メンテック、TENGA、マスターベーション

専門家が解説!マスターベーションの世界に迫る!遺伝子から見る意味、社会的意識の変遷を解明!

『メンテック』という言葉は、男性特有の健康課題をテクノロジーで解決する分野を指し、昨年末に発表された日経トレンディの「2023年ヒット予測ランキング」でも注目を集めました。今回は『月刊TENGA』から、その中でも特にマスターベーションに焦点を当ててご紹介。マスターベーションという一般的な日常行為について、動物行動学、社会学、医学それぞれの分野の専門家に聞いた興味深い話が盛りだくさんです。

出典:月刊 TENGA 第 15号

「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」がビジョンのアダルトグッズメーカー・TENGAが定期的に発行しているニュースレター『月刊TENGA』。TENGAの製品やニュースだけでなく、性にまつわる様々な調査結果やユニークな切り口の情報を発信。めちゃくちゃ面白いのでぜひご一読を!

01 遺伝子は 「性を楽しむこと」を求めている?

「マスターベーションは人間だけの特権なのか?」という疑問について、動物行動学者の竹内久美子先生に答えてもらいました。動物たちの知られざるマスターベーション事情が明らかに。

教えてくれたのは……竹内久美子先生

Profile/竹内久美子(たけうち・くみこ)
1956年愛知県生まれ。動物行動学研究家。京都大学理学部、同大学院博士課程を経て著述業に。著書に『男と女の進化論』『そんなバカな!』等。

動物も“道具”を使ってマスターベーションを楽しむ

Q.  動物もマスターベーションをするのですか?

A.  哺乳類の多くがマスターベーションをすることが分かっています。類人猿は手や尾、象なら鼻など、自身の発達した器官を器用に使って行うことが分かっています。

Q.  発達した器官を使うとのことですが、人間同様、“道具”を使う動物もいますか?

A.  はい、います。例えば、水族館のイルカが水流を身体に浴びて気持ち良さそうにしていたり、野生のチンパンジーが木の枝や葉っぱ、カエルの口を利用していたりといったケースもあります。変わり種はシカです。オスのシカは角が性感帯になっていて、草むらに角をこすりつけ、そのまま射精することが知られています。

マスターベーションで「少数精鋭の精子」をそろえる

Q.  動物にとってマスターベーションはどういう意味を持つのでしょうか?

A.  実は人間もそうですが、生物にとってのマスターベーションは性欲をしのぐためではなく、古い精子を追い出し、新しい精子を循環させる準備活動です。アメリカのC・R・カーペンターがアカゲザルを観察した研究では、メスとより頻繁に交尾できる順位の高いオスのほうが、よくマスターベーションをしていることが発表されています。また、イギリスのロビン・ベイカーがマスターベーション数日後の精子の検査をしたところ、数は多くないものの、非常に活きがよく、質の高い「少数精鋭の精子」だったのです。常に発射準備が万全なオスにメスは惹かれるのかもしれません。

“精子競争”と性機能の関係

Q.  性欲が強い動物もいるのですか?

A.  “性欲”という形では明確な答えは言えませんが、卵を受精させようとするオス個体間の競争=精子競争が激しい動物ほど、睾丸が発達するとは言われています。例えば、一夫多妻制で他のオスとの精子競争が激しくないゴリラの睾丸は、身体の大きさに比べて小さく、重さにして30グラム程しかありません。対して乱婚社会でオス間の競争が激しいチンパンジーの睾丸は120グラムと、ゴリラの約4倍近くです。

マスターベーションは本能のままに楽しめばいい

Q.  マスターベーションは後ろめたいものではなく、生物として必要な行為だということでしょうか?

A.   マスターベーションというと、「自分の快楽のためだけのもの」と考えがちですが、自分の遺伝子を効率的に残すためにもマスターベーションは重要なのです。生殖活動にプラスに働くからこそ、快楽を感じるんですね。動物が欲望のままに生きるのは、「自らの遺伝子を残す」という大切な目的があるからです。人間の場合は(マウスや魚もですが)、遺伝子学的に「相性の良い相手」がいることも分かっています。人はそれぞれに免疫の型を持っていますが、型が重ならない相手との方が、免疫的に有利な子どもが生まれ、そうした相手との方が、快楽を感じやすいことも明らかになっています。欲望に正直に生き、楽しむことで、優れた子どもが生まれてくる。動物とはそんな生き物なのです。

▶これらから分かるように、マスターベーションは生物にとって重要な行為であり、動物界でも観察されています。動物たちは自身の快感を追求するために様々な手段や道具を利用していることや、精子の準備活動や競争にも関連していることが分かりました。マスターベーションは自己の遺伝子を効率的に残すための行為であり、欲望に忠実に生きることが繁殖の成功につながるとされているんですね。

02 「いけないこと」から「必要なこと」へ
日本のマスターベーション言説史

続いて、日本のマスターベーションに対する意識変化について詳しい社会学者の赤川先生にお話を伺いました。

教えてくれたのは……赤川  学先生

Profile/赤川 学(あかがわ・まなぶ)
1967年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。日本社会における性に関する言説をまとめた『セクシュアリティの歴史社会学』(1999年・勁草書房)等。

