女性が抱える健康の問題を技術や知識、サービスで解決することの総称とされるフェムテック/フェムケア。そのなかには「不妊・妊よう性(妊娠する力)」という、妊娠・妊活に関連する事項も含まれている。この点では男性も当事者であり、パートナーと一緒に真剣に取り組むことが大切だ。
特に不妊治療を始める際、費用の問題は避けて通れないため、どうやりくりするか2人で話し合う必要がある。そこで嬉しいニュース! 2022年4月から不妊治療が保険適用され、今までよりも費用が抑えられることになった。不妊治療を行うカップルにどんなメリットがあるか、妊活コンシェルジュサービス『ファミワン』の西岡有可さんにお話を伺った。
株式会社ファミワン 代表看護師
不妊症看護認定看護師 看護学修士
大学院にて「不妊治療を受ける女性の思いとかかわり」の研究に取り組みつつ、生殖医療外来や生殖医療専門クリニックに勤務。ファミワンのアドバイザーとして、LINEサービス「famione」のアドバイスを担当するほか、一般カップル向けはもちろん、企業に招かれて社員向けに、妊活に関するセミナーを担当する。
人工授精などの費用が抑えられる
――4月から不妊治療が保険適用になったことで、今までと比べてどんな治療が、どのぐらい安くなりましたか?
西岡さん(以下、敬称略) 1つは人工受精の負担がかなり少なくなりました。3月までは自由診療で大体3~5万円ぐらいかかりましたが、4月からは保険が適用されて、全国一律どの医療機関でも5,460円になります。成人の方の医療費は一般的に自己負担が3割であることが多いですが、それにならい、人工授精も3割負担になりました。
もう1つは、体外受精です。一番費用が抑えられそうなケースでは、40万円ぐらいかかっていたものが、15万円ぐらいになります。ただ、体外受精に関しては、助成金もありますし、年齢制限や保険適用の回数など、いろんな制限があるので、どれぐらい費用が抑えられるかはケースによって本当に様々です。
――どんな方が、不妊治療の費用を抑えられるようになりますか?
西岡 制限という部分を補足説明しますと、人工授精が保険適用されるのは、40歳未満の場合、子ども1人につき、最大6回までとなります。40歳以上43歳未満ですと3回までに減ってしまいます。なので、40歳未満の方は費用が抑えられる機会が増えると考えてよいかと思います。
費用面では、不妊治療歴が短い方のほうが、体外受精の費用は安くなる傾向にあります。なぜかというと、例えば体外受精を1回して妊娠しなかった場合、「次はここを改善しよう」というふうに、妊娠しなかった原因を予測して、ドクター側も工夫するようになります。そこでプラスαで検査が行われたり薬剤が使われたりすることがあるんです。検査や薬剤の種類によっては4月以降も保険適用外であることも多く、それらの費用をトータルすると1回の体外受精にかかる費用は保険適用前とあまり変わらないという可能性もありえます。なので、何回か治療をされている方は検査や薬剤を調整していくことになるので、体外受精にかかる負担は多くなっていきます。
――男性の不妊治療にかかる費用は、4月からどうなりましたか?
西岡 男性の不妊治療では、精液検査に保険が適用されるようになりました。現状では、まだ自費診療のクリニックが多いようですが、これから保険適用で安く精液検査ができるクリニックが増えていくと期待しています。
先程話した人工授精のほか体外受精も保険適用で費用が抑えられるようになりましたが、これも男性にも恩恵がある場合があります。なぜなら、不妊の原因は男性と女性で半々というデータがあり、男性の不妊が原因で人工授精や体外受精が適応になるケースが多くあるからです。なので今回の保険適用は、間接的ですが、不妊治療を行う男性にもメリットがあると言えると思います。
費用面以外に、今後の不妊治療で気をつけたいこと
――これから不妊治療を行うカップルに、費用面以外で気をつけてほしいことはありますか?
