【はじめしゃちょーも実践】「精子凍結」って何?医師がメリットとデメリットを徹底解説

前回の「卵子凍結」に続いて、今回は「精子凍結」をテーマにお届けします。最近では、不妊治療や卵子凍結、精子凍結について公に語る有名人が増えてきました。韓国の歌手ジェジュンが精子を凍結保存中だとバラエティー番組で明かしたり、人気動画クリエイターのはじめしゃちょーも昨年、精子の凍結保存を行ったことを動画で報告しています。

若い男性の間で関心が高まっている精子凍結ですが、実際にはどのような手順で行われ、どんなメリットやデメリットがあるのでしょうか? 今回は、東京都渋谷区にある不妊治療専門の「はらメディカルクリニック」院長・宮﨑薫先生にお話を伺いました。

はじめしゃちょーが精子凍結を決意した理由や、クリニックでの実際の様子、率直な感想を紹介した動画です。とても分かりやすく参考になる内容なので、ぜひご覧ください!

産婦人科専門医の宮﨑 薫先生が「精子凍結」を徹底解説

はらメディカルクリニック理事長・院長の宮﨑薫先生

Profile/宮﨑 薫(みやざき・かおる)先生
はらメディカルクリニック理事長・院長。医学博士。2004年慶應義塾大学医学部卒業。東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教、慶應義塾大学産婦人科助教。2020年5月より、はらメディカルクリニック院長に就任。常に患者さまファーストの医療・治療を心がけている。産婦人科専門医・指導医、生殖医療専門医、再生医療認定医、日本内分泌学会内分泌科専門医。

そもそも「精子凍結」とは?

「精子凍結」とは、採取した精子をマイナス196度の液体窒素で凍結し、保存すること。この方法により、精子は半永久的に保存が可能です。精子凍結の安全性は医学的に立証されており、安心して利用することができます。

「精子凍結」はどのような手順で行われるの?

ステップ1:初診の予約をする

まずは初診の予約を取り、精子凍結が可能かどうかチェックするための精子検査を受けます。

ステップ2:初診

予約日に来院し、精子を提出します。当日院内で採精する場合、メンズルームを案内してくれます。また、感染症の血液検査も行います。

  • 感染症検査(¥5,929) 
    HIV、HCV抗体、RPR、TP抗体、HTLV-1抗体(PA)、HBs抗原
  • 精液検査(¥ 9,240)
    検査方法:CASA(コンピュータ解析検査)+ 細胞染色検査
    測定項目:精液量、精子濃度、精子運動率、正常形態率etc.
  • 精液検査+DFI検査(¥27,940)
    検査方法:CASA(コンピュータ解析検査)+細胞染色検査 + フローサイトメトリー
    測定項目:精液量、精子濃度、精子運動率、正常形態率etc.  + DFI(精子のDNAの損傷率)

ステップ3:検査結果を受け取る

精子検査と感染症検査の結果は約2週間程度で郵送されてきます。

ステップ4:精子凍結の予約をする

検査結果に問題がない場合や、治療後に問題が解決した場合は、精子凍結の予約を取ります。

ステップ5:精子凍結

予約日に再度来院し、精子を提出します。凍結費用は1アンプル(2mL)1年間で¥11,880(税込)です。支払い時に精子凍結に関する同意書を提出します。

精液は取り違いを防ぐため、必ず2名1組で指さし確認を行われる

マイナス196度の液体窒素で凍結保存される精子

精液は取り違いを防ぐため、必ず2名1組で指さし確認を行います。その後、顕微鏡で良好運動精子の数をカウントし、遠心分離器で洗浄・濃縮を行い下準備をします。最終的に、マイナス196度の液体窒素で凍結保存します。

「精子凍結」のメリット、デメリットは?

メリット① 将来的な生殖能力の確保

将来病気や治療、加齢による精子の質の低下があっても、若く健康な精子を保存しておくことで、子どもを持つチャンスが増えます。卵子ほど年齢の影響は大きくないものの、年齢を重ねると染色体異常のリスクがわずかに上がるため、若いうちに精子を凍結しておくことには臨床的にも一定のメリットがあります。

メリット② 不測の事態に備えられる

ケガや病気で生殖能力が低下する可能性がある場合、事前に精子を保存しておくことで安心感を得られます。将来何が起こるかわからないため、急に抗がん剤治療が必要になった場合などにも対応できる点が大きなメリットです。

デメリット① 費用がかかる

初診や検査、精子凍結自体にかかる費用や、保存期間に応じた保管費用が必要です。

デメリット② 精子の質に影響が出る可能性もある

凍結精子を使用する場合は、女性側は人工授精、あるいは、体外受精・顕微授精のような治療が必須となります。凍結と解凍の過程で運動精子の数が減少するため、新鮮な状態の精子であれば人工受精や体外受精が可能だった精子が、顕微授精でしか使えなくなることがあります。また、凍結や解凍時に行う遠心分離操作で精子にダメージが加わる可能性も少なからずあります。

凍結後の精子はどのくらいの期間保存できるの?

