女性が抱える健康課題を技術や知識、サービスで解決することの総称とされるフェムテック/フェムケア。多くの企業・ブランドがフェムテック/フェムケア関連のアイテムを発売しており、その業種は実に多種多様だ。2022年5月にセルフケアブランド「pace(ペース)」を誕生させたエースは、1940年創業の老舗バッグブランド。なぜ今フェムテック/フェムケアに参入するのか担当者に話を聞いたら、うなずくしかない答えが返ってきた。
お話を伺った方々
(左)
営業本部 事業開発部
市川美樹さん
(右)
取締役
営業本部
海外事業部長兼事業開発部長
野口雄一郎さん
Q:フェムテック/フェムケアのブランドを始めたきっかけは?
野口さん(以下、敬称略) 私が所属する事業開発部は新規事業を立ち上げることを主な業務としています。そこで、2021年4月に社内から新事業のアイデアを募ったところ、50件ほど応募がありました。そのなかで優勝したのが、市川の提案したフェムテック/フェムケアの事業になります。
市川さん(以下、敬称略) 私自身がもともとフェムテック/フェムケアに興味を持っていたこともあり、募集内容に制限はなかったので、せっかくの機会だと思って応募しました。選ばれたと聞いたときは嬉しいのはもちろんですが、驚きもありましたね。普段、社内でフェムテック/フェムケアという話題が普通に飛び交うこともありませんでしたし、審査する役員は全員男性だったので。選ばれることはないだろうなと、あまり期待していなかったんですが、選んでいただいたことで、フェムテック/フェムケアを認められたというか、これを普通に仕事としてやっていいんだという、ちょっと不思議な新鮮さを感じました。
野口 弊社は創業が1940年ということもあり、私たち社員もどちらかというと古い会社のイメージがあると思っていました。ですが、市川の提案した事業が優勝したことで、弊社のトップの男性陣は私たちが思うよりもポジティブなんだというのがわかって、社員がびっくりしたのと同時に喜んでいましたね。
市川 発表後は、いろんな社員や販売スタッフの方からお声をかけていただいたんです。「同じ女性として嬉しいです」とか、男性社員からも「フェムテックとか全然知らなかったけど、この機会に調べてみたよ」というような言葉をいただいて、みなさんがポジティブな印象で受け取ってくださったのが嬉しいですね。
Q:ブランドを立ち上げるのに、大変だったことは?
市川 商品を作るにあたって、一緒に作っていただくパートナーさんを探す必要がありました。ですが、弊社はずっとバッグを作ってきた会社なので、バッグ以外のものを作るパートナーさんのツテもなかったですし、そういったハウツーもありませんでした。なので、私がいろんな展示会に足を運んで、たくさん名刺を配ってお話をして、お付き合いさせていただくパートナーさんを見つけていきました。数え切れないぐらいたくさんの方とお会いして、やりたいことを説明していったので、だいぶ鍛えられましたね(笑)。
野口 2021年の5月に結果が発表された後、6月に市川は今の部署に移動して、この事業を立ち上げることになったんですが、当時はフェムテック/フェムケア事業の担当者は彼女1人しかいませんでした。すべて1人でやっていったので、とても大変だったと思いますが、彼女の働きぶりは本当にすごかったです。私が「あれやった?」「これやった?」と確認しなくても、どんどん自分で考えて動きますし、今年からは1人増えてチーム体制になったので、チーム内でいろいろと議論しながら進めています。もともとこの事業は、市川が手をあげて始まったものですが、人間は自発的にやりたいと思う仕事をやるとき、すごいパワーを出して取り組むものなんだと近くにいて実感しましたね。
Q:このラインナップになった理由は?
市川 社内公募で提案したときの企画は、吸水ショーツを作りたいという趣旨でしたが、事業化するにあたってはもっとアイテムを増やしたほうが女性のサポートができるだろうと思いました。事業化することが決まってすぐ、弊社の女性社員にフェムテック/フェムケアや生理などについてアンケートをとったんですが、その回答をヒントにアイテムを増やしていきました。例えば、「なぜ吸水ショーツを使わないのか?」という質問には、衛生面が気になるなどの回答があったので、じゃあデリケートゾーンのケアができる商品があったら、もっとカジュアルに手にとってもらえるかなと思ってデリケートケアミストを作りました。同じように、アンケートの回答を元に、和漢ブレンドティーやCBD5%オイル、CBDロールオンを作りました。
Q:ペースのアイテムをどのように使ってほしいですか?
市川 弊社はバッグ作りを通して人の移動や旅をサポートしてきました。そんな会社から生まれたペースもまた、女性の移動時のケアを大切にしています。ペースのブランドコンセプトは「どんなときもあなたのそばにいられるセルフケアブランド」。普段の仕事中も移動中も旅行中も、フェムケアを含むセルフケアをトータルサポートするブランドでありたいと考えています。なので、ペースのアイテムは全部サイズを小さめにしました。ポーチの中やバッグの中に入れて持ち歩けるサイズにした方が、日中のケアをするのに便利だと考えたからです。お茶も使いやすさを考えてインスタントティーにしました。吸水ショーツは巾着袋がパッケージになっていて、吸水ショーツを中に入れたらそのままスーツケースの隙間やバッグの底に入れて持ち歩けるんです。
野口 ペース(pace)というブランド名には「人生という長い旅路を、どんなときも自分のペースで歩めるように」という意味が込められています。普段の生活や旅行を含め、人生のなかでずっとそばに置いて使ってほしいですね。
Q:ペースというブランドをどのようにしていきたいですか?
