女性の心の代弁者、人気作家LiLyの連載「ここからは、オトナのはなし」。赤裸々に語られる等身大の女性の結婚、恋愛、仕事、夫婦、セックス……。キラキラしたものとは違ったリアルなオトナの女性の姿がここに。
☆前回の記事はコチラ→「占って欲しい=途方に暮れている?【ここからは、オトナのはなし】」
ここで本題へ。そんな私でも、思うのだ。自分ではコントロールできない不思議なエネルギーは、現実の中に確実に存在している、と。
不運に勝る恐ろしさはなく、幸運以上の強みはない。
「あまりこういう話はしないんだけど、リリちゃんならわかってくれるかも」と前置きをしてから、Mさん(50)は話し始めた。
「ここを始めるとき、資金も顧客もゼロからだったから夫は猛反対。そんな無謀なことを本気でやろうとしているお前は頭がおかしいんじゃないかって!」
ここ、とはマンションの一室。Mさんの個人サロン。
「不安がなかったわけじゃないけど、私もムキになっちゃって!“借金を作ったりして家族に絶対に迷惑をかけない”って約束をしながらも“まぁ、もしそうなった時はこっちから離婚してやるよ!”くらいの勢いで始めたのよ」
ベッドに横になり目を閉じる私の顔に、MさんはビタミンCだかDだかEだかを浸透させてゆく。成分名は聞き流しても、資格がないと扱うことができない強い薬だという説明を私はいたく気に入る。Mさんは続ける。
「この化粧品に出会って、コレだ!!すっごくイイ!!って思った衝撃のままにサロン開設まで突っ走ったというか。当時は30代半ばで、ほら、私は早くに子どもを産んだから……。母親になってからも仕事はしていたけど、育児って本気で大変でしょ?それまで本腰入れてキャリアの足場を固めるチャンスがあるようでなかったわけ。息子は中学生になっていたし、本気で挑戦するには今しかない!ってすごく強く思ったんだろうね」
「わかる!タイミング!今だッ!!ってやつ!」
思わず目をパチリと開けて言った私に、Mさんは「そう」と深く頷く。話しながらも手を止めないMさんのフェイシャルマッサージの心地よさに、私はまた静かに目を閉じる。
目にはみえない不思議なエネルギーの中に、逃してはいけない波、というものもまた存在する。失敗するかもしれないなんて考えが追いつかないスピードで、そのタイミングに乗ることができるかどうか、にその後の運がかかっている。
この感じは、まるでサーフィン。ううん、むしろ生まれて初めてサーフィンをやってみた時に、この感じはまるで人生!と思ったのだ。「あ、次の波いいね」と、インストラクターが素人の私に声をかける。そして、「はい!今だ!行け!」
その声がけに1秒たりとも遅れたら乗れない。死ぬかもしれないなんて考えていたら乗れない。だからつまりは、この波が良いことを、自分が乗れることを、瞬時に信じ込む以外には行けない。
「わ、凄い!リリィ立ててるー!!」
後ろの方から声がして、気づいたら私も波に乗っていた。サーフボードの上に両足で立って、気持ち良い波に乗っていたのだ。身も心も気持ちよすぎて最高だった。
アウトドアもスポーツもどちらも苦手な私である。あれは、今だ!行け!という瞬間に乗る行為が、ものすごく性に合っていただけの奇跡の成功。そしてこれは、人生においても言えると思う。幸運は“得意・不得意”さえも、時には大きく軽く超えさせてくれるから。
〈続く〉
【Profile】LiLy
作家。81年神奈川県出身。蠍座。N.Y.、フロリダでの海外生活を経て上智大学卒。著作多数。この連載からの最新刊『目もと隠して、オトナのはなし』(宝島社)が好評発売中!プライベートでは2児の母。
(otona MUSE編集部)
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edit_Satoko Ishikawa[vivace], FASHION BOX
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