精神科医の顔も持つ禅僧がレクチャー
今の時代にソロ活をおすすめする訳とは?
“ソロ活”という言葉が世の中に定着し始めてきた。誰にも縛られずに自由気ままに活動することばかりがクローズアップされがちだが、実は現代人にとってソロ活こそ必要不可欠な行為なのだとか。その理由を、ソロ活を誰よりも推奨する精神科医で臨済宗建長寺派 林香寺 住職の川野泰周さんに伺った。
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知らず知らずのうちに脳が疲れ切っている
臨済宗建長寺派林香寺の19代目住職にして精神科医を務める川野泰周さんは現代人のメンタルの疲弊ぶりに着目し、人々の心の疲れを癒やすべく独自の心理療法を実践しながら、その普及活動に取り組んでいる。
「私は住職と精神科医を兼業するかたわら、マインドフルネスの普及活動をしています。2010年頃から医学界でもマインドフルネスという言葉をたびたび目にするようになりました。マインドフルネスとは、今この瞬間の体験に注意を向ける状態を意味します。そのルーツを調べてみると仏教の瞑想だったのです。まさに私が体験してきた禅そのものであり、精神医療に応用してみたいと思ったのです。脳科学におけるエビデンスを見ても、マインドフルネスには心を解きほぐす効果があるとわかっていて、対人関係で緊張しやすい人やイライラしやすい人などに瞑想をすすめています。実際に改善したケースがいくつもあります」
マインドフルネスは精神医療に活用するだけでなく、むしろ多くの現代人にこそ取り入れてほしいそうだ。
「なぜなら、現代人の多くが脳疲労を引き起こしているからです」
脳疲労とは何か。あまり聞き馴染みのない言葉である。
「仕事でもプライベートでもPCやスマートフォンを使い、多種多様なSNSに触れざるを得ない現代社会では、情報過多によるマルチタスク化が促進され、知らず知らずのうちに脳が疲労状態に陥っています。そのせいで自分自身を内観する余力、これを私は注意資源と呼んでいるのですが、注意資源が枯渇してしまっているのが多くの現代人が抱えている問題なのです。注意資源が枯れた状況が続くと、何に悩んでいるわけでもないのに鬱々とした気持ちに陥る危険性があります」
マルチタスクから脱却するためにはシングルタスクへ切り替えることが望ましい。つまりはひとつのことに注意を向けるマインドフルネスの瞑想が最適というわけなのだ。
「ひとつの物事に集中しているとき、人間の脳が疲労しにくいことは医学的に証明されています。いうなれば“ソロ活”という方法は非常に理にかなっていて、現代人にとって必要な時間なのです。瞑想はソロ活の最たるもの。ここ林香寺ではたびたび坐禅会を催し、瞑想の手ほどきをしています。続けることが重要で、数カ月で変化を感じられる人もいます。周りの人から寛容になったね、最近楽しそうだねと言われるようになったという声をたくさん聞いています」
趣味を愉しむときは競わない、比べない
“ソロ活”とマインドフルネスはもはや同義である。坐禅や瞑想はそのひとつの方法だが、川野さんは趣味に没頭することもまた立派なマインドフルネスであると語る。
「趣味に夢中になっている時間は、まさしくひとつのことに意識が向けられている時間。趣味を愉しんでいる人はたいてい幸せそうでしょう? 現代人はそういう時間を持つべきです。ただし、趣味であっても他人の目を気にし始めると意味が変わります。誰かの評価を気にしたり、誰かと優劣をつけたり、あるいは収益に結び付けるような趣味はマインドフルネスにはなりにくい。写真を撮ってコンクールに出品して評価を気にするとか、釣りをするにしても釣果に一喜一憂しないのが大切。写真を撮ってピンボケしていても愉しんでしまえば大丈夫です。船の上で1日中釣り糸を垂らしてボーッとするだけでいいんですよ。何かと競い合った瞬間にそれは仕事と同じになってしまいますから」
他者の視線や思惑が関わってくると、途端にソロ活がマインドフルネスから遠ざかる。そうなるとイライラしたり、モヤモヤする場面が増えたりしてしまう。脳や心に良い効果をもたらすはずがない。
