賭博をやめることができない「ギャンブル依存症」。そのなかでも依存症になる人が一番多いといわれているのが、パチンコ・パチスロだ。1年間365日、休まずパチンコを打ち続けるヘビーユーザーたちが業界を支えていると言っても過言ではないが、依存症の深刻さは年々増している。ギャンブル依存症の実態とあわせて、元パチンコ依存症男性が告白した、恐ろしき「沼」の実態に耳を傾けてみよう。
≪目次≫
●厚労省の「依存症」実態調査
●ヘビーユーザーは30%弱
●『北斗の拳』で天国を体験
●ウソをついて親から仕送りを受ける
●依存症に見られる「特徴」
●答えのない難題に直面する業界
厚労省の「依存症」実態調査
コロナ禍の日本で、それでもパチンコ店の前に並ぶパチンコファンたち。テレビカメラが映し出した彼らは、スタジオの識者によって「ギャンブル依存症」と認定された。
何らかの理由で賭博から抜け出すことのできない「ギャンブル依存症」は、長らく日本の社会問題として認知されている。
統合型リゾート(IR)整備推進法の施行による「カジノ解禁」に向け、厚生労働省は2017年、本格的なギャンブル依存症に関する調査を実施した。
その結果、生涯でギャンブル依存症になったことがあると思われる割合は成人の3.6%(国勢調査のデータから約320万人と推計)、直近1年間でも0.8%(約70万人)が「依存症と疑われる」という結果が出た。
この調査は国立病院機構久里浜医療センターが、20〜74歳の男女1万人を対象に調査したもので、過去にギャンブル依存症が疑われる状態になった人は158人(3.6%)。うち、パチンコ・パチスロが対象の人が123人と最多で、男性は人口比に対し6.7%が依存症経験ありとされ、女性(0.6%)の10倍以上、依存症リスクが高いことが分かった。
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ヘビーユーザーは30%弱
日本では、依存症問題においてやり玉にあげられるのは圧倒的にパチンコ、パチスロが多い。パチンコは毎日、いつでもできるという点が「常習性」と深く結びつくと言われる。
エンタテインメントビジネス総合研究所が発行する「パチンコ・パチスロプレイヤー調査」によれば、近年のパチンコヘビーユーザー(週に2回以上店に行く人)の割合は、参加人口の約30%弱で推移しており、年間1回以上、パチンコをした人の数である「参加人口」が約1000万人いることを考えると、200〜300万人がコアなファンということになる。
現在のパチンコ、パチスロは、1回の投資額が1万円以下でおさまる遊びではない。ヘビーユーザーは、常に大勝ちを目指しているため、出るまで2万円、3万円の投資を惜しまない。すると、実態としてはほとんどのヘビーユーザーが「依存症」に当てはまる。
ただし、依存症とは基本的に「負けているのにやめられない」という状態を指す。依存症によって困窮し、家庭や生活が崩壊、あるいは精神的に病むことで社会問題化するわけだから、もしパチンコファンが全員黒字になっていたら、この問題はある意味で存在しない。本当のギャンブル依存症の実数は「負けた人の数と額」の調査が不可欠なのである。
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『北斗の拳』で天国を体験
今回、ある「パチンコ依存症」経験者に話を聞いた。東京都内に住む庄田裕二さん(35歳・仮名)。3年ほど前、自己破産を機に依存症の治療を受け、現在はパチンコから離れている。
「私が最初にのめりこんでいったのは学生時代、パチスロでした」
と庄田さんが語る。
庄田さんが座ったのは人気漫画『北斗の拳』をモチーフにしたパチスロだった。
「景品を受け取った時、8万円以上になることが分かって震えました。当時、1カ月の生活費が5万円くらいでしたから、それをわずか2時間くらいで稼いでしまったわけです」
典型的なビギナーズ・ラックだが、その反動は大きかった。
「やはり、そう甘くはなかった。負けるのも早いですが、最初の出玉を知ってからは、また同じことが起きると信じてしまってますからね。当時、貯金は10万円ほどありましたが、それを使い果たしても、パチスロをやめることはできませんでした。とにかく、パチンコを打つタネ銭が欲しかった。現金でその日にバイト代がもらえる飲食店を求人誌で探し、あと早朝に新聞配達も始めました。すべてがパチンコのためでしたね」
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ウソをついて親から仕送りを受ける
