はじめよう! 私たちのフェムテック
皆さん、「フェムテック」という言葉をご存じですか? 女性が抱える健康の課題を現代の知恵や技術で解決するために生まれたムーブメントの総称で、近年世界中で広がっています。女性特有疾患はもちろん、性、ヘルスケア、メンタルケアなど今まで表面化しにくかった女性たちの声をオープンにしていくべく、『リンネル』でも取り組んでいきます。第1回目は女性に関する問題や生理のあれこれについて、それぞれのメディアで発信するタレントのSHELLYさん、ライターの長田杏奈さん、株式会社ライフサカスCEOの西部沙緒里さんにお話を伺いました。
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女性特有の悩みが解決されない理由って?
──皆さん今回初めてお会いすると思うのですが、女性の体のことやさまざまな問題について関心を持ったきっかけを教えてください。
SHELLY:私は性教育に関するYouTubeを始めて1年が経ちます。学生の頃から自分の身は自分で守るという感覚がない子たちがまわりに結構多くて、「大丈夫なのかな?」と思う気持ちがずっとあって。大人になって子どもを持った今、性教育の在り方が、私が10代の頃から20年以上変わっていないことに強い危機感を持ちました。
コロナ禍で性犯罪やDVが顕在化(*1)したり、望まない妊娠も増加したと聞きます。たとえば、10代の女性が公園で赤ちゃんを産み捨てるニュースなどを見るたびに胸が苦しくなる。そんな社会を少しでも変えたいと思って、10代、20代にメッセージが届きやすいYouTubeでの発信をはじめました。
長田:私は10年ほど美容ライターをしているので、圧倒的に女性と触れ合う機会が多いんです。「自分を大切にしよう」と女性の自尊心を応援することに、私の活動のコアがありますが、個人の努力や気の持ちようではどうにもならないところで傷ついたりすることが多いと感じています。
特に問題だと感じるのは、性暴力のこと。そこから地続きで、私たちは自分の体のことをあまりにも知らないのでは?と思って……。女性を取り巻く制度全体に言えることですが、当事者不在で男性主体で決められてしまっていることがあまりにも多すぎます。
西部:私は7年前に乳がんになり、その後不妊治療も経験しました。その体験から働く女性の健康支援をめざして起業し、企業研修などの啓蒙活動や、不妊、産む、産まないをテーマにWebメディアも運営しています。私自身、がん闘病時に子どもを産めないかもといわれ、人生観がひっくり返ってしまって。当事者になってはじめて「女性ってこんなに生きづらかったの!?」と気がつきました。
──「フェムテック」で扱うテーマで一番身近なのは、やはり生理でしょうか。
SHELLY:そうですよね。なのに生理って、お金がかかる! なぜ生理用品は軽減税率(*2)に入らないのかと思います。もっとみんなで声をあげられたらいいのに。だって生理のときに女性が何もしなかったら世の中大変なことになりますよ(笑)。女性は社会のためにも生理用品を使ってるんですよ。
長田:長年「生理=タブー」っていうイメージが根深かったのが最近やっと変わってきましたよね。日本で月経がタブー視されはじめたのは平安時代の話ですけど……。
SHELLY:ピルも高いし、生理をコントロールするパッチやリングなども種類があるのに日本では全然見かけないですね。
西部:生理対策を含め、女性特有の困りごとがなかなか解決されないのは、それにまつわる意思決定が長年当事者不在で行われてきたことの結果だと感じます。
また企業などでの女性活躍の文脈でも支援の必要性を話すと、元々機会は男女平等に与えられているのだからそれを活かせていないのは女性側の問題では、ともいわれがちです。
長田:そもそも生理に左右されてる時点で平等じゃないのにね……。
西部:「生まれついた身体的な役割のために、引き受けなきゃいけない苦労や負担が大きすぎませんか」ということなんですよね。そういった苦労をテクノロジーの力で解決に導けないか、というのがフェムテックのはじまり。男性も一緒に考えられるようになるのが本来の姿ですよね。
──「生理休暇」がある会社もありますが、現実は……。
長田:取りづらいという声も聞きます。働く女性の選択肢がもっと増えるといいなと思います。
SHELLY:考えてみれば、この数年で女性に関するいろいろな問題に対してリテラシーは上がってきましたよね。「生理の貧困」(*3)が知られるようになって、「生理用品が買えない子がいる」と、女性の状況が浮き彫りになりました。でも以前からこの問題はずっとあったわけで、コロナをきっかけに女性たちの状況が“見える化”されてきて。女性をめぐる社会課題について理解が進んでいくのは、本当にここからがスタートだなとあらためて感じています。
長田:最近、英語圏では「生理の貧困」「生理の公平」といわれはじめているようです。生理用品へのアクセスの不公平。公平を叶えるためには、格差是正措置が必要です。その手段のひとつが軽減税率の適用や無料配布だったりしますよね。
──皆さんの生理事情をお伺いできますか?
