「佐藤」と「鈴木」が多いのはなぜ? 日本で最も多い名字の謎に迫る!

「佐藤」と「鈴木」が多いのはなぜ? 日本で最も多い名字の謎に迫る!

日本で一番多い名字は「佐藤」さんで、次いで多いのが「鈴木」さんということをなんとなく知っている人も多いのでは? 学生時代、クラスに何人もいて、それぞれにあだ名をつけて呼び分けていたなんて思い出がある人もいるかもしれない。一体なぜこの2つの名字が多いのか、日本の歴史に隠されたその秘密を姓氏研究家の森岡浩さんに伺った。

≪目次≫
●「佐藤」は藤原一族のブランド?
●「鈴木」は神聖な「すすき」が由来?
●教えてくれたのは……

「佐藤」は藤原一族のブランド?

東日本の出身者なら、学生時代、必ずクラスに1人は「佐藤」という名字の人がいたのを覚えてはいないだろうか。実際の佐藤さんには、クラスに1人どころか複数人いたため、微妙なあだ名で呼ばれていた……という苦い思い出を持つ人もいるはず。しかし、それも無理はない。佐藤は日本で一番多い名字だからだ。佐藤の名字が多い理由を説明するためには、まず、日本の歴史において藤原氏が繁栄したことを説明しなければならない。

藤原氏は中大兄皇子(なかのおおえのおうじ・のちの第38代天智天皇)とともに大化の改新を主導した中臣鎌足を祖とする。鎌足の息子・藤原不比等から藤原氏を名乗るようになり、不比等の娘が第45代聖武天皇の皇后となったことを皮切りに、娘を天皇に嫁がせて天皇の外祖父になることで権力を握る外戚政治によって平安時代に貴族の頂点に立った。

しかし、藤原氏の一族に生まれた者であっても、不比等の次男・房前(ふささき)の子孫である「藤原北家」の出身で、さらに本家筋の人間しか朝廷の要職につくことはできなかった。

中央での出世が見こめない傍系の藤原氏の人々は、中級・下級貴族として都でくすぶっているよりも、行政官として地方に赴任することを選び、任期終了後も藤原ブランドが有効な地方にとどまることを選ぶ者が出てくるようになった。その結果、藤原氏の出身であることを示す「佐藤」「斎藤」など「藤」の漢字を用いた名字を使う者が増えたのである。

「鈴木」は神聖な「すすき」が由来?

佐藤についで数が多い名字が「鈴木」である。複数のルーツを持つとされる佐藤とは異なり、和歌山県海南市にある藤白神社が全国の鈴木さんのルーツであることが判明している。

和歌山県南部には「熊野三山」と総称される熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社という3つの神社が鎮座しており、平安時代末期、この熊野三山に参詣する「熊野詣」が皇族や大貴族の間で流行した。

熊野詣の参詣道には熊野三山の神々の御子神を祀る「王子社」が点在しており、藤白神社もその一つであった。

10世紀、神武天皇よりも先に大和国に降臨していたとされる神・ニギハヤヒを祖とする古代の名門・穂積氏出身で、熊野速玉大社の神官であった鈴木基行が藤白の地に移り住み、藤白神社を拠点にして熊野信仰を広めたことで、鈴木の名字が全国に広がっていったと考えられている。

このため、藤白神社の境内には現在も藤白鈴木氏が居住したという「鈴木屋敷跡」が残されており、「全国鈴木サミット」というイベントも開催されている。

なお、鈴木という名字はもともと収穫後の稲藁を田に積み上げたものを意味する「すすき」に由来する。これは藤白鈴木氏のもともとの姓である穂積氏とほぼ同じ意味で、熊野地方ではこの「すすき」が農耕の神の依り代となる神聖なものとされており、熊野地方の神職には「すすき」の名字を名乗る者が多かったという。

クラスに1人は必ずいた?! 「佐藤」と「鈴木」の名字が多い謎に迫る!
出典: FASHION BOX

ただ、「すすき」は発音しづらかったことから、「すずき」と一音濁るようになり、やがて神職にとって身近な楽器である鈴の字を用いた「鈴木」の漢字があてられるようになったという。

このため、鈴木の名字を名乗る家は熊野信仰が盛んだった東海・関東・東北に多い。たとえば三河国(現在の愛知県東部)には藤白鈴木氏の流れを汲む三河鈴木氏が存在し、徳川家の前身である松平家に仕えたため、鈴木の名字は関東に広まっていったのである。

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教えてくれたのは……

森岡浩(もりおか・ひろし)先生

【Profile】
1986年、早稲田大学政治経済学部卒業。以来、姓氏研究家として活動。現在は、テレビ・ラジオへの出演や、書籍・雑誌の執筆・監修を行う。著書は『決定版! 名字のヒミツ』(朝日新聞出版)、『日本名字家系大事典』『難読・稀少名字大事典』『県別名字ランキング事典』(以上、東京堂出版)『名字の地図』(日本実業出版社)、『名字の謎』(ちくま文庫)、『名字の謎がわかる本』(幻冬舎文庫)、『47都道府県・名字百科』(丸善出版)など多数。

(抜粋)

クラスに1人は必ずいた?! 「佐藤」と「鈴木」の名字が多い謎に迫る!

宝島社新書『47都道府県 名字の秘密がわかる事典』

監修:森岡浩

編集:佐藤裕二、斉藤健太、林賢吾、山下孝子(株式会社ファミリーマガジン)
執筆協力:水野春彦、幕田けいた、佐藤勇馬、早川満、荻田美加
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
WEB編集:FASHION BOX、株式会社エクスライト

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