東京都に隣接する千葉県。東京ディズニーリゾートをはじめ、さまざまな観光地も有しています。そんな千葉県は地域によって住民気質が異なるという興味深い話があります。歴史を遡りながら、千葉県民の気質の違いについて都道府県研究会の皆さんに教えてもらいましょう。
≪目次≫●最大のライバル・埼玉県民に似てる!?
●「勤勉だけど努力家は少ない」「弱気が転じて戦闘的」千葉県民は多重人格?
●気性が荒い九十九里 温厚な下総内陸部
●千葉県は“ヨソモノ大歓迎のウェルカム社会”
●千葉県の地域に見るおもな県民性マップ
●教えてくれたのは……
最大のライバル・埼玉県民に似てる!?
関東の3番手の座を巡るライバル県といえば、千葉県と埼玉県である。しかしこの両県、県民性が希薄という点でかなり似通っている。
県民性研究の第一人者、祖父江孝男(そふえ・たかお)氏によると、その原因は歴史的背景にあるという。両県は江戸時代、小藩と天領に細かく分かれ、地域の中心となるような大藩も存在しなかった。そのため、はっきりとした伝統が育たず、県民性といわれるような特色や個性が生まれにくかった。加えて、現代においても「千葉都民」「埼玉都民」という言葉があるように、千葉や埼玉に住みながら生活のほとんどを東京に依存する人たち(おもに他県出身者であるとの指摘もある)が、多く存在している。彼らにすれば、千葉や埼玉にこだわりがあるわけではないので県民意識は薄く、やはりその特色は見えにくい。
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「勤勉だけど努力家は少ない」「弱気が転じて戦闘的」千葉県民は多重人格?
それでも歴史家や民俗学者が指摘する千葉県の県民性を挙げると、保守的、穏健、弱気など、さすが没個性県だけあって、いずれもモヤッとしている。ただ興味深いのは、「生活態度が放漫のようで細かい」「勤勉だが努力家は多くない」「弱気が転じて戦闘的になる」など、分裂質的な特性も指摘されていること。こうしたアンビバレントな面は、ある意味で個性的だが、第三者には理解しがたく、逆に県民性を見えにくくしているといえなくもない。
ただ、「千葉県民が分裂質タイプである」との指摘は、県民性を県全体で捉えようとして生まれた結論のようにも思えてしまう。千葉県は、もともと下総、上総、安房の3国に分かれている。地域性があるのだ。
現在の地域区分でいうと、下総が北部、上総が中央部、安房が南部となるが、実際、地域によって住民気質(地域性)はバラバラで、下総の外房と内陸、上総の外房と内房でも住民気質は異なっている。そのため、この地域間の違いを考慮せずに千葉県民を評すると、「千葉県民は総じて多重人格な人種」ということになってしまう。
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気性が荒い九十九里 温厚な下総内陸部
そこでここからは、千葉県の地域ごとに住民特性を見ていきたい。
まずは下総東部。銚子を中心とした沿岸部はその昔、畿内から多くの漁師が移住してきた地である。漁師町というのは基本的に人の気が荒いが、外房では北へ向かうほど性格があらわになっていく。西国気質を内包しているのか、非常に明るく積極的なのだが、頑固でケンカっ早くプライドも滅法高いのだ。
↑漁師は基本的に気が荒いタイプが多いといわれて久しいが、九十九里沿岸では北(銚子方面)へいくほど、気荒な人が増えるという。
いっぽう、下総内陸部は東部と打って変わり、穏和で腰も低いのが通奏低音。昔、このあたりに住んだ人の多くが、江戸の商家や武家屋敷に奉公に出ていたそうで、権力者におもねるうちに従順な性格になったのではないだろうか。ともかく、そうした気質は現在にも引き継がれ、従順かつ環境にうまく順応するタイプがこの地域には多いようである。
↑交易や商売などで江戸と密な交流があった下総内陸部の人々には、従順で環境に順応しやすいタイプが多いという。写真は香取市佐原の古い町並み。
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千葉県は“ヨソモノ大歓迎のウェルカム社会”