長田:私は、普段はアプリで生理周期を把握して、月経カップと吸水ショーツで過ごしています。小学校高学年の娘がいるのですが、今はいろんなものがあっていいなぁと思います。
SHELLY:私は18歳からずっとピルを飲んでいて、通常の生理がどんな感じだったのか正直覚えてなくて。妊活中、妊娠中、授乳中にはピルをやめていました。
今は、120日連続で飲むピルで年4回しか生理が来ないので、とても楽です。生理用品は基本月経カップのみですね。生理とはどうつき合うかではなく、なるべくつき合わなくて済む方法を選んでいます。ピルも進化していますし、処方もオンラインでもできるようになったりしていますよね。
あと「行きつけの婦人科」を持つのがおすすめ。婦人科は病気になったら行くところではなくて、女性のライフステージに寄り添う医療だと思います。たとえば、毎年子宮頸がんの検診に行けば、行く習慣がつくんじゃないかなぁ……。私はインフルエンザ予防の注射を婦人科で打ってるんですよ。あまり混んでないですし(笑)。そうすると年に1回は行くのでそのとき一緒にチェックしてもらっています。
西部:私は元々月経が止まりがちで。知識もなかった20代の頃、生理は毎月来なければいけないものだと思い込んでいたので、止まると不安で婦人科へ行っていました。なので婦人科はそんなに遠い存在ではなくて、結果的にはそれが今の仕事とつながっています。
出産を経て、前より生理が重くなってしまったことが悩みです。
長田:そうなんですね。私、ミレーナ(*4)が気になっています。日本では女性の痛みに対して、「我慢して耐える」ことが美徳とされがちですよね。
西部:それはしんどいし、本来、おかしなことなんですよね。
――「フェムテック」「フェムケア」について知れば知るほどさまざまな課題があると感じます。今一番気になっていることは何ですか?
SHELLY:女性をめぐる問題は、世代間、ジェンダー、セクシャリティ、課題だらけですよね。個人的に早くいいほうに変わってほしいと思うのは性犯罪です。
長田:私も本当にそう思います。
SHELLY:日本は性犯罪に対する刑罰が甘すぎるし、証明するのが大変すぎる。性的同意年齢(*5)が低すぎます。
それから小児性愛に関する認識もまだまだ低いと感じます。知識がなさすぎて、いざ犯罪が起きたときも「気のせいじゃない?」なんて思ってしまう怖さがあります。弱者が苦しめられる状況を早急に改善してほしいです。
長田・西部:(大拍手)
長田:被害に遭っても「自分に落ち度があったのかも」「しかたがない」と我慢してしまったり。声をあげたとしても、被害者が非難されがちですよね。
SHELLY:そうですね。被害者が口をつぐんでしまえば、実際に性犯罪に遭わない限り、その実態を知ることははない。だからこそ、声をあげていける人が、あげていくしかないんじゃないかと思います。
自分や家族が被害者になってしまう日が来るのではと思うと、怖くて声をあげずにはいられない状況なんですよね。まずは被害に遭ったら連絡すべき医療機関など、正しい一次情報がヒットしてほしいと本当に思います。
長田:私は、希望者に性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターや、DV相談ナビの短縮番号(*6)が記載されたステッカーを配ってます。まずは相談できる場所があることを知ってほしいですね。
西部:犯罪や人権問題などのリテラシーに関しては、圧倒的に日本は後進国と感じていて。その現実を私たちは直視して、知るときなのだと思いますね。私は働く女性の社会課題の改善について企業側と話す機会が多いのですが、女性の置かれる環境についても、なかなか対策が進まないのが現状です。
女性が活躍することは社会全体にとっていいことなのですが、それは同時に女性特有の体の問題も伴います。それらをケアすることで、女性の活躍によりつながっていく、という理解が進んでいくべきだと思います。って、本当はそんな「当たり前」のことをいわなくていい社会にしたいのですけどね……。
――SHELLYさんはYouTubeで性教育のお話もされていますがどんなことが気になっていますか?
SHELLY:これは性犯罪の話にもつながりますが、「性的同意」についてしっかり教えられて育ったら、「この行為は間違いだ」とわかる大人が育つと思うんですよ。でも残念ながら「性的同意」について学校では教わらないんですよね。だから被害者も加害者も誰かが「これは犯罪です」と指摘しないと、罪かどうかもわからないのが現状。カップルでも夫婦でも、性的同意は必要ですよ。
長田:誰もが持つ権利ですよね。
SHELLY:女性が自分の主義主張を声高にいうとモテないじゃないですか。結局そこなんだと思う。日本女性が越えるべきハードルは「モテ」だと思うんですよ。
――なるほど! 具体的にどういうことでしょう?