「もうひとつ、最近オランダで“ニクセン”という言葉が注目されています。ニクセンとはオランダ語であえて何もしないでボーッとすることを意味します。オランダのストレス対策に用いられていて、ストレスが過剰になってバーンアウト(燃え尽き症候群)して鬱状態になるのを防止する方法として注目されています」
ニクセンとマインドフルネス。このふたつを同時に満たす最良の方法があるという。川野さんも日々実践しているそうだ。
「それは散歩ですね。私は講演や出張で地方に赴くことが多く、その先々で昭和の香りが漂う旧い町並みの中を歩くのが大好きなんです。何も考えずに町の風景をぼんやり眺めながら歩くのはニクセンそのもの。一方で禅の視点も大切にしていて、足の裏に注意を向けて、一歩一歩踏みしめて歩く瞑想も行っています。かかとを上げ、つま先を上げ、移動し、着地をする。4段階に分けて意識をしながらゆっくり歩く。これはマインドフルな散歩のやり方なんです。何か趣味を持とうと思っても、何を始めたらいいのか迷ってしまうことが多いのではないでしょうか。それならばいつでも誰でもすぐに始められる散歩はもってこいだと思います。坐禅や瞑想よりも実践しやすいはず。散歩は今日からでも始められるニクセンであり、マインドフルネスですね」
“ソロ活”を続けると孤独から解放される
“ソロ活”と聞くと、自らすすんで孤独に身を置くことだと思いがちだ。孤独を嫌う人にとっては抵抗があるかもしれない。
「私はギターも趣味のひとつで、独りで弾いている時間はソロ活そのものなのですが、趣味を続けていると必ず仲間ができるものです。私の場合は、音楽好きな禅僧仲間と知り合って3人でバンドを結成しました。時々ライブも行っていますし、CDの制作もしています。つまり同志に出会える可能性が開けるわけです。それは音楽に限らず、鉄道やキャンプ、釣りの趣味でも同じ。最初は独りで始めても、いつの間にか同じソロ活を行っている人と繋がっていく。人間は孤独でありながら、また多くの他者と繋がっていることが意識できるようになります。その境地においては、寂寥感は感じられません。私がここ林香寺で時々開催している坐禅会は、瞑想に没頭しているのは自分ひとりだけではないと知り、その行為に価値づけをしてほしい目的もあるんです。私の大好きな芸人のヒロシさんは、仲間で集まってソロキャンプをされるそうです。非常に禅的で面白いアプローチだと思います。他者に干渉はせず、しかし共有感を持つという意識はソロ活を続けるうえでとても大切なことだからです」
趣味を持ち、心から愉しく集中すること。そして他者と競争や比較をしないこと。たまには同志で集まり、決して孤独ではないと知ること。これらを満たすことで現代人の疲れ切ったメンタルは、少なからず癒やされるに違いない。
「ソロ活は、現代人の脳疲労を癒やし、心を浄化するマインドフルネスそのもの。どんなことからでもいいので、すぐにでも始めてみませんか」
川野さんが瞑想する際は、お香を焚き30分くらい没入する。「一般の人には10分から15分の瞑想をすすめています」
川野さんは住職の他に精神科医の顔も持つ。週に2〜3回は白衣姿になるのがルーティン。
誰でもすぐに始められるソロ活が散歩である。「足に意識を向け、かかとを上げ、つま先を上げ、移動し、着地する一連の流れに集中すれば歩く瞑想になります」
学生時代からギターも趣味という川野さん。ときには禅僧仲間でバンド活動をし、ライブも行う。バンド名は「forblue」。オリジナル曲を収録したCDの制作も行っている。
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PROFILE/臨済宗建長寺派 林香寺 住職 川野泰周さん
1980年生まれ、神奈川県出身。慶應義塾大学医学部医学学科卒業。精神科医として診療に従事するなか、2014年より林香寺19代目の住職になる。現在は住職と精神科医を務めながら、マインドフルネスや禅の瞑想を広めるための講演や執筆、イベントなどにも積極的に取り組んでいる。
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text/Masaki Takahashi
(MonoMaster 2023年1月号)
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