市川 このアイテムを必要としている人に、きちんと届けていきたいと思います。今はECサイトでしか購入できませんが、今後は実店舗にも置いてもらい、手にとって見てもらえるようにしたいと思っています。そうすることで、みなさんが自分を大切にするという行為を、もっとカジュアルにできるようになってほしいと思っています。また、そのためにより手に取りやすいアイテムをこれからも増やしていきたいです。みなさんに広く使っていただいて、移動中や旅行中でも「これがあるから大丈夫」というような存在になれたらいいですね。
担当者が解説! ペースのアイテム紹介!
「オーガニックコットン吸水サニタリーショーツ」
腰の部分の高さやゴムの細さなど、一番試作を重ねたアイテム。吸水ショーツのユーザーでもある市川さんが、こうだったらいいのにと思ったことを詰め込んだそう。
「全部で3色あり、形はショーツタイプとボクサータイプを用意しました。1度の生理期間中でも調子の波があると思うので、この日はこれがいいけど、この日はこれがいいと状態に合わせて選べるようにしたらいいなと思ったんです。また、ボクサータイプはよりホールド感がありますし、丈が長めなので、より体を冷やしにくいというメリットがあります。ボクサータイプは後ろの上の方までパッドがついているので、横になっても安心感があります」(市川さん)
「生地はオーガニックコットンを使っていて、すごく肌触りがいいし伸びもいいので使いやすいと思います。パッド部分をグレーにしたのはこだわりですね。生理期間中、どこにどのぐらいの量を吸わせているのかがわかるので、体調の変化を確認できるんです。また、あとどれぐらい吸ってくれそうかというのもわかりやすいんです」(市川さん)
「デリケートケアミスト」
天然成分99%のお肌に優しいデリケートゾーン用化粧水。さっぱりとした使用感の弱酸性ミストで、やさしく潤いを与え、すこやかなお肌へ導く。
「実はイチオシのアイテムです。ペーパーにミストをかけて、デリケートゾーンをふきとると、においや不快感がだいぶ抑えられるんです。コンセプト原料は、アップサイクル発酵原料のオーガニック有機米を発酵し抽出したエキス『米もろみ粕エキス』。肌を保湿し、バリア機能をサポートしてくれる働きがあるんです」(市川さん)
「和漢ブレンドティー」
台湾の漢方製薬メーカー・台湾順天堂製薬(日本支社) が監修。解(ほぐす)・満(みちる)・巡(めぐる)の3種類があり、それぞれに異なる和漢がブレンドされている。
「社内で生理期間中や更年期、どんな症状が辛いですかと聞いたとき、PMSでイライラしてしまうとか、生理前はどうしてもお肌が荒れてしまうとか、冷えが気になるという回答が多く出ました。じゃあそれならと、リラックスしたい方や、潤いをチャージしたい方、巡りを良くしたい方にそれぞれおすすめの和漢をブレンドしたお茶を作ったんです。それぞれ、ジャスミン茶、緑茶、ルイボス茶がベースなので飲みやすくなっています」(市川さん)
「CBD5%オイル」
初心者でも始めやすい、高品質なスイス産アイソレートCBD5%含有。CBDとは、カンナビジオールのことで、麻に含まれる栄養素カンナビノイドのひとつ。美容や健康などのシーンで活用されている、近年注目の成分。
「リラックスやリフレッシュするために作ったんですが、和漢ブレンドティーに垂らして飲んでもいいので、その日の気分によって合わせて気軽に取り入れていただけたらと思います。味はノンフレーバー・ミント・ピーチの3種類。ピーチはお茶と相性がいいので、個人的におすすめです」(市川さん)
「CBDロールオン」
肌と女性にやさしいホホバオイルをベースに、CBDと精油をブレンド。うなじやこめかみ、肩や手首など好みの箇所に使える。
「こちらは体に塗って使う用になります。ポーチなどに入れて持ち運びやすいサイズなので、移動中でも気になるときにサッと使えます。異なる精油がブレンドされた3種類をご用意していますが、私がよく使う香りはラベンダーとゼラニウムのミックス。デスクワーク中にうなじに使ったりすると、心地よい香りで気持ちがほぐれますよ」(市川さん)
pace公式オンラインストア
https://your-pace.jp/
【今回のまとめ】
生理期間中の移動や旅行は不安や心配、イライラがつきまとう。そんなネガティブな気分を和らげようと考えたのは、移動や旅の快適性について考えているバッグブランドならではの視点だ。パッケージに使われているグラデーションカラーも奥が深い。「どの立ち位置に自分がいてもいいし自分自身をはっきりカテゴライズしなくてもいい」というメッセージがこめられており、それは生理の症状や重さは人それぞれ異なり誰がいい悪いということではないという考えにも通じる。同ブランドは、自分のスピードをうまい具合に調整してくれる、ペースメーカーのようなブランドだと感じた。
取材・文/金山 靖 撮影/深瀬典子(G.P.FLAG)