神々が天上界より望む、”霧に煙る海に浮かぶ島”。それが地名の由来といわれている鹿児島県・霧島。神話が息づく大地に湧く温泉、自然の恵みあふれる食。藤井恵さんがその魅力に触れる旅を楽しみました。
今回の旅人
料理研究家 藤井 恵さん
栄養バランスのとれたレシピや簡単おかずレシピなどで幅広い世代から支持を集め、著書も多数。YouTube『藤井食堂』でもレシピを発信中。お酒を飲むことも大好き。
神々のパワーが宿る霧島神宮で旅の安全を祈願
ようやく暑さがやわらぎ、秋の深まりを感じ始めた頃、料理研究家の藤井恵さんが訪れたのは鹿児島県・霧島。天上界から神が地上に降り立ち、日本建国の歴史が始まったとされる「天孫降臨」の神話が今も息づく、神聖な空気に満ちた場所です。まずは、高千穂峰のふもとに建つ霧島神宮へごあいさつ。ここは「天孫降臨」の主人公ともいえる建国の神・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)を主祭神として祀る、由緒ある社。南九州屈指のパワースポットとしても知られています。早朝の清々しい空気の中、参道が結ぶ大鳥居、二の鳥居、三の鳥居をくぐり、本殿へ。ここで旅の無事を祈ります。
霧島神宮
霧島神宮の二の鳥居をくぐると現れる石段。緑に包まれ爽やかな空気が漂う。
国宝に指定された本殿は極彩色。
国歌「君が代」の歌詞にも詠まれる「さざれ石」が三の鳥居のそばに。
【霧島神宮】鹿児島県霧島市霧島田口2608-5
神話が息づく高千穂峰に建つ宿で、雄大な自然と温泉を堪能
旅の疲れを癒やす滞在先は、高千穂峰の中腹に建つ「界 霧島」。壮大な自然に包まれて温泉に浸かり、霧島ならではの風景、食、文化を感じながら過ごすことができる温泉旅館です。「薩摩シラス台地の間」と名付けられた49室すべての客室が桜島、錦江湾を見渡せる造りで、どこからでも眺められる雄大な自然を目の前に、みるみる心が澄んでいくよう。「とにかく景色が最高!」と藤井さんも感動です。火山噴出物であるシラスのベッドボードや、薩摩和紙・大島紬などの工芸品が配された空間にほっこり。温泉へは、専用のスロープカーで下ること約3分、すすき野原に忽然と現れる湯浴み小屋へ。ほの暗い空間に源泉かけ流しの湯を満たした内湯と、すすき野原を望む露天風呂で心の洗濯を。夜は食事処で黒酢や黒豚など地元食材たっぷりの会席を味わい、トラベルライブラリーで天孫降臨の物語を舞で演じる「天孫降臨ENBU」を見学し、霧島の魅力を存分に堪能。心地よい眠りに誘われながら、静かに夜が更けていきます。
見渡す限りのすすき野原に佇む「界 霧島」の露天風呂。清々しい朝、静寂の夜、どちらも特別な湯浴みに。
客室棟のビューテラスからは霧島高原と桜島を見下ろす絶景が広がる。視界を遮るものはなにもなく、いつまでも眺めていたくなる。
ロビー
落ち着いた雰囲気のロビーラウンジには、鹿児島や霧島にまつわる本が並ぶトラベルライブラリーも。
夕食
夕食の特別会席「黒酢で味わう和牛と黒豚の天地蒸し会席」。
天と地を表現した2段のせいろで、和牛、黒豚、野菜を蒸し上げる「天地蒸し」は迫力満点!
