吉田羊|演劇は“伝えられること”が醍醐味! 挑戦を続けて実感したこととは?[インタビュー]

吉田羊が「自分がいちばんうまい!」という考えを改めたきっかけは? [インタビュー]

感じ、考え、声を発する。そうすることで「今」を少しずつでも変えていけたら

恐れずに飛び込み、努力を続ければ必ず新しい世界が見えてくる――。俳優・吉田羊さんは、そうして確かに時を重ねています。同じ時代を生きる人に、届くように。今年、この夏も、挑戦をまたひとつ。

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時間をかけて取り組めばそのぶん、得るものが確実にある

吉田羊|演劇は“伝えられること”が醍醐味! 挑戦を続けて実感したこととは?[インタビュー]
Tシャツ¥11,000/ジャーナル スタンダード ラックス、パンツ¥59,400/メドモアゼル(ともにジャーナル スタンダード ラックス 表参道店)

「あー、生きてるっ!」

撮影中の吉田羊さんから、思わずそんな言葉がこぼれました。初夏の光があふれたスタジオでまとうのは、コットンやシルクのリラックスウェア。ヴィヴィッドな色も目を引きます。
「赤って、本当にエナジーカラーなんですよね。着ていると元気になってくる。でも、パンツの素材がシルクなので、軽くて滑らか。おかげで、ちょっとやさしい印象になりました」

多忙な日々の中のひとときのくつろぎを思わせる、リラックスしたコーディネート。元気をチャージしたら、また新しい作品に取り掛かります。全キャストを女性が演じて話題になった昨年のシェイクスピア劇『ジュリアス・シーザー』の興奮から半年あまり、早くも決まった次の舞台で吉田羊さんが飛び込むのは、18世紀半ばのイングランドの田舎町です。

英語の文語で「天空」を意味する『ザ・ウェルキン』は、ハレー彗星が75年ぶりに地球に近づくと予言された年に起こったある殺人事件を軸に展開する、スリリングな群像劇。幼女殺害を自白し死刑判決を受けた若い女性の妊娠を巡り、その真偽を明らかにすべく陪審員に任ぜられたのは、12人の市井の女性たち。彼女たちの多くが妊娠は死刑を逃れるための噓だと断じる中、吉田さんはただひとり彼女の擁護に乗り出す助産師・エリザベスを演じます。
「多勢に無勢でも自分の信念と意志を貫こうとするリジー(エリザベスの愛称)の強さは、とても凜々しく映ります。でも、話が進むにつれ、彼女を含め登場するキャラクターたちにはそれぞれに事情があり、私情があることもわかってくる。慈悲の心で事件に向き合おうとするリジーにしても、一見正しい人に見えて実は……と二転三転する展開。今目の前で見ていることがはたして真実なのか?という危うさを問う作品の中で、その最たる存在になるんでしょうね」

38歳の英国人劇作家ルーシー・カークウッドが描く、約300年前の女性たちが身を置く世界には、ジェンダーギャップや格差に基づくあらゆるハラスメントが横行。しかし、それが決して現代とかけ離れていないことは、私たちにもわかります。しかし、だからこそ今を生きる女性たちがその身と情熱を注ぎ込んで行う上演に、より強い意味が生まれるのではないでしょうか。吉田さんも、大きく頷きます。
「社会問題に通じるテーマを扱った作品に関わるとき、自分でも当然さまざまなことを考えますし、取材などの公の場でも『あなたはどう思いますか?』と問われたりもします。私が演じることによって誰かを傷つけてしまうかもしれないという不安もあるし、発した言葉がブーメランになって自分に返ってくる怖さも、正直、感じます。でも、だとしても……」

伝えることには意味がある、と吉田さん。
「その作品で、キャラクターを演じて発言し、伝えることが演劇にできることであり、醍醐味でもあると思うので……。私たちもきっと、稽古を進めながらさまざまなディスカッションをすることになるでしょうし、作品を届けることで観客の方々が感じたものをそれぞれに持ち帰ってくださる。そのことが、少しでも今の状況を変えるきっかけになってくれたらな、と。昨年の『ジュリアス〜』もそうですが、リアルな世界ではなかなか声にできないことを、演劇や音楽など表現を通して女性たちが声にする、今はそうした流れなのかなと、つくづく感じますね」

吉田羊|演劇は“伝えられること”が醍醐味! 挑戦を続けて実感したこととは?[インタビュー]

そして、流れを作るのは、連帯の力。演出家、力強い共演者たちとひとつになっての作品づくりは、きっと豊かな示唆を吉田さんにもたらしてくれることでしょう。「基本、自分以外は全員すごい人!だと思っているので」と吉田さん、気負いつつも、顔には笑みが浮かびます。
「昔はそうでもなかったんですよ。若い頃のあるときまでは、『自分がいちばんうまい!』なんて思ってたりして(笑)。でも、こうして俳優の仕事を続けることができて、多くのすばらしい才能を持った方々とご一緒する中で、そもそもチャレンジして何かを成し遂げた経験が自分には少なかったんだということに気づかされたんです。そうして、遅ればせながら自分には無理だと思っていたことにも挑戦を始めてみたら、きちんと時間をかけて努力をすれば、その分発見や手応えが得られるんだということも実感できた。ああそうなんだ、今目の前にいる方たちは、私がこれまでやってこなかったことを成し遂げてここにいらっしゃるんだと、素直に思えるようになって……。私にしても、この年齢で舞台の主演をやらせていただける未来があるなんて想像していなかったし、だからこの先も『もうないんじゃないか』という諦めだけはしたくないと思いますね。いくつになっても」

きっとできる。もっと遠くに行ける――そうして積み重ねてきた歳月は、今年でいよいよ四半世紀に。それを記念してのある企みが、実は現在、密かに進行中だといいます。
「活動25周年の記念に、今までやってこなかった“あること”に挑戦する場を用意しているんです。その瞬間を、これまで応援してくださった皆さんと分かち合えたらいいなと思って……。もうすぐお知らせできるかな? フフフ」

ひと足先に聞かせてもらったその内容は……予想以上に胸躍るもの、とだけお伝えしましょう。これからくる夏が、そして秋が、ますます輝かしい季節になりそうです。

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INFORMATION/舞台 『ザ・ウェルキン』

場所:Bunkamuraシアターコクーン
日程:2022年7月7日〜31日 *8月3日〜7日 大阪・森ノ宮ピロティホール公演あり
お問い合わせ:シス・カンパニー TEL:03-5423-5906

女性として生きるがゆえの葛藤と哀しみ、そして怒り。それぞれの感情を抱え、集まった12人の女性たちは、少女の犯した罪と罰にどんなジャッジを下すのか――。28歳の俊英、加藤拓也氏の演出と手練れ揃いの共演陣に「武者震いが止まりませんが、この方々とだから行ける、深いところまで到達したいと思いますね」と吉田さん。

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PROFILE/吉田 羊(よしだ・よう)

福岡県生まれ。オールフィメールの座組みで話題をさらった『ジュリアス・シーザー』のブルータス役で第56回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。最近の映像出演作に『妻、小学生になる。』『きれいのくに』『生きるとか死ぬとか父親とか』がある。俳優生活25周年特別企画の続報はInstagram(@yoshidayoh_official)、Twitter(@yoshidayoh)でぜひチェックを。

Instagram:@yoshidayoh_official
Twitter:@yoshidayoh

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photograph:Kayoko Asai
styling:Atsuko Saeki
hair & make-up:Masako Ide
text:Michiko Otani
大人のおしゃれ手帖 2022年7月号

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web edit:FASHION BOX

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