辛酸なめ子が見かけたお坊さんとメガネ女子のギルティフリーラブ

『steady.』で連載中の「辛酸なめ子の覗き見♡OL妄想劇場」。今回は空港で見かけたお坊さんとメガネ女子とのやりとりです。

出典: FASHION BOX

 

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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。皇室、セレブリティ、スピリチュアルなどの分野に精通。著書は『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎)、『女子校育ち』(筑摩書房)、『セレブマニア』(ぶんか社)、『辛酸なめ子のつぶやきデトックス』(宝島社)など。『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)は、日本のカルチャー要素をキーワードに、漫画タッチで構成されています。ツイッターのシュールボイスもお見逃しなく。

お坊さんにさり気なくアプローチするメガネ女子を空港で発見

先日仕事で羽田空港国際線ターミナルを取材することになり、時間が余ったのでカフェに立ち寄りました。すると、知人らしきお坊さんをお茶に誘う女子を発見。お坊さんは遠慮していたのですが、一見禁欲的なメガネ女子の方が積極的でした。「駐車場代のかわりにおごらせてください」「いやいや悪いですよ……」「小銭をなくしたいんです!」「そうですか、それでは……ありがたくいただきます」

カフェでソフトクリームをおごるのにもこのやりとりが。海外に行くらしい女子が「小銭をなくしたい」という必要性を訴えてやっと受け入れてもらいました。お坊さんを誘う時は、できるだけ罪の意識を感じさせないようにする、というのがポイントです。余計なカルマを積みたくないのがお坊さんなのです。ソフトクリームをおごられる、という享楽的な行為は、小銭を減らしてあげる、という善行によってプラスマイナス0カルマになります。

その女子は「◯◯さんがすごいホメてましたよ。温和な方だって」と、お坊さんのことを持ち上げていました。チラッと拝見すると柔和な表情で人徳がありそうです。「そういえば△△さんからFB申請が来ましたよ」「……」やはりモテているようです。ライバルの存在を感じたのか女子は少し沈黙。温和な若僧侶は、抹茶のソフトクリームを食べながら豆腐やおからの話などしていました。お坊さんとの話題は豆腐が盛り上がる、と脳内メモ。

女性は社会人留学するらしく、お坊さんが「英語ができるなんてすごい」と言うと「でも中国語が読めるじゃないですか」と、ホメ返す女子。「あれは古典ですから」とお坊さんは謙遜しつつも嬉しそうでした。この女子はさり気なくお坊さんの扱い方を心得ています。気付いたらお坊さんの心を掌握しているようでした。

出典: FASHION BOX

「では気を付けて行ってきてください。本当に無事に帰ってきてくださいね」と、重ね重ね無事を祈るお坊さん。お坊さんの念が守護霊並にガードしてくれそうです。最初はお茶するのを遠慮していたお坊さんも、お坊さん転がしのうまい女子に対して情が移ってきているようでした。でも、これから彼女は遠い国に旅立ってしまいます。「帰国したら、またぜひ仏陀の勉強会とかでお会いしましょう」「ぜひぜひ……」

最後に「仏陀の勉強会」というパワーワードを発した女子。身持ちの堅さ、そして仏教への理解をアピール。お坊さんと親密になるには、若い男女にありがちな「飲みに行きましょう」という誘いではなく、一緒に「仏陀の勉強会」で魂を高め合うのが良さそうです。その後懇親会がありそうですが、勉強会で徳を積んでいるので、飲食してもギルティフリー、罪の意識に咎められません。お坊さんのカルマに対する気遣いが素晴らしいです。

荷物検査のゲートをくぐる女子を、お坊さんはずっと見送っていました。その瞳の湿度に、老婆心ながら好意の兆しを感じました。ギルティフリーなラブを応援します……。

(steady.編集部)
文/辛酸なめ子
編/FASHION BOX
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