SHELLY:14歳くらいまで学力テストでは圧倒的に女の子のほうが点数が高いのに、中学2年生くらいで男女の点数が逆転しちゃうそうなんです。ちょうど恋愛に目覚める年頃なんですよね。どんな子がモテるかといえば、おっちょこちょいの天然系女子(笑)。
昔から、スポーツ万能な子や研究者気質のまじめな子は、いわゆる恋愛系の少女マンガのヒロインにはなかなかならないじゃないですか。男性が賢くて強い女性に恋するロールモデルが圧倒的に少ないんです。不平不満を言わず、だまって後からついてくる家庭的な女性という「モテ」要素をつくることによって、それを守っていけば女性は幸せに生きていけるという思い込みがある気がしていて……。私たちは幼い頃からなんとなく「モテる女子」をめざすよう誘導されているのかもしれません。たしかに「モテ」にとらわれてしまう部分はあると思います。でも「モテ」の呪縛について声はあげにくいし“何か違う”と感じているならそう感じた女性たちがもっと目覚めて、声をあげていけたらいいなと。そうすることで女性を取り巻くさまざまな問題への理解がもっと進むと思うんです。
――今まで「当たり前」と思っていたことを一度立ち止まって考える必要がありそうですね。
SHELLY:女性のからだのことや性について話すのはネガティブに思われがちですが、実はとてもポジティブなこと。私たちの声も、少しでもいい環境に変えるためのポジティブな怒りなんです。
長田:ポジティブな怒りを通して、ほかにもつらい人がたくさんいたんだとつながれるし、自己責任じゃないんだと気づけますよね。「フェムテック」というキーワードが、からだや性について話すきっかけになるのは素敵なこと。
西部:本当にそうですね。困っている人が声をあげられる心理的安全性のある環境に、少しずつでも変わっていけるといいですね。
後編は、2月19日発売予定の4月号に続きます。
KEYWORD
*1:コロナ禍で性犯罪やDVが顕在化
2019年度累計:41,384件
2020年度累計:51,141件
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの全国の相談件数の推移。
*2:軽減税率
消費税の軽減税率制度は消費税率10%への引き上げに伴い、2019年10月1日より「酒類・外食を除く飲食料品」及び「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」を対象に実施(国税庁HPより)。つまり、生活必需品は軽減税率が適用。生理用品は適用外となっています。
*3:生理の貧困
一般的に「経済的な理由で生理用品を購入できない女性」を指すといわれていますが、要因には、生活苦、環境的理由、社会的偏見、虐待やネグレクト、生理への無理解、知識不足など多くの深刻な問題があります。
*4:ミレーナ
黄体ホルモンを子宮の中に持続的に放出する子宮内システム(IUS:Intrauterine System)のこと。低用量経口避妊薬(OC)の避妊効果と、子宮内避妊用具(IUD)の長期の避妊が可能であるという特徴を持っています。また、過多月経+月経困難症の治療薬として国内外のガイドラインですすめられています。現在では世界約130か国で、延べ約3900万人の女性が使用。
*5:性的同意年齢
現在の刑法では13歳以上と定められています。
(刑法第百七十六条 強制わいせつ罪より)
*6:相談窓口
性犯罪・性暴力に関する相談窓口「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」#8891
配偶者からの暴力に悩んでいることを相談する窓口「DV相談ナビ」#8008
この全国共通の電話番号から相談機関を案内しています。
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お話ししてくれたのは……
タレント
SHELLYさん
【PROFILE】
1984年生まれ。アメリカ人の父と日本人の母を持つ。TVや雑誌などで活躍する傍ら、自らのYouTubeチャンネルを開設し発信中。2人の娘の母。
『SHELLYのお風呂場』
「若い人たちがポジティブな関係を築くための性教育チャンネル」をテーマに正しい性教育を届けるプラットフォーム。
『SHELLYのお風呂場』はこちら
ライター
長田杏奈さん
【PROFILE】
1977年神奈川県生まれ。美容を中心にフェムケアの記事やインタビューも手がける。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)。
『エトセトラ VOL.3 私の私による私のための身体』
長田さんが責任編集を担当。女性の体にまつわる諸問題を、フェミニズムの視点から網羅的に取り上げた一冊。
株式会社ライフサカスCEO
西部沙緒里さん
【PROFILE】
「働く女性の健康支援」をテーマに女性と職場、女性と医療をつなぐ事業を展開する傍ら、フェムテック企業の伴走支援も行う。NPO女性医療ネットワーク理事。
『UMU』
不妊、産む、産まないにまつわる選択や体験を紹介する実名制ストーリーメディア。語られてこなかった当事者の声を社会に届けている。
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photograph:Yumi Furuya(SPINDLE)
edit & text:Asami Asai
styling:Kanako Sasada[SHELLYさん]
hair&make-up:Junko Takahashi[SHELLYさん]
(リンネル 2022年3月号)
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web edit:FASHION BOX