西岡 今回の保険適用で、大きな仕組みの変化がありました。保険適用の不妊治療を受ける場合は、必ずパートナーと2人揃ってドクターと治療の計画を立てるために受診をしなければいけないというルールが加わったんです。2人揃って治療計画を作ったり、2人の同意を必ず定期的に取ったりしないと保険適用されなくなります。ここで注意してほしい点が1つあります。カップルで同じドクターにかかってほしいということです。
3月までは、男性なら泌尿器科でも精液検査ができるので、パートナーがかかっているクリニックと違うけど、とりあえず1人で検査に行ってみるということもできました。ですが、そうするとカップルのカルテが分かれてしまい、いろいろと余計に時間や手間がかかってしまいます。それを避けるためにも、これからはパートナーがかかっているクリニックで一緒に受診するほうが望ましいかと思います。
もっと保険適用をわかりやすくするのが今後の課題
――今回の保険適用について、今後検討すべき点があれば、教えてください。
西岡 一概に言うのは難しいですが、ある方にとってはとても経済的負担が少なくなるけれど、ある方にとっては経済的負担が変わらないと、人によって差ができてしまったことがひとつあります。また、前の助成金の制度の方が費用負担は少なかったという方もいたりします。なので、今回の変更は、全員にとって経済的負担が少なくなる内容ではないというのが現状です。
先進医療の中には、議論が終わらなくて今回は保険適用が間に合わなかったものもあります。また、薬剤を1本使う場合は保険適用だけど2本目からは保険適用外になるなど、保険が適用になる条件が複雑なところもあったりして、わかりにくいという点もあります。
ただ、私個人の感想としては、不妊治療を受ける方にとってよくなった部分が、思ったより多くてよかったなと思っています。今回の変更で一番恩恵を受けられるのは、「不妊治療は費用がかかるし、自分たちにはお金の余裕がない」と思っている若い世代の方達だと思います。例えば、人工授精なら50,000円が5,460円になったので、「この費用ならトライしてみようかな」と前向きに考えられる人が増えると思いますし、不妊治療のハードルが低くなったと感じます。
これからの不妊治療は、上手に保険適用を活用するのが大事かと思います。そのためには自分がその条件に当てはまるのかや、自分がこのクリニックでこの検査をしたら保険適用になるのかなどの確認が必要になってきます。そのあたりは難しいところもありますので、病院に確認するか、私達のような専門家に相談していただければと思います。
不妊治療の保険適用の一覧表で、不妊治療の情報を広く知らしめたい
――ファミワンは、今回の不妊治療の保険適用が発表されてすぐ、保険適用の一覧表を作成し、無料で公開しています。どんな思いがあったのか、教えてください。
西岡 どの治療がいくらになるかというのは、みなさんが早く知りたかったことですが、議会から報告された資料では、一般の方が費用を読み解くのは難しそうだと感じたんです。ならば、これを一覧表にして、いくらなのかをわかりやすくお伝えすることが、私達ができることと考え、作成しました。
みなさんが必要とされている情報だと思いましたので無料でダウンロードできるようにしています。たくさんの方からダウンロードいただいていますが、不妊治療の当事者の方だけでなく、医療機関も多かったのが印象的です。説明する側も、やはり混乱していたんだと感じました。
不妊治療の保険適用はクリニックによって方針がまったく異なります。自由診療しかやらないところもありますし、保険適用しかやらないところもあります。オプションで選べるというところもあって、本当に様々です。いろんなクリニックがあったほうが、選択肢が広がるのでいいと思っていますが、不妊治療を行う方々にとっては、保険の話は知ったうえでクリニックを選んでほしいと思っています。住友生命保険さんが行ったリサーチでは、不妊治療の保険適用の認知度は約6割だそうです。妊活経験者に絞ると約8割が認知しているそうですが、裏を返すと約4割、妊活経験者でも約2割が、保険適用を知らないということです。なので、こういった情報を広く知らしめたいという思いもありました。
ファミワンが作成した、2022年4月からの不妊治療の保険適用治療/料金についての一覧表。
ダウンロードはこちらから(無料)。
https://famione.co.jp/insurance-coverage/
【今回のまとめ】
2022年4月から始まった不妊治療の保険適用。全体的には不妊治療の当事者たちにとって、いい方向に向かったと言えるようだ。特に費用面で不妊治療のスタートをためらっていた若い世代にとってはハードルが下がった。しかし、保険適用が複雑な面もあり、自分のケースではどのくらい費用がかかるかは、専門家でないと判別しづらいところがある。不妊治療は時間との戦いでもあるので、ずっと迷っているよりは、不妊治療を行っているクリニックか、妊活コンシェルジュのような専門家に相談するのが近道かもしれない。