2020年のエンタメ業界で最大級のヒット作となったマンガ『鬼滅の刃』(『週刊少年ジャンプ』/集英社)。年が明けてもいまだ人気は衰えず、多くの映画館で『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の上映が続いている。
子どものみならず大人のファンも多い『鬼滅の刃』だが、ハマる理由のひとつは、作品の世界観がしっかりと作り込まれているからではないだろうか? 物語の舞台である大正時代の社会や文化、さらには日本の歴史、神話史などを理解すれば、また違った見方でストーリーを味わうことができる。
今回は、鬼と闘う集団、鬼殺隊の「柱」を手掛かりに、物語と出雲神話との共通点を読み解いてみよう。
※本文には一部、ネタバレとなる箇所があります。ご注意ください
なぜ鬼殺隊の最上位は「柱」と呼ばれるのか?
鬼殺隊の最上位は「柱」と呼ばれる9名の戦士である(第45話)。「柱」の定員は9名で、「鬼の最上位である十二鬼月を倒す」あるいは「鬼を50体倒す」ことが条件となっている。
「柱」はそれぞれの呼吸の流派によって、水柱、炎柱といった呼び方をされる。
「柱」の名称は人の力を超えた存在の証
日本では、神を1人、2人ではなく、1柱、2柱と数える。「柱」の漢字の成り立ちは「木」+「主(燭台で静止している火)」で、「動かない木」を意味する。日本では樹木に神が宿るとされたことから、ご神木など樹木に対する信仰があり、「柱」と数えることにつながったとされる。
鬼殺隊は、人の力を超えた存在=神に近い存在として、「柱」という表現を用いたのではないだろうか。
もっとも日本の神々は、幸福ばかりをもたらす存在ではなく、時に荒ぶる力で災いをもたらすこともあり、『古事記』や『日本書紀』では、神同士の戦いの様子も多く記されている。
『鬼滅の刃』は「柱」という呼称を使うことで、「神(人ならざる者)」と「鬼(人ならざる者)」という構図を象徴的に表しているとも考えられる。
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9名の「柱」と9本の「柱」を持つ出雲大社
もうひとつ注目する点が、「柱」の定員が9名であることだ。これは「柱」の漢字が9画であるためとされる(公式ファンブック)。
この9という数字にはもうひとつ隠された意味があると思われる。それが鬼殺隊の代々のリーダーの名前が産屋敷であることだ。「屋敷」を支えるまさに「柱」というわけだ。9本の柱の建築様式が日本には存在する。出雲大社の建築様式・大社造りは9本の柱を「田」の字に配置して、神殿を地面より高い位置で支える。大社造りは弥生時代の高床式住居が基となる最古の建築様式ともいわれる。
出雲の神々の守護神的存在が、太陽神・アマテラスと並ぶ最高神・タカミムスヒだ。「ムスヒ」とは神道における万物を生み出す力で「産霊(むすひ)」と書く。『日本書紀』ではタカミムスヒが出雲大社の建設を指示したとされ、産屋敷の「産」の字はここからとられたのではないか。
さらに古典に残る最初の鬼の記述は、『出雲風土記』にある阿用郷(あよのさと)の一つ目鬼である。一方、『鬼滅の刃』では最初の鬼は鬼舞辻無惨とされる。
これらを整理すると、「産屋敷」=「タカミムスヒ(産霊)によって建てられた屋敷(出雲大社)」、「9人の柱」=「出雲大社を支える9本の柱」、「最初の鬼・鬼舞辻無惨」=「古典における最初の鬼・阿用郷の鬼」とピタリと一致する。
産屋敷と「柱」の名は、出雲神話を象徴的に表しているとも考えられるのだ。
*ちなみに出雲大社に祀られるオオクニヌシは医療・医薬の神でもあり、その先祖のスサノオは防疫神である。別記事で分析した『鬼滅の刃』と疫病との関連性とも符合する。
詳しくはコチラ↓『鬼滅の刃』が大ヒットしたのはコロナ禍だから!? 日本中世史の専門家が解説
(抜粋)
書籍『鬼滅の日本史』
監修:小和田哲男
【鬼滅の刃】鬼舞辻無惨は平将門がモデル!? 鬼殺隊の出身地もヒントに![歴史学科教授 監修]
【鬼滅の刃】禰豆子はなぜ竹をくわえているの?日本史で読み解く意外な理由[教授 監修]
編集:青木康(杜出版株式会社)
執筆協力:青木康、高野勝彦、常井宏平
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