新型コロナワクチンって、どういうもの? 開発方法や特徴を医師が解説

新型コロナワクチンって、どういうもの? 開発方法や特徴を医師が解説

 

新型コロナウイルスのワクチンには、どんな種類があるの?

新型コロナウイルス発生以降、急務となったワクチン開発。2020年12月には各国で接種がスタートした。これから日本に供給されるのはmRNAワクチンというタイプのものだが、ほかにもさまざまなワクチンが開発されている。違いは何なのだろうか?

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生ワクチン、不活化ワクチン、組換えタンパク
/ウイルスを体に入れる従来型

ここでワクチンの歴史をひもといてみよう。
有史以来、ウイルスとの戦いを続けている人類ではあるが、根絶に追い込んだウイルスもある。
根絶させたのは天然痘ウイルスだ。1796年、イギリスの医師のエドワード・ジェンナーが、牛の乳しぼりをする人には天然痘患者がいないことに着目し、8歳の少年に牛痘を接種。病原体を体内に入れることで、感染を防ぐことが確認されたのがワクチンのはじまりだ。
ジェンナーの挑戦から時を経てワクチン開発は進み、生きたウイルスそのものを弱毒化して接種する「生ワクチン」の技術が確立。1980年に天然痘ウイルスは根絶された。また、ポリオでもこの生ワクチンが功を奏し、根絶が目指されている。

このような生ワクチンには感染を予防するという高い効果があるが、「生きた」ウイルスを体内に入れるため、感染が成立し、比較的強い副反応が起きるリスクもある。
それならば、生きたウイルスではなくウイルスを「殺して」から接種すればよいのではという発想から、「不活化ワクチン」が生まれた。不活化ワクチンは、ウイルスを培養したのちにホルマリンなどで殺し(不活化という)、精製して作られる。
現在もインフルエンザウイルスに使用されている方法だが、生ワクチンと比べると免疫系の反応が弱いという欠点がある。そこでアジュバントという補助剤を用いることでその効果を高めたりすることも行われる。

さらに、ウイルスそのものを培養せずに、ウイルスの一部だけを合成してから精製し、接種する方法も生まれた。これは「組換えタンパクワクチン」と呼ばれ、精製されたタンパク質であるウイルスの成分を作り、これを接種することで体内に免疫を作り出すのだ。不活化ワクチンと同様に免疫系の反応は弱いが、副反応は比較的起こりにくいことが多い。

新型コロナウイルスのワクチンは、のちに述べる新しいテクノロジーを用いたワクチンの開発が主とされているが、不活化ワクチン、組換えタンパクワクチン、生ワクチンの開発も行われている。

 

≪従来のワクチン3タイプ まとめ≫

≪従来のワクチン3タイプ まとめ≫
※抗原提示細胞とは、体内に侵入した異物の一部を抗原として自己の細胞表面上に提示し、T細胞などを活性化する細胞

生ワクチン

強い免疫を期待できるため接種回数も少なくて済むが、副反応が起こりやすい。製造に手間がかかる。

不活化ワクチン

生ワクチンに比べると免疫原性は限定的だが、ウイルス粒子の様々な部位に対する免疫ができる。

組換えタンパクワクチン

ウイルス粒子の一部分に対して免疫がつくため、得られる免疫はより特異的。アジュバントが必要となる。

 

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mRNAワクチン、DNAワクチン、ウイルスペクター
ウイルスの遺伝子を使う最先端型

前出の生ワクチン、不活化ワクチン、組換えタンパクワクチンは、ウイルスそのもの、あるいはウイルスの断片や成分としてのタンパク質を接種する。これとは異なり、それらの「設計図」を投与する最先端技術も確立されている。新型コロナウイルスにおいても、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチンの3種類の研究開発が進み、先陣を切って実用化された。