客室
「薩摩シラス大地の間」の特別室。大きな窓に面した一画にごろ寝ができるマットを敷き詰めたスペースが。
客室露天付きで気ままに湯浴みを楽しめる。
地元の焼酎蔵「中村酒造場」の焼酎を、ソーダ割、水割りなど、さまざまな飲み方で飲み比べる「手業のひととき」の一部も客室で。翌日の醸造蔵見学がいっそう楽しみに。
温泉
温泉は広大なすすき野原の中の湯浴み小屋に。
内湯は明るさを抑え、リラックス感を感じる造り。温泉は弱酸性の単純硫黄泉でとろみのある湯ざわり。
絶景スイーツ×焼酎
芋焼酎とラム酒が香るアイス最中をセットにした「だれやめセット」を、客室やビューテラスで楽しむこともできる。「だれやめ」は疲れを癒やすという南九州の方言。
日が暮れるとビューテラスの暖炉に火が灯る。15:00~22:00 1名¥1,300
ご当地楽(がく)
その土地の伝統工芸、芸能、食などを楽しめるおもてなし「ご当地楽」。こちらでは霧島の地に語り継がれる「天孫降臨」のストーリーを、神楽鈴と太鼓を使った舞で披露。21:15から、トラベルライブラリーで。
早朝、温泉旅館「界 霧島」の客室から望む雲海。遠くに桜島の影が浮かび、淡い色が混じり合う空の色はたとえようのない美しさ。
丁寧な手仕事から生まれる日本の焼酎の魅力を再発見「中村酒造場」を訪ねて
「界」が企画するご当地文化体験”手業のひととき”。ここ霧島では、「杜氏から教わる本格焼酎と醸造蔵見学」を実施しています。今回訪れたのは、県内でも3軒のみという石造り蔵のひとつ「中村酒造場」。前日に宿で焼酎の飲み比べを済ませ、焼酎の楽しみ方や味わいの違いを体験した藤井さんも興味津々です。到着すると、6代目杜氏・中村慎弥さんが迎えてくれました。最初に、鹿児島の焼酎の歴史や、蔵の変遷、焼酎の市場などのお話を伺い、いよいよ蔵の中へ。足を踏み入れた瞬間、暑いくらいの室温に驚きます。「麹が繁殖するときに発する熱でこれだけの温かさになるんですよ」と中村さん。その後、あちこちでもろみが泡立つタンクや甕の間を歩いて、仕込みタンクの撹拌を体験。「思ったよりやわらかい感覚! すべて手作業で行う手間のかかる工程だからこそ生まれる、繊細な味わいがあるのですね。焼酎のおいしさにあらためて目覚めそうです」と藤井さん。伝統を守りつつ、現代に合う新しい焼酎、味わいのために挑戦し続ける老舗。その凄みを感じる、貴重な体験となりました。
教えてくれたのは
中村酒造場 取締役 杜氏 中村慎弥さん
東京農業大学醸造科学科卒業後、山形県酒田市の東北銘醸、大阪で酒販流通として経験を積む。2012年以降、中村酒造場の6代目杜氏として、焼酎造りの舵を取る。
地元の原料を使い、伝統の工程で仕込みをすすめる
洗米、米蒸、製麹、もろみ、蒸留、熟成と、様々な工程を手作業で行っている中村酒造場。
麹の発酵により作業場全体が温かい。
奥にはさらに熱気を帯びる、木製の保温室、麹室が。中に棲みつく麹菌は焼酎の味わいを左右する蔵の財産。ふだんは公開されない場所だが、見学では室内に入ることができる。
主原料のサツマイモは地元鹿児島の契約農家から仕入れている。霧島の清冽な軟水も、焼酎のおいしさの重要なカギ。中村さんが工程を丁寧に説明してくれる。
創業当時の甕やタンクを見学し、味わい方を教わる
レンガ造りが目を引く外観。
代表銘酒「なかむら」「玉露」「上野原」のほか、6代目杜氏の中村さんが新たな試みとして、新種のサツマイモや工程で作る「Amaging」や「the traditional」などのシリーズも展開。「酔うためではなく、味わうためのお酒を作りたい」(中村さん)
大きな仕込みタンクの撹拌を体験。
1888年の創業当時から使っているという甕も圧巻。甕仕込みもこの蔵の特長。
界 霧島 ご当地文化体験「手業のひととき」杜氏から教わる本格焼酎と醸造蔵見学
開催期間:2024年2月まで 時間:飲み比べは滞在日1日目、見学は滞在日2日目13:00~14:00 場所:見学は中村酒造場にて現地集合・解散 定員:1日1名~5名 申し込み:「界 霧島」公式サイトで7日前までに要予約 *宿泊者限定
鹿児島県・霧島温泉 界 霧島
鹿児島県霧島市霧島田口字霧島山2583-21 1泊¥31,000(2名1室利用時1名あたり)税・サ込、夕朝食付きJR霧島神宮駅より車で15分、鹿児島空港より車で約45分 ☎︎:050-3134-8092(界予約センター)https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaikirishima/
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「界」とは…… 星野リゾートが運営する温泉旅館ブランド「界」。現在全国22か所に展開し、「王道なのに、あたらしい。」をテーマに、快適な和の空間、その地域や季節ならではのおもてなしを用意。地域文化を楽しめる特別なサービスも提供しています。
構成・文/大人のおしゃれ手帖編集部 撮影/砂原 文
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