大学を中退後、庄田さんはパチンコ、パチスロに集中する生活に入る。
「お金は消費者金融2社から借り入れました。利息は毎月1万円ぐらいありましたかね……生活費をぎりぎりに落としていました」
下宿していた庄田さんは、両親に大学中退の事実を告げず、仕送りを続けてもらっていたほか、就職活動やセミナーの受講料などという説明をして、都度、資金援助を受けた。
「親には申し訳ないことをしましたが、あのときは狂っていた。大阪の会社を受けるんだと言って、新幹線代を3万円、送ってもらう。そのお金がその日のうちにパチンコに消えるわけです。自分ほどダメ人間がこの世にいるのかな、と……」
庄田さんはその後、両親に就職活動の失敗と、送金の停止を自ら伝え、退路を断った。
水道や電気が止まったことも日常茶飯事で、ネットで「水道の開栓」の仕方を調べ、自分で開けようとして断念したこともある。
学生時代の友人に借金を申し入れたり、所有していたわずかなゲームソフトを中古ショップに売るなどして作った数千円も、その日のうちにパチンコで消えていく。
8万円の大勝ちを体験してから約10年後、庄田さんは任意整理の弁護士を尋ねたところ、そこでギャンブル依存症の医師を紹介され、人生の「リセット」を決めた。
「まだ、やり直せるという言葉が支えになりました。自分が依存症であるという認識を持つことから始めないといけないと悟りました」
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依存症に見られる「特徴」
ギャンブル依存症の対策、研究機関である「依存症対策研究センター」によれば、パチンコを含めた賭博依存症の症状には次のようなものがあるという。
〇ギャンブルにのめり込む
〇興奮を求めて賭け金が増えていく
〇ギャンブルを減らそう、やめようとしてもうまくいかない
〇ギャンブルをしないと落ち着かない
〇負けたお金をギャンブルで取り返そうとする
〇ギャンブルのことで嘘をついたり借金したりする
「負けた直後は、もう絶対にやらないと固く誓うんです。しかし、翌日の朝になり、店の開店時間が近づくと、今日は出るんじゃないか、と思ってしまう。そして、ときどき本当に出たりする。負けている人、借金している人がパチンコで少し勝つと、その幸福感はものすごいものがあるんです。たとえば、朝から玉が出続けて10万円勝つよりも、5万円負けていたところ、最後の最後で連チャンして6万円出るほうが、利益は10分の1でも、充実感、幸福感は10倍あります」
単に金銭の問題ではなく、依存症が精神の問題である証左であろう。
「もうひとつ、自分でもやっかいなのは、どうせやめるにしても、最後は勝って終わりたいという考えが出てきてしまうんです」
これも、よくある心理である。
「あと1000円入れれば出る」
「さすがに今日はそろそろ勝つ」
「負けたままでは終われない」
このような気持ちが、ギャンブルに向かう心理を正当化させる。
↑「勝ってやめたい」という心理がギャンブルを正当化させる
答えのない難題に直面する業界
現在、パチンコ業界を支えているのは、コアなファンが中心である。
何があってもパチンコ店に来てくれるような、そのコアユーザーこそ、業界の「生命線」である。
「あくまで私の持論ですが、コアなユーザーというのは、目的がお金であるとはっきりしています。ですから、何があっても離れないというのは少し違っていて、稼げなくなればきっぱりパチンコをやめてしまう人も多いのです。いまの若い世代は、昔の爆裂時代を知りませんので、パチンコの怖さを知らない人も多いのではないかと思います。今後、業界は依存症と向き合い、健全な台を開発するとしていますが、ギャンブル性が低くなれば、ユーザーが離れることは歴史が証明しています」
ファンに媚びれば世間から疎まれ、世間の顔色をうかがえば、ファンからソッポを向かれる。
ギャンブル依存症のほぼ全責任を押し付けられている感のあるパチンコ業界はいま、出口のない迷路に入り込んでいるのかもしれない。
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(抜粋)
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著者:新型コロナ問題特別取材班
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WEB編集:FASHION BOX
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