これらの最新型ワクチンの仕組みは、ウイルスの一部であるタンパク質の「設計図」だけをヒトに投与し、ヒトの体内でウイルスの成分を作らせ、免疫系を刺激するというものである。遺伝子工学、遺伝子治療などを応用した技術だが、実は、新型コロナウイルス発生以前から開発が進められていた。
かつて、SARS、MERSが流行した際にはこぞって開発が進められていたが、感染が収束したり、症例数が減少したりといった理由により、中断していたのである。こうした最先端ワクチンの完成はまだまだ先、10年も20年もかかるだろうと考える研究者もいた。
そこに突如として起こった新型コロナウイルスのパンデミックにより、感染拡大対策の最大の武器となる最先端ワクチンの開発が急務となったのである。

 

RNAやDNAを合成して体内へ

2020年12月、世界で最初の新型コロナウイルスワクチンとして、ファイザー社・ビオンテック社のワクチンがアメリカの緊急使用許可を得た。日本でもファイザー社のワクチンが特例承認を得、2021年2月17日より、医療従事者から接種がスタートした。

ファイザー社のワクチンは、最先端ワクチンの一つであるメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンだ。このワクチンに使われるのは、ウイルスの設計図ともいえる核酸のRNAである。RNAを合成し、ヒトに接種するというものだ。

ヒトの体内に入ったRNAは細胞内に入る。すると、細胞内で、そのRNAを元にしてウイルスの一部分のタンパク質が作られる。そのタンパク質に対して動き出すのが免疫系である。免疫細胞が抗体を作り出し、本物の新型コロナウイルスが侵入した時には、いち早く攻撃できる体制ができあがる、というメカニズムだ。

ファイザー社の次に日本で承認されるといわれているのが、モデルナ社のワクチンだ。こちらも、mRNAワクチンである。合成されたRNAは壊れやすかったり細胞に届けにくかったりするため、脂質粒子で包んでカプセル状にして細胞まで届けるという技術が使われている。

別の最新技術を用いたワクチンとして、ウイルスベクターワクチンと呼ばれるものもある。これはベクターと呼ばれるウイルスに、設計図であるDNAを入れたものだ。アストラゼネカ社などがこの技術を用いたワクチンを開発した。日本でも接種が予定されており、承認が待たれている。アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンには、チンパンジーのアデノウイルス由来のベクターが使われる。ここに新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の遺伝子を組み込んで接種すると、免疫細胞が動き出すという仕組みだ。チンパンジーのアデノウイルスは、感染力はあるがヒトに病気を起こすウイルスではなく、安全性も高いとされる。

このほかに、ウイルスの設計図である核酸を使ったワクチンには、DNAワクチンと呼ばれるものもある。ウイルスの突起(スパイクタンパク質)を作る遺伝子情報をDNAにのせ、それを接種して細胞内に届けるというワクチンだ。日本国内では大阪大学や製薬企業のアンジェス社で開発が進められている。

 

≪新しいワクチン3タイプ まとめ≫

≪新しいワクチン3タイプ まとめ≫

mRNAワクチン
(メッセンジャーRNAワクチン)

遺伝子配列さえわかれば比較的簡単に作れ、ウイルス変異にも対応しやすい。

DNAワクチン

mRNAワクチンよりも安定して細胞まで運べるが、得られる免疫が低い可能性がある。大量生産ができ、製造コストも安いが投与量は多い。

ウイルスベクターワクチン

比較的高い免疫反応が期待できるが、複数回の使用が難しいため定期接種に向かない可能性がある。一部の感染症に対して使用実績がある。

 

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監修:峰宗太郎 Profile

(みね そうたろう)
医師(病理専門医)、薬剤師、博士(医学)。京都府生まれ。京都大学薬学部・名古屋大学医学部医学科卒業、東京大学大学院医学系研究科修了。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所などを経て、2018 年よりアメリカ国立研究機関で博士研究員を務める。主な著書に『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』(日本経済新聞出版)がある。専門は病理学・ウイルス学・免疫学など。ツイッター(@minesoh)で最新の医療情報を発信している。こびナビ副代表。

(抜粋)
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監修:峰宗太郎

 

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編集協力:坂尾昌昭、中尾祐子(株式会社G.B.)
執筆協力:大野 真、高山玲子
※本文中の情報は2021年2月26日時点の情報を元にしています
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WEB編集:FASHION BOX

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