コスメ会社がホテルアメニティやSPAを提供するだけでなく、宿泊施設そのものを手がけるケースは、国内外に数多あるけれど——。これほどまで、プロダクツの背景を近くに感じながら、心なごむ滞在を楽しめる宿は稀有かもしれません。
今回ご紹介するスモールラグジュアリーな宿は、国産カモミール(和名カミツレ)の入浴剤やスキンケアが人気のブランド『華密恋(カミツレン)』を五感で堪能できる「八寿恵荘」。ハーブの里として知られる、長野県北安曇野郡池田町のなかでも、北アルプスの山々に囲まれた高地「カミツレの里」にある、客室数7の宿泊施設です。
約4万坪の豊かな自然に抱かれて、静かにたたずむ「八寿恵荘」は、2015年にリニューアルオープン。建物や気になるお風呂などは、のちほどじっくりご紹介しますが、宿に着くと青々と広がる「有機栽培のカモミール畑」やリスたちが遊びに来る「ツリーハウス」に目を奪われます。
『華密恋』が製品に使用しているのは、全てジャーマンカモミール。1年草なので、毎年5月中旬から6月には可愛らしい花が満開を迎え、収穫されます。『& ROSY』がこの地を訪れた10月中旬は、来年の開花に向けて、新芽が順調に成長しているところ。厳しい冬を乗り越えることで、“陽のエネルギー”たっぷりの力強いカモミールが育つのだそう。
標高850メートルの澄みきった空気を胸いっぱいに吸い込んで
「カミツレの里」には「八寿恵荘」を囲むように、「カミツレエキス製造工場」が存在。お散歩がてら山の上に向かうと、池田町のシンボル「七色大カエデ」があり、もうひとつの広大な「有機栽培のカモミール畑」を見ることができます。ここからは、早朝になるとかなりの高確率で“雲海”が見られるそう。「明日は早起きして、朝日と雲海をここで見よう!」と心に決めた瞬間です。
オーガニックのカミツレエキスが誕生するまで
ところで、『華密恋』のスタープロダクトである「華密恋薬用入浴剤」が誕生したのは、今から40年以上も前の1982年のこと。“オーガニック”という言葉が日本に浸透していなかった当時、「本当に確かで安心なものを作り、皆さまのお役に立ちたい」と原料、しかも土壌からこだわり、製法を研究したのが創業者の北條晴久さんでした。
出身地である池田町でカモミールの有機栽培をスタート。手間暇のかかる独自の製法で、高濃度のカミツレエキスを抽出することに成功。現在はその志を娘の北條裕子さんが引継ぎ、みんなのふるさとのような存在になってほしいと「八寿恵荘」をリニューアルしたのです。ちなみに“八寿恵”とは、裕子さんのおばあ様の名前からいただいたのだそう。
地産地消の素材を活かした宿の、優しい温もりに包まれて
さて、チェックイン時には、ふわりとよい香りが鼻腔をくすぐるウェルカム・カモミールティーを。アレルギーをお持ちのお客様はもちろん、全ての人に安心して心地よく過ごしてもらいたいから——とリニューアルを機に、建物は地元の無垢の木材や漆喰の壁、天然素材がベースの塗装剤を使用。肌触りのよい池田町産アカマツの無垢材を使用した床は、冬場は環境に優しい木質チップボイラーの床暖房で、自然な暖かさを24時間キープしています。なめらかな木肌はすべすべでとても気持ちがよいので、ぜひ裸足でどうぞ。思い思いの時間を過ごすことができる、ハンモックやヨガマット、ピアノがある多目的ルーム「ふれあいの間」の大きな窓からは森が見え、ときおり小鳥のさえずりや小動物の鳴き声も聞こえてきます。
“おばあちゃんち”に遊びに来たような居心地のよさ
客室はそれぞれ趣きが異なり、宿の建材に使われている8種類の木材の名前がついています。部屋タイプは、ひとり旅用のコンパクトなものから、家族旅行やグループ旅にも対応できる二間続きの広々としたものまで。2階の和室は、全て共有の洗面所・トイレになりますが、1階には畳ベッド×2でバリアフリー/トイレつきの洋室もあります。どれも木の温もり、自然の優しさを感じるシンプルで落ち着いたい内装。ふっと香る木やカモミールの香りに、まるで森林浴をしているかのような感覚に。部屋にはテレビや冷蔵庫はなく、館内にも自販機がありません。あるのは虫の音や風に揺れる木々のさざめきなど。ここなら、デジタルデトックスも簡単にできそうです。※でも無料wi-fiは完備しています
シンプル、ミニマムだけど、こだわりが詰まったアメニティ
各部屋に備えつけのオリジナルバスタオルは、ふわふわのオーガニックコットン100%。可愛いイラスト入りの手ぬぐいは、旅の思い出と一緒にお持ち帰りを。寝具もオーガニックコットンで、優しい琥珀色の枕カバーは“カミツレ染め”なのだそう。ただし、館内着の用意はないので、お気に入りのパジャマやルームウエアを持参しましょう。2階の共有洗面所には「華密恋」のスキンケアシリーズがずらり。好きなだけ使い心地をお試しできます。