これが上総になると、人々の従順性はさらに増す。
上総は明治維新直後、駿遠(すんえん)の諸藩が懲罰的に移封(いほう)されてきた地であり、そうした歴史が災いしてか、今も弱気で保守的な考え方をする人が多いとされる。ただ、上総でも内房になると、人々はぶっきらぼうでちょいと大ざっぱ、向こう見ずな性格になるというから不思議である。
だが、もっとも興味深いのは安房の人々だ。安房は古代の昔、阿波忌部(あわ・いんべ)氏が海を渡って当地に渡来したという伝説があるように、徳島県と縁が深い。そのためだろうか、安房人は徳島の代表的な県民性でもある「商人気質(抜け目がない)」や「かかあ天下(房州名物かかあ天下に西の風という言葉もある)」をもち合わせているという。
また、安房人はもともと協調性に欠けていたようだが、現代の安房人は温暖な気候のおかげか、のんびり大らかな楽天家が多い。そのため、移住民をヨソモノと撥ねつけずに受け入れる懐の深さがある。
ただし、ヨソモノへの寛容さは県全体にもいえることで、古来から移住者を絶えず受け入れ続けてきた歴史が、千葉県を堅苦しい地域のしがらみとは無縁の社会にしている。そんなわけだから千葉県民は「郷土愛が薄い」といわれがちだ。でも、だからこそ「千葉都民」が、千葉の地に気兼ねなく暮らせるのである。
↑房総半島南端に位置する館山市。安房地域の政治、経済、文化の中心を担ういっぽう、暮らす人々の気風は総じて大らか。
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千葉県の地域に見るおもな県民性マップ
●千葉都民の特性
・郷土愛が薄い
・生活は完全に東京依存
●下総の住民特性
・穏健
・保守的
・計算高い
●内房の住民特性
・大ざっぱ
・人懐こい
・商売下手
●外房の住民特性
・気が荒い
・頑固
●上総の住民特性
・穏健
・保守的
・まとまりがない
●安房の住民特性
・のんびり
・サバサバしている
・かかあ天下
・連帯感が強い
※これらの千葉県の県民性の指摘は、祖父江孝男著『県民性の人間学』(筑摩書房)を参考にしたほか、都道府県研究会の実地での聞き込み調査による。
教えてくれたのは……
都道府県研究会
【Profile】
47都道府県を最新データを駆使して調査・研究しつつ、歴史、地理・地形、文化、インフラ、産業、県民性などさまざまな視点から、地域の実態や魅力を世に広めようとしている集団。メンバーは、全国を巡り歩いて地方自治やまちづくりなどの問題を取材する地域批評家やルポライター、郷土史や忘れられた歴史など「ニッチな歴史」に造詣の深いライター、三度の飯より鉄道をこよなく愛する鉄道評論家、宇宙に美術、軍事から競馬(?)と何でもありの理系ライター兼編集者、アイドルとヤンキーの生態にくわしい木更津出身のサブカル系ライターなど多士済々にして、全員が大の地図好き。
千葉県は祭りだらけ! 関東三大祭り「佐原の大祭」から大根を投げる「奇祭」まで専門家が解説
(抜粋)
書籍『地図で楽しむ本当にすごい千葉』
著者/都道府県研究会
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執筆/都道府県研究会(岡野信彦、松立 学、鈴木ユータ、加山竜司、斉木 実、土屋コージン、村沢 譲、上野高一)
編集制作/田口 学、鈴木菜央(アッシュ)
地図/国土地理院、産業技術総合研究所、菊地博泰、阿部 心、アッシュ、アフロ
写真/千葉県立中央博物館、千葉県観光物産協会、国立極地研究所、産業技術総合研究所、東京大学、銚子ジオパーク推進協議会、伊能忠敬記念館、国立国会図書館、斉木実、吉永陽一、村上裕也、フォトライブラリー、都道府県研究会
資料協力/千葉県立中央博物館
WEB編集/FASHION BOX
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※ 本記事に掲載した各種地図、およびデータは2017年6月中旬現在の情報を元にしています。あらかじめご了承ください