精子凍結は学会の規定により、生殖年齢まで保存が認められています。はらメディカルクリニックでは、その期限を65歳の誕生日前日までと定めています。また、所有者が亡くなった場合、凍結された精子は破棄されることになります。所有者の配偶者や家族であっても、使用や保管はできないので注意が必要です。

精子凍結による妊娠率は? 新鮮精子と凍結精子では妊娠率が違う?

精子凍結による妊娠率は、新鮮精子と比較しても大きく変わらないとされています。凍結精子を用いた場合でも、高い妊娠率が期待できます。具体的な妊娠率は、個々の健康状態や治療方法に依存しますが、最新の技術と方法を使用することで、凍結精子でも十分に成功する可能性があります。新鮮精子と凍結精子の違いを気にする必要はほとんどありません。

精子凍結にはどのくらいの費用がかかるの?

精子凍結の費用はクリニックによって異なりますが、はらメディカルクリニックの場合、1アンプルの保存費用が1年間で ¥11,880(税込)です。凍結期間が満了する前に、クリニックから「保存継続の確認通知」が届きます。その時に、保存を続けるか、破棄するかを決めることができます。継続する場合の費用も、1アンプル1年間で ¥11,880(税込)です。

どのような状況で精子凍結を考えるべき?

精子凍結を検討する状況として、以下の4つのパターンが考えられます。クリニックによっては未婚男性の精子凍結に対応していない場合もありますが、はらメディカルクリニックでは、既婚・未婚問わず対応しています。

  • 既婚男性の精子凍結
    不妊治療において、人工授精や体外受精の当日に精子を用意できない場合でも、事前に凍結保存しておくことで対応が可能。また、精子の質が低い場合でも、複数の凍結精子を使用することで人工授精・体外受精が成功することがあります。ただし、加齢による精子凍結はその必要性をよく検討する必要があります。凍結精子は解凍時に一定数が死滅するため、若い頃に凍結した精子が、年齢を重ねた後の新鮮な精子と比べてどれだけ優位かは明確なデータがありません。卵子は年齢による影響を強くうけるため凍結保存が有効ですが、精子はそれほど大きな影響は受けないと考えられます。
  • 未婚男性の精子凍結
    仕事のリスクやその他の理由で将来の精子形成障害が心配な場合、未婚男性も精子を凍結することが可能です。こちらも加齢による精子凍結の必要性をよく検討してください。凍結精子は解凍時に一定数が死滅します。若い頃に凍結した精子が、40歳以上の新鮮な精子と比べてどのくらい優位かについては明確なデータがありません。
  • 病気治療による精子形成障害に備えた精子凍結保存
    精巣腫瘍、悪性リンパ腫、白血病などで抗がん化学療法を受ける場合、将来的に精子形成が阻害されるリスクがあります。抗がん化学療法後は、自然妊娠が難しくなるため、治療開始前または直後に精子を凍結保存することが推奨されます。
    ※はらメディカルクリニックではなく、指定医療機関での受診が必要です
  • MTF前の精子凍結
    MTF(男性から女性)に性別適合手術を行う前に、女性ホルモンの投与で精子の形成機能が低下する前に凍結保存することができます。理想的には女性ホルモン投与前に精子を凍結しますが、既にホルモン投与を始めている場合もまず精子検査を行い、その状態を確認してから凍結を検討します。

精子凍結を検討する際のクリニック選びのポイントは?

どのクリニックでも精子凍結は可能ですが、解凍後に体外受精が必要になる場合を考えると、体外受精の実績が豊富なクリニックを選ぶと安心です。ただし、体外受精を行っていないクリニックでも、凍結した精子を他の施設に移送できるため、その手間が気にならなければ、自宅近くのクリニックを選ぶのも良いでしょう。

高レベルの不妊治療を提供「はらメディカルクリニック」

東京都渋谷区の不妊治療専門クリニック「はらメディカルクリニック」

JR代々木駅から徒歩5分、東京都渋谷区の不妊治療専門クリニック。「最先端の医療で最短の妊娠を」という方針のもと、患者さん一人ひとりに最適な治療プランを提案。温かく居心地の良い雰囲気のなかで、専門の医師とスタッフが親身になってサポートしてくれる。

住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷5-8-10
電話:03-3356-4211
診療時間:月~木 8:30~19:00(採血受付時間~20:00)、金・祝 8:30~14:30、土 8:30〜16:00
休診日:日曜
※ 診療は完全予約制
URL:https://www.haramedical.or.jp/

いかがでしたか? 最近では、不妊の原因の約半分が男性側にあるといわれています。将来子どもを持ちたいと考えているなら、パートナーの有無にかかわらず、一度自分の精子の状態を確認することが重要です。「精子凍結」を行うことで、将来の選択肢が広がり、ライフプランを柔軟に考えられるようになります。後になって焦らないためにも、ぜひ早い段階で「精子凍結」という選択肢を検討してみるのもいいかもしれません。

取材・文=鈴木恵理子

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