「スナフキン主義」で令和が生きやすく! ムーミン研究家が“愛ある孤独”を分析[森下圭子 監修]

「スナフキン主義」で令和が生きやすく! ムーミン研究家が“愛ある孤独”を分析[森下圭子 監修]

気楽なひとり時間、新時代の上手な生き方 “スナフキン主義(イズム)”とは。

「ムーミン」シリーズに登場する、孤独と自由を愛する旅人、スナフキン。スナフキンは孤独主義者、でも彼のひとりは“ポジティブなひとり”。ムーミン作品の翻訳にも携わり、研究家として多方面で活躍する森下圭子氏が、スナフキンの「孤独」を考察する。

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『MonoMaster』2023年1月号では「ひとり時間の上手な過ごし方。」を巻頭特集。“ひとりの時間”を大事にする「ムーミン」のスナフキンの生き方に注目。<br/>雑誌を載せているのは『MonoMaster』1月号付録「ムーミン スナフキンがプリントされたおひとりさまテーブル」。
『MonoMaster』2023年1月号では「ひとり時間の上手な過ごし方。」を巻頭特集。“ひとりの時間”を大事にする「ムーミン」のスナフキンの生き方に注目した。
雑誌を置いている台は『MonoMaster』1月号付録の「ムーミン スナフキンがプリントされたおひとりさまテーブル」。

 

哲学的観点で読み解く! 孤独を愛し、自由で気まま、そしてしたたか。
スナフキンのひとり主義は、いまの時代を生きやすくする

ひとり、孤独。

それをなんとも魅力的に見せてくれるのが「ムーミン」に登場するスナフキンだ。ざっくりと紹介するなら、自由と孤独を愛する旅人。加えて詩人や音楽家、芸術家といった言葉が彼の紹介に並ぶ。

ムーミンは第二次世界大戦中にフィンランドで生まれた。作者のトーベ・ヤンソンは、物心ついた頃から絵を描いており、当然のように画家としての人生を歩み出していた。ところが戦争という耐え難い現実に、得意としていた個性的な色彩感覚を失ってしまう。そんな自分を慰めるように入り込んだ世界が、ムーミン谷だったのだ。

ムーミンたちはよく冒険をする。一方で、冒険物語によくいる無敵なヒーローは登場しない。皆どこか不器用で、冒険はともすれば珍道中に思えるところがある。ピンチを救うのは偶然だったり、ハッピーエンドは財宝やお姫様王子様でなく、ムーミン谷に立つムーミンやしきに戻ってくること。

また登場人物が不器用さを見せるとき、そこには孤独がつきまとう。実はムーミンの物語には、スナフキンに限らず、多くの登場人物たちの孤独が描かれている。それは作者が夏になると過ごした群島の人々に通じるところがあるのかもしれない。「しょせん私たちはひとりなのだ」という島の人たちの生き方に。

孤独を語るときにフィンランドでは感情的孤独という言葉を使うことがある。これはいってみれば孤立のようなもの。この感情的孤独については社会問題にもされており、社会でどう取り組むべきかという議論もある。ところがそうではない孤独、「ひとりでいること」については、子どもの頃から肯定されているのが窺える。

たとえばトーベ・ヤンソンが壁画を手がけた保育園には、子どもがひとりになれる場所が確保されている。喧嘩したあと、お昼寝の時間に寝たくないとき、ひとりになりたいときの空間には、絵本やぬいぐるみが置いてある。別の保育園では親が手作りしたパッチワークで作ったブランケットを子どもたちが使っていて、無地の生地にしてある一カ所に、子どもたちは「どんなことがあっても自分と一緒にいてくれる存在」の絵を描く。それは家族でもペットでも、お友だちでも、好きなキャラクターや自分の想像した存在でもいい。ムーミンの登場人物たちが経験する孤独というのは、これらの延長上にあるように思う。ひとりの時間は自分に向き合う時間。ただその場所は絶対に安心できる安全な場所でなければならない。そんな場所を見つけ、孤独の時間を手にした登場人物は、自分を取り戻すような成長をみせ、また自分の道を歩いていく。

ムーミンに登場するキャラクターたちの誰もが個性的なのは、こうした孤独の時間を経ていることも背景にあるのではないだろうか。

『MonoMaster』2023年1月号には、スナフキンの名セリフ集も掲載。心に沁みる……。
『MonoMaster』2023年1月号には、スナフキンの名セリフ集も掲載。心に沁みる……。

