(2020年7月3日 更新)
『大人のおしゃれ手帖』で南果歩さんの新連載【I am Here!】がスタート。記念すべき初回のテーマは「和顔施 笑顔で生きていこう」。南果歩さんが命を見つめ直す機会となった出来事とは。31歳の時に経験した命がけの出産について綴ってくれました。
《目次》
●当たり前の日常がどれほど素晴らしく、かけがえのないものだったのかを痛感
●水中出産への憧れ、妊娠中毒症、生まれたばかりの息子に向けた遺言ビデオ
●「和顔施」とは仏教の言葉で笑顔を施すこと。こんなご時世だからこそ、笑顔で!
●親愛なるイタリアの友人たちへエールを送ります
●南 果歩 プロフィール
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当たり前の日常がどれほど素晴らしく、かけがえのないものだったのかを痛感
イヤリング¥30,000、イヤリングチャーム(ストーン)¥12,000、イヤリングチャーム¥13,000/すべてアガット、ワンピース/ご本人私物
今月からエッセイの連載をさせていただく事になりました! 嬉しい!
さて、何から書いていこうかなと思っていた所に、コロナです。
SARSやMERS、エボラ出血熱が流行ったときは、正直どこか対岸の火事のような気がしていました。
しかし今回ばかりは、あまりにも身近に差し迫った状況に危機感を感じています。
見えないウイルスへの恐怖。無力感や虚無感、そして未来への不安。世界中を覆うこの重苦しい空気。
日々、当たり前の日常がどれほど素晴らしく、かけがえのないものだったのかを痛感しています。
それでも私たちは生きていかなければならない。何は無くとも生きてこそ。命あってこそ、です。
普通に生きていると、命に限りがあることなど考えもしない。ご多分に漏れず、私もそうでした。
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水中出産への憧れ、妊娠中毒症、生まれたばかりの息子に向けた遺言ビデオ
そんな私が、命を見つめ直す機会を与えられたことがあります。
それは息子を出産した31歳の時。妊婦になっても、仕事で培った習性で、出産に関しての本を読み漁り、色んな出産方法を調べ、イギリスでは認知されていた水中出産に憧れたのです。しかもそれを自宅でやろうとして、水中出産用のプールを借りる予約までしていました。
私が頭で描いたシナリオはこうです。
新しい命を、自宅で家族に囲まれて迎えたい。病院の無機質な分娩台ではなく、できればキャンドルの灯りが灯る温かな空間で産みたい。そして母子を繋ぐへその緒を切るのは父親しかいない。水中だと赤ちゃんもスムーズに出て来れるし、妊婦もリラックスして出産できる、と、本に書いてあったから。
無事出産を終えたら、隣の部屋で待機していた祖父母たちとご対面。親族みんなに迎えられて幸せな誕生!
と、なるはずだったのですが。
妊娠5ヶ月目で産婦人科の心無い検診に嫌気が差していた時に、友人の紹介で素晴らしい助産師さんと出会い、その助産師さんと自宅水中出産を着々と進めていました。産み月まであとひと月という所で、血圧の上昇と尿タンパクが出てきたのです。
助産師さんが頻繁に自宅に検診に来てくださっていたのだけど、一向に事態はよくならず、提携医の所で診察となり「妊娠中毒症」という診断が下りました。
そこからすぐに紹介された大病院に緊急入院、ますます血圧は上がり、翌日の午後に緊急帝王切開という