「華密恋の湯」でカモミールのパワーを全身に浴びて
1階の奥にあるのが、北アルプスが磨いた清らかな水を、環境に優しいバイオマス燃料で沸かした「華密恋の湯」。高濃度のカミツレエキス「華密恋薬用入浴剤」を贅沢に入れたお風呂は、約38℃の穏やかな湯加減。緊張がふわりと解けるカミツレの香りとほんのり琥珀色のお湯は、温度が低めで身体の負担が少ないこともあって、ずっと入っていられます。お喋りしながら気づくと45分間が経過! 晩御飯の時間に遅刻しそうになるほど、のんびりと芯まで温まることができました。入浴剤が入っていない浴槽は、もう少し高めの温度設定に。また、「カミツレエキスのやさしさとパワーを全身に浴びることができる!」と好評のミストルームは、女湯だけの特権です。
「八寿恵荘」は、ピンクリボンのお宿に加盟しています
脱衣所にも「華密恋」のプロダクツがずらり。カミツレエキスを配合し、天然成分100%にこだわったスキンケアアイテムやヘアケアアイテムなど、フルコースで試すとお風呂上りの肌はさらにしっとりなめらかに~。そうそう、脱衣所には乳がんのしこりの模型「NADETE」がさりげなく置いてありました。じつは「八寿恵荘」は、ピンクリボンのお宿に加盟。「乳がんサバイバーツアー」も企画。心とからだのリカバリーに、里山の豊かな自然と「華密恋薬用入浴剤」がとても喜ばれているのです。コロナ休業から待ち望まれていた「日帰り入浴」もついに再開。日帰り入浴は毎日の営業ではないので、HPなどで日時をご確認くださいね。
暖炉の炎を眺めながら、会話を楽しんで
さて、1階のメインスペースは、たたみと薪ストーブが寛ぎの時間を約束する「らうんじ」と「だいにんぐ」。ブックシェルフやベンチなどの家具は、すべて地元の木材を使ったオリジナル。「らうんじ」では食後にストーブの炎を眺めつつ、カモミールティーをいただくと夕食の消化もスムーズになり、安眠効果も期待できます。あるいはスマホをオフして、本の世界に没頭するのも善き。夕食、朝食は「だいにんぐ」でいただきます。お子さんも安心して座れる高さを考慮した、木のテーブルとイスがゆったりとした間隔で並んでいて、とにかく居心地がいいんです。
オーガニックな食事でからだの内側からも美しく
「八寿恵荘」の食事は、無農薬野菜や有機米を中心に肉や魚、調味料も厳選したからだに優しい料理。とは言え、ごらんの通り、ストイックすぎることなく、品数は豊富でボリュームもしっかり。夕食は、デザートと食後の飲み物がついたバラエティ豊かな和食。地元の老舗酒蔵「大雪渓」の生酒(1,200円)やオーガニックのFujiビール(900円)など、アルコールもあります。朝食は、季節の野菜のせいろ蒸しや米粉のパンなど、こちらもからだに優しいメニュー。滋味あふれる食事を味わいながら、ゆったりした時間の流れに癒やされるひとときでした。
カミツレエキス製造工程がわかるファクトリーツアーも!
「八寿恵荘」の隣にある「カミツレ研究所」では、カミツレエキス製造工場の見学ができると聞き、さっそく訪問。毎年、種蒔きから始まり、収穫したカミツレを選別し、熟成とろ過を繰り返す——。その真面目で、いまとなっては贅沢な製法が「華密恋」が長年愛される理由であり、実感力の高さなのだとわかります。宿泊客には、カモミールからエキスを抽出し、お風呂2回分の入浴剤をつくるプログラム「カミツレ入浴剤の製作体験」も(1,000円/10:15~10:35 要予約)。
「華密恋」の故郷で里山の自然に触れ、地産地消の滋味をいただき、カミツレの恵みを全身で感じる滞在は、“本当の豊かさ”“心からのリラクゼーション”を思い出させるものでした。これから迎える冬の季節、1泊でもリセット効果は十分ありますが、「八寿荘」では“オーガニックハーブの湯治”感覚で、2泊、3泊するリピーターも多いそう。“肌”は人のからだ全体を包む“臓器”であり、不調が現れやすいホリスティックなパーツ。肌に気になることがある人も、美肌を保ちたい人にも、オススメです。
DATA
カミツレの宿 八寿恵荘
住所:〒399-8604 長野県北安曇郡池田町広津4098
電話番号:0261-62-9119
公式サイト:https://yasuesou.com/
電話予約:一の湯グループ総合予約センター
TEL:0460-85-5331(10:00~17:00)
宿泊料金:1泊2食つき 洋室ツイン2名43,164円~(税込)
チェックイン:15:00から チェックアウト:10:00まで
アクセス:「安曇野IC」から車で約30分。電車でお越しの場合は「JR信濃松川駅」からバスまたはタクシーで約20分。詳細はこちらをご確認ください。
text:MANAMI ARITA
web edit:& ROSY編集部
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