覚えていたことを忘れてしまった!ということを一度は経験したことがあるでしょう。人間は「忘れる」動物で、勉強しても24時間後には4分の3が頭から抜けていくのだとか。ですが、やり方次第で記憶の定着率を上げることは可能です。医学博士の柿木隆介先生にその方法をうかがいました。
≪目次≫
●人は1週間で77%を忘れる
●「夜寝る前」と「翌朝」の2回の復習が理想的
●24時間以内の復習と1週間以内に総復習
●忘却のポイント
●教えてくれたのは……
人は1週間で77%を忘れる
残念ながら人間の脳は、記憶した直後からどんどん忘れていきます。これを防ぐには、ひたすら復習を繰り返すことで脳に定着させ長期記憶にするしかありません。
人間がいかに忘れやすいかを数値的に明らかにした有名な実験結果があります。
19~20世紀のドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスは、被験者に規則性のない3つのアルファベットの羅列を20パターン記憶させ、時間の経過とともにその文字をどれくらい思い出せるかを調べました。この実験では、20分後に42%、1時間後に56%、1日後に74%、1週間後に77%、1カ月後には79%を忘れていたという結果が出ました。このデータを折れ線グラフにしたものが「エビングハウスの忘却曲線」です。
要するに、せっかく覚えてもわずか20分後には記憶の半分近くを、24時間後には4分の3も忘れてしまうのです。したがって、たとえば試験のために一夜漬けで暗記しても、短期記憶で辛うじてテストでは点が取れるかもしれませんが、1週間後には77%を忘れているわけです。ただし、このエビングハウスの実験には続きがあります。同じアルファベットの羅列を数日後にもう一度記憶させてみると、一度目よりもたくさんのパターンを覚え、さらに三度目には二度目よりも成績が上がったという結果が出ているのです。
無意味なアルファベットの羅列でも、人は無意識のうちに海馬に貯蔵しています。そのため、反復してもう一度記憶することで、以前に覚えた情報を思い出せるようになるのです。これを繰り返せば、短期記憶が長期記憶になり、20パターンの羅列も自然に思い出せるようになるわけです。
反復学習というと、子どもの頃に先生や親からさんざん言われてきて、うんざりする人もいるかもしれません。でも、この実験結果からもわかるように、いわゆる反復学習は科学的にも効果は絶大なのです。
記憶は繰り返しで定着する
図1. エビングハウスの忘却曲線と復習の関係
出所:大和書房『記憶力の脳科学』をもとに作成
・20分後には42%忘れる
・1時間後には56%忘れる
・1日後には74%忘れる
・1週間後には77%忘れる
・1カ月後には79%忘れる
↓
復習をしなかった場合は約8割忘れてしまう
Point:復習を繰り返しおこなうことで忘却率が減少していく
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「夜寝る前」と「翌朝」の2回の復習が理想的
では、復習はどのようなタイミングでするのが、より効果的なのでしょうか。
エビングハウスの実験結果からもわかるとおり、人は一度覚えただけだと1日で70%以上を忘れてしまいます。24時間で4分の3を忘れるということは、言い換えれば4分の1は中期的な記憶としてまだ脳に残っているわけです。ですので、このタイミングで反復学習をして長期記憶にすると、定着率は比較的保たれます。
それを踏まえ私は、覚えた日の「夜寝る前」と、「翌朝」の2回、復習を繰り返すことをすすめています。これは一定時間をあけて中期的な記憶として脳に残っている情報を「覚え直す」という考えからです。
一般的なビジネスパーソンであれば、朝の出勤前に勉強し、帰宅して夕飯を食べた後に復習するというパターンでも問題ありません。いずれにせよ、自分の生活リズムに合わせたかたちで、覚えたあと24時間以内に復習するといいわけです。ですから、たとえば毎日の通勤電車の中で、前日に勉強した内容をどれだけ覚えているか確認するだけでも、定着率は変わるでしょう。
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24時間以内の復習と1週間以内に総復習
記憶の定着率をさらに上げたいのであれば、平日の「夜寝る前」と「翌朝」の2回に加えて、たとえば週末にもう一度復習すると理想的です。可能であれば毎週末に、その週に学習したことの総復習をすると、記憶の定着率はぐっと高くなるでしょう。
たとえどんなに単調な情報であっても、長期記憶として脳に定着させることはできるのです。そのためには、何度も見たり書いたり、声に出して読むことを繰り返し、海馬に無理やりにでも記憶させるしかありません。人間は反復学習しなければ覚えられない動物なのです。
ただし、なかには何度復習してもまったく覚えられない科目もあるかもしれません。そんなときの奥の手を紹介しておきましょう。その情報はあなたの脳にとって「縁」がない、いってしまえば「重要性」が薄いものと考えるのです。それでも諦めずに反復して少しずつでも覚え続けるという手もあります。ただ、もうこれ以上反復できないときは、「覚える必要がない」と見切りをつけて、そのぶん別の科目に労力と時間を割くという選択もあります。
ともあれ、資格試験など長期的なスパンの学習であれば、毎日コツコツと、そして何度も復習を繰り返す習慣をつけることが、忘れにくい長期記憶をつくるのは間違いありません。
適切なタイミングで効率的に「覚え直す」
図2. 記憶を効率よく覚える時間帯と方法
[当日]
Point:寝る前の復習
覚えた内容を振り返り、「覚えていること」「覚えていないこと」を確認する
覚える
「覚える環境を変える」「文字の大きさに変化をつける」など「インパクトを与える」方法を取り入れながら覚える
[翌日]
Point:翌日の午前復習
通勤電車内などで「前日覚えた内容」の定着度を確認。忘れていたらその日の夜に再度覚える
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忘却のポイント
1. 人間は1日経つと74%を忘れる
2. 繰り返し反復することで記憶は定着する
3. 「寝る前」と「朝」の1セットの復習が効果的(書いたり声に出すとより効果的!)
4. 週末に再度復習して記憶を定着させる
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教えてくれたのは……
柿木隆介先生
【PROFILE】
自然科学研究機構生理学研究所名誉教授、順天堂大学医学部客員教授、国立大学法人総合研究大学院大学名誉教授。九州大学医学部卒、医学博士。佐賀医科大学助手、ロンドン大学医学部研究員など経て2004年より現職。著書に『記憶力の脳科学』(大和書房)など多数。
(抜粋)
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編集協力:金丸信丈、榎元彰信、中野祐也、本宮鈴子(Loops Production)
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