは余りにも辛いけれど、見ないという選択はできません。現実に目を背けることはできないからです。今、この地球上で決して起きてはいけないことが起きているのですから。
2022年2月24日から始まったロシアの侵攻ですが、すべてがこの日から始まったわけではなく、2013年以降のウクライナ危機、ウクライナの東部・ドンバス地方での混乱、クリミア地方へのロシアの軍事介入など、もうずっとずっとウクライナの地は、奪い合いの歴史が繰り返されてきたのです。
国境を越える女性と子どもたち、ウクライナに残り戦う男性、そして爆撃によって次々と破壊される美しい街並み。
ウクライナという国は一体どんな歴史を辿り、人々はどんな暮らしを送ってきたのだろうか――と、もっとウクライナのことを知りたいと思う気持ちが強くなっていました。
そんな時に、映画配給宣伝の仕事に関わる友人から「ウクライナ映画人支援緊急企画」のプロジェクトの話を聞きました。
2019年の東京国際映画祭のコンペティション部門に出品され、審査員特別賞を受賞したヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督の「アトランティス」(ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門作品賞受賞)と、2021年に製作された「リフレクション」(ヴェネチア映画祭コンペティション部門出品)という映画の上映会です。
東京国際映画祭のコンペティションディレクターの矢田部吉彦さんを中心として、この支援企画は立ち上がったそうです。映画を通してウクライナを支援していこうという新しい試みに、私は賛同せずにはいられませんでした。
その日、渋谷のユーロライブでイベントは行われました。数々のアート作品を世に送り出してきた、私も大好きな単館系の映画館です。
2本とも日本未公開で、この上映のために急遽ボランティアで日本語字幕をつけたそうです。
支援チケットは発売と同時に完売。ユーロライブは満員で、普通の映画上映とは違う熱気に包まれていました。この世界情勢が覆っている不安感以上に、同じ想いを持っている観客同士の連帯感が映画館を包んでいたのかもしれません。
映画上映に先立ち、今もウクライナのキーウ近郊にとどまっているヴァシャノヴィチ監督からのビデオレターが映し出されました。
その中で「日本人は戦争は何であるか、核戦争が何であるかを知っているはずです」「ウクライナの心の痛みを共有してくださる機会に感謝します」「今回の上映会で必ず葬り去らなければならない、醜い怪物に対する戦争があることを全世界に伝えることができました」と、監督は強い言葉で訴えかけていました。その表情と言葉から、今のウクライナの厳しい現実がヒシヒシと伝わって来ました。
「アトランティス」は、戦争が終わった2025年のウクライナを描いています。
戦争後、埋められた地雷を撤去したり、遺体の確認作業を行ったり、戦争は終結すればすべてが終わるものではないということ。それでも人々はその地で生きていく。そこには出会いがあり、心寄り添う瞬間もある。この映画の中で、私は今まで見たことのないような悲しくも美しいラブシーンを見ました。
「リフレクション」もまた言葉を失うほど衝撃的な作品です。ニュースだけでは想像しきれないウクライナがそこにありました。ぜひこの映画たちを日本で公開できるように私も引き続きサポートしていきたいと思っています。
そして、今もウクライナにとどまり戦時下の映像を撮り続けているヴァシャノヴィチ監督のご無事と、ウクライナの平穏が戻る日を祈っています。
「ウクライナ映画人支援緊急企画」の映画上映会にて。
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PROFILE/南 果歩(みなみ・かほ)
兵庫県出身。短大在学中に映画『伽倻子のために』(小栗康平監督、1984年)のヒロインオーディションに応募、主役に抜擢されてデビュー。Apple TV『PACHINKO』が全世界に配信中。第62回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した、ブリランテ・メンドーサ監督最新作『義足のボクサーGENSAN PUNCH~』が5月27日より公開。ダニエル・デンシック監督『MISS OSAKA』(デンマーク・日本・ノルウェー合作映画)が今年公開予定。エッセイ『乙女オバさん』(小学館)が好評発売中。
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photograph:Takashi Noguchi(San Drago)
styling:Kuniko Sakamoto
hair & make-up:Kei Kokufuda
text:Kaho Minami
(大人のおしゃれ手帖 2022年6月号)
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