いまの時代を生きる女性の美しさを、鋭い視点で分析するエッセイスト齋藤薫さん。齋藤さんが考える「素敵なあの人」像とは? 今回は20世紀が誇る“絶世の美女”、エリザベス・テイラーについて深堀りします。彼女はなぜ8回も、結婚離婚を繰り返したのでしょうか。
≪目次≫
●20世紀が誇る“絶世の美女”、エリザベス・テイラーはなぜ8回も、結婚離婚を繰り返したのか?
●教えてくれたのは……
20世紀が誇る“絶世の美女”、エリザベス・テイラーはなぜ8回も、結婚離婚を繰り返したのか?
「絶世の美女」はどんな人生を生きるのか? ふとそう思うとき、真っ先に顔が浮かぶのはやはりこの人、エリザベス・テイラー……類稀な美女ゆえの波瀾万丈は容易に想像がつくが、実際のこの人が生きた数奇な人生は、私たちの予想をはるかに超えるものだった。
まず驚くべきは、なんといっても8回の結婚。厳格な母親の「恋愛したら結婚すべき」という教えに従ったともいわれるが、それにしても尋常ではなく恋多き女が、尋常ではないモテ方をしていたのは想像に難しくない。
既に10代半ばで大人の女優として一世を風靡していた美女には、早速プロポーズを試みる男性が複数現れたというが、最初の結婚は18歳。いわゆるホテル王ヒルトン一族の御曹司に嫁ぐこととなるが、この結婚はなんと200日余りで終わる。そのうち90日は新婚旅行で世界一周に出かけていたというから、若すぎたというほかないのだろう。しかし次の結婚も19歳。20歳年上の俳優で、この結婚は5年間続き、ふたりの子どもを授かるものの、離婚後なんと1週間も経たないうちに、24歳年上のプロデューサー、マイケル・トッドと再婚している。やはり一児を設けるものの、1年後にトッドが飛行機で事故死する。
この人の恋愛の傾向として、まだ結婚しているうちに別の人を好きになり、既婚者でも構わず好きになる、というパターンがあるようで、それだけに常に物議を醸し、スキャンダルを提供し続けてきたが、もっとも世間の批判を浴びたのが、事故死した夫の親友であった歌手エディ・フィッシャーを、その妻から奪った形で結婚に至ったこと。慰めてもらううちに恋愛に発展!というありがちな形だが、渦中の略奪婚の直後、今度は『クレオパトラ』で共演したリチャード・バートンとダブル不倫に陥り、1年後に離婚、結婚を果たし、この結婚は10年続く。しかもこのリチャード・バートンとは離婚した1年後にもう一度結婚していて、2度目の結婚は1年しか持たなかったものの、唯一ずっとこだわり続けた男性であるのは確かなのだろう。でもまたその2年後には政治家と7回目の結婚。6年後に離婚する。
リチャード・バートンとの別離のあたりから精神的に不安定となり、アルコールや薬物中毒などで入退院を繰り返したというが、59歳のときにアルコール依存症のリハビリ施設で出会った20歳年下の土木作業員と、周囲の反対を押しきって結婚。もちろんうまくいく道理もなく、結局8度目の離婚をする。その間にも、婚約が2、3回あったというから、なんと結婚が好きな人なのだろう。
10歳からハリウッドのスタジオで育ったような子役生活、常にちやほやされながら、心は非常に孤独だったのだろう。そして真実の愛をずっと探し続けるピュアな心を持っていたのは確かで、リチャード・バートンは紛れもなく運命の人だったはずなのだ。だが、後に2人の関係を「爆弾を二本重ね合わせるようなもの」とバートンが語ったように、両者同じくらい激しいものを持つ似たもの同士だったからこそ、強く惹かれながらも反発し合ったのかもしれない。
実際、クレオパトラとアントニウスを演じたふたりは、完全無欠の伝説的カップルとされ、見た目も内面も生き写し的なキャスティングだったといっていい。とすれば、史実と同様、結局添い遂げられない運命だったということなのだ。
ちなみに、かの有名なマダムタッソーにおけるエリザベス・テイラーはクレオパトラのときのものが再現されている。ほとんどの場合、やっぱり蝋人形とわかってしまう違和感があるものだが、テイラーは誰もが本物と思うほど。それもまたこの人がいかにシンメトリーで完璧な顔立ちをしていたかを物語る。
よくいわれるように、この人は絶世の美女であるばかりか、肉体にいくつかの特異性があった。瞳の色は人類の2%しかいないというスミレ色。マスカラをつけているような二重まつ毛。胴が人一倍短く、余計にバストが大きくウェストが細く見えたこと。それがまたクレオパトラの生まれ変わり感を強めたのだろう。さらにいえば、早熟した美貌は10歳でもう顔立ちができあがっていて、妖艶ささえ放っていたとされるし、16歳でもう大人の女性を演じ、30代の俳優とのラブシーンもこなしていた。20代後半には熟女のイメージとなり、 クレオパトラのときは29歳だった。30半ばにはもう堂々たる中年の汚れ役に挑むなど、まるで生き急いでいるような成熟ぶり。そして太る体質だったせいか、162センチで80キロを超えたこともある。絶世の美女とされた時間はそう長くないのだ。
「ある程度の年齢になると心が外見に表れるようになります。(略)40歳くらいになると、それぞれの内面が外見を体現していくようになるのです。(略)人生にはさまざまなことが起こります。外科医も手術用メスも、どうすることもできません。それまでの生き方、あるいは神のみ業がいまのあなたの外見を作っているとわたしは考えます。」
そんな言葉を残している。世界一の美貌を謳われた人も、がむしゃらに美にしがみつくことなく、美に対し達観した考えを持っていたといってもよい。しかし愛に生きた人は、最後まで自分を放り出すことはなかった。70代でもダイエットをし、晩年はまた少し痩せてかつての面影が戻ってきている。もし、いまの化粧品や美容法にこの人が間に合っていたら、きっと最後まで絶世美を保っていたかもしれないのに。そう思うと残念である。
でもひとつの救いは、エリザベス・テイラーが実は素晴らしい人間性の持ち主だったということ。略奪愛を繰り返した美女は、悪女のレッテルを免れないが、実はこんな証言がある。伝記作家などが「うぬぼれを持たない女王。自分の言動を律する達人で、共演するほかの女優と揉め事を起こすことはなかった」と語っているのだ。とても庶民的な人で、撮影現場のあらゆるスタッフに対して、“ロスチャイルド家の人々”に対してと同じ接し方をしていたと。ある映画監督も「まれにみる美徳であるやさしい心の持ち主」と証言した。
絶世の美女は、実は心も美しかった。ただひたすら愛されたい女だった。とするならやはり、歴史にその名を刻んでおくべき人である。
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教えてくれたのは……
齋藤 薫さん
【Profile】
美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌編集者の経験を生かし、女性誌やネット媒体等でエッセイを数多く連載。美容記事の企画や化粧品の開発アドバイザーなども務め、幅広く活躍。著書に『大人の女よ! もっと攻めなさい』(集英社インターナショナル)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など多数。
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