それではスナフキンは何が違うのか。スナフキンはどこにいたって、その場所を安心できる安全な場所にしてしまう。おまけにそれは、他の人たちにとっても安心できる安全な場所になってしまうようだ。だからスナフキンと出会ったムーミン谷の生きものたちは、思わず自分の本音や、他の人に言えなかったこと、迷っていたことをさらけ出す。ムーミンの物語を読むと、スナフキンが決して人の言葉を遮ることがないことに気づく。ひとりきりになりたいとき、言葉や音楽が浮かんできて詩作や作曲に集中したいときに誰かがやってきたとしても、心の中で思うところがあっても、スナフキンは誰かの声を遮ったり誰かを突き放すようなことをしない。

スナフキンがひとりでいる時間も、よく見てみれば、いつだって何かと関わっているのがわかる。自然の中にあふれるさまざまな声に耳を澄ます。鳥の声、風の匂い、太陽の光、横切っていく蝶や、釣り糸を垂らした先の川の流れ。彼の孤独とは感情的孤独ではなく、自然の声と関わり続けるための孤独。そして自然の声に応答するように詩が生まれ、曲が生まれる。

スナフキンについては名言を集めた本もあるし、ネットで検索するだけでも彼の印象的なセリフがいくつも出てくる。たとえば『ムーミン谷の夏まつり』にある「大切なのは、自分のしたいことがなにかを、わかってるってことだよ」というスナフキンの言葉。ムーミン谷の仲間たちが誰かと関わったり何かと関わりながら、やがて自分が安心できる安全な場所での孤独を経て自分や自分のしたいことに気づくエピソードの例は、ムーミンシリーズのどの一冊を読んでも見つけることができる。さらにスナフキンに至っては、関わるだけでなく、さまざまな声に応答するように詩や音楽を作る。

こうしたスナフキンの姿勢はフィンランドでの対話的取り組みに通じるところがある。関わり続けること、応答すること。それから理解という上から目線が生じそうな姿勢ではなく、考え方や違う視点を持った人たちに対して「もっと知りたい」と関心を寄せる好奇心。さらに声に耳を澄ませ、聞いてもらえたと相手が感じる時間(言葉を遮ったり、相手の意見をジャッジしない)。この感じが、さまざまな生きものたちがスナフキンのところにやってくる理由なのではないだろうか。

冬を前に南へ旅立つスナフキン。ムーミンの物語には、ときどき旅での経験をスナフキンが話す場面がある。違う文化、違う習慣をもった土地を旅するスナフキンは、自分が見聞きしたことを共有するような話をすることはあっても、その価値観を押し付けることはしない。自分の考えを語ることはあっても、一つの見方にすぎない。ある出来事が別の視点からも見えるように話をしているだけなのだ。旅を続け、さまざまな文化に出会い、自然など同じ言語をもたない存在とも関わり続ける中で、スナフキンからは偏見や先入観のようなものが削ぎ落とされていくように思われる。

スナフキンはリュックひとつで旅をする。そのリュックの中身にしたって、執着しないようにしている。自分の旅のため、自分の詩や音楽のためにあるといいものを持っているにすぎない。スナフキンが自然と関わるのにあるといいもの、詩が生まれるための、または音楽が自分の中で生まれてくるのにちょうどいいものを、彼はそのつどリュックにいれているのかもしれない。たとえば焚き火をし、やかんをかけてコーヒーを淹れる。それは便利さや効率を追求するものではない。自然と関わること、自分の中で何かが生まれるのを待つプロセスを、自分にとって心地よいものにしようとしているのだ。彼のリュックやポケットにあるものは、ひとりの時間、孤独でいることを夢あるものにしてくれているのではないだろうか。

孤独が感情的孤独にならないように。そのためには安心できる安全な場所にいる必要がある。スナフキンの孤独が特別なのは、それが自分だけのものでなく、彼と関わる他者にとっても安心できる安全な場所になってしまうこと。スナフキンの旅は、知識を増やすことよりも、自分がよりフラットでいられるように、先入観や偏見を削ぎ落とすためのもののように思える。

そして他者を尊重し、他者に対して対話的であること。そんな姿勢が自然にとれるのは、彼自身が「大切なのは、自分のしたいことがなにかを、わかってるってことだよ」という生き方をしているからだろう。

スナフキンの孤独は、自然を含む他者への愛でもあるのだ。

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教えてくれたのは……ムーミン研究家 森下圭子さん

「スナフキン主義」で令和が生きやすく! ムーミン研究家が“愛ある孤独”を分析[森下圭子 監修]
ムーミン研究家
森下圭子さん

【PROFILE】
ムーミン研究のため1994年に渡フィンし、現在は翻訳やフィンランドの現地レポートなども。ヘルシンキ在住。

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text/Keiko Morishita
(MonoMaster 2023年1月号)

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