おおらかだった昔の日本

日本のマスターベーション言説は、古くは鎌倉時代の『宇治拾遺物語』に記述があります。当時はマスターベーションのことを「かはつるみ」と呼んでおり、女性とは交わらないと誓いを立てた僧が真面目に「かはつるみは候うべき」(マスターベーションもいけないのか?)と聞いて、周りの人が大爆笑するという逸話です。このように、昔の日本では、マスターベーションに対して、おおらかだったのでしょう。

オナンの罪、そしてマスターベーション害悪論の確立

一方、西洋では、旧約聖書内にオナニーの語源となる「オナンの罪」(兄が死に、ユダヤ法上、未亡人となった妻の子どもを作らなければならなくなった弟のオナンが膣外に射精し神を怒らせた)という記述があるように、「産めよ増やせよ」を範とするキリスト教的価値観から、生殖に繋がらない性行為であるマスターべーションは忌避されていました。この考えが進化していった結果、1710年ロンドンで発刊された『オナニア』から、「自慰のもたらす恐るべき結果」として、成長の停止や癇癪など、“マスターベーションが身体に悪いという考え方=マスターベーション害悪論”が確立されるようになりました。

明治維新を契機に日本でもマスターベーション=害悪に

それまでおおらかだった日本の性に対する考え方に変化が起こります。明治維新以降は、日本でも西洋の考え方が流入してくるのです。その契機となったのは、1875年に元・浜松藩医の千葉繁がアメリカの『Book of Nature』を翻訳した『造化機論』を発表したことです。著書内では、「手淫には害がある」と強調されています当時は人間の体に電気が流れているとされており、「男女の性行為では良い電気が発生するが、マスターベーションでは悪い摩擦電気しか発生しない」というデタラメが、当時の最新科学として本気で信じられるようになりました。

森鴎外が作った「性欲」という言葉、そして「売春VSマスターベーション」

「性欲」という言葉を生み出したのは、実はあの文豪の森鴎外です。それ以前は「色情」「情欲」といった言葉しかありませんでしたが、医師でもあった鴎外は上記の意味でとらえられていたSexual Desireを「性欲」と訳しました。それ以降、日本での性は自然なものとして扱われるようになっていきます。ただ、性欲はあくまでも、結婚した夫婦の間でのみ許されるものとされ、若者の性欲については「マスターベーションをすべきか、売春宿に行くべきか」と知識人の間で議論が行われました。その後、GHQの改革により公娼制度(政府による売春管理)が廃止されたこともあり、「売春よりもマスターベーションのほうがいいね!」という考え方が生まれ、徐々にマスターベーションの有害性は否定されていき、近年では、「マスターベーションをしないことによって逆に様々な疾患につながる可能性がある」と言われるようになりました。このようにして明治維新から100年続いたマスターベーション害悪説から日本が解放されたのは、そもそもキリスト教的な価値観に縛られていなかったからとも言えます。

03 マスターベーションと身体の関係

泌尿器科医の岩室先生に、「マスターベーションをすると禿げる」等、様々な都市伝説的な言説があるマスターベーションと身体の関係を伺いました!

教えてくれたのは……岩室紳也先生

Profile/岩室紳也(いわむろ・しんや)
1955年生まれ。ヘルスプロモーション推進センターオフィスいわむろ 代表/泌尿器科医。エイズ予防、思春期の性と心を扱った講演活動を行う、民間公衆衛生医として被災地に赴くなどその活動は多岐にわたる。

Q.  マスターベーションをすると頭が悪くなる?

A.  医学的な裏付けはありません。そう言われるのは、いちばん勉強しなければいけない思春期にマスターベーションをしていたからではないでしょうか。「マスターベーションしている暇があったら勉強しろ、勉強しなかったら頭が悪くなるぞ」といった具合に。「午前中は思いきりマスターベーションして、午後からしっかり勉強するぞ」と計画して動いている人は良い成績を取れると思いますよ。

Q.  マスターベーションをするとハゲる? 体毛が濃くなる?

A.  ハゲるのも体毛が濃くなるのもたまたまでしょう。よく「テストステロンの量」が引き合いに出されますが、毛髪や体毛については、テストステロンとの直接的な関係性を認めるデータはありません。

Q.  思春期にマスターベーションをするとニキビが増える?

A.  マスターベーションを覚える時期とニキビのできる時期が同じため、そう言われることがあるようです。体質的なものもありますが、ニキビができるのは分泌物が出るところに炎症が起きるから。清潔さによってもできやすさは変わってきます。いずれにしてもマスターベーションとは関係ありません。

いかがでしたか? 今回は、男性のマスターベーションについて深掘りしました。マスターベーションは人間だけでなく、動物界でも観察される重要な行為であり、自己の遺伝子を効率的に残すための準備活動です。マスターベーションを行うことが本能的に備わっていることも興味深い点でした。また、過去にはマスターベーションが害悪視されていた時代もあったことに驚きました。実際には、マスターベーションは少数精鋭の精子をそろえるという点からも快楽を伴う有益な行為。自身の性欲を適切に発散することは心身の健康にとって重要な要素だと思うので、積極的に楽しんでハッピーな日々を過ごしましょう。

文=鈴木恵理子

 

 

 

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