災害が発生して避難勧告が出されているのに、それに従わない人がいます。なかには逃げ遅れて被害に遭う人も……。こうした人たちは多元的無知と呼ばれる心理状態になっているのかもしれないと、心理学者の齊藤勇先生は言います。どういった心理なのか、教えていただきました。
≪目次≫
●多元的無知がもたらす思い込み
●みんなが逃げないなら大丈夫!?
●思い込みで本当のことがわからなくなる
●教えてくれたのは……
多元的無知がもたらす思い込み
多元的無知とは、社会心理学者のフロイド・ヘンリー・オールポートが提唱した概念である。AとBの選択肢があって心の中ではAを選んだ人が、「でも、みんなBを選んでいるんだろうな」と思い込んでいるような状況を多元的無知と呼ぶ。
ちゃんと話し合ってみれば実はみんなBのほうを望んでいるかもしれないのに、思い込みにとらわれているので、多元的無知となっているのだ。
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みんなが逃げないなら大丈夫!?
危機が迫っているのに避難しない人は、避難勧告が出されていることを知っていても、まわりの人が逃げていないので「だれも避難しないなら、大丈夫なんだろう」と判断してしまっているのだ。
こうした人もほかの人が逃げ出せば、危機が迫っていることを理解して避難することだろう。
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思い込みで本当のことがわからなくなる
「本当はだれも信じていないのに、だれもが“みんなそれを信じている”と信じている」といった状況が多元的無知。ほかの人には服が見えていると思い込む『裸の王様』は多元的無知を描いた物語だ。
多元的無知に陥っていると、「ほかの人が逃げないなら大丈夫なんだろう」と思い込んで、危機が迫っているのに避難しない。
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教えてくれたのは……
齊藤勇(さいとう・いさむ)
【Profile】
立正大学名誉教授。日本ビジネス心理学会会長。特に人間関係の心理学として対人感情の心理、自己呈示の心理などを研究。心理学番組の監修を務めるなど、心理学ブームの火付け役となった。主な編・著書・監修書に『イラストレート心理学入門』『イラストレート人間関係の心理学』(ともに誠信書房)、『やってはいけない ダークサイド心理学』『これならできる! 世界一やさしい心理操作テクニック図鑑』『人間関係のストレスが消える! 職場の心理術』(いずれも宝島社)など。
(抜粋)
書籍『イラスト図解 デマの心理学 怖い群集心理のメカニズム』
監修/齊藤勇
編集/木村伸司、大野はるか(株式会社G.B.)
執筆協力/龍田昇
WEB編集/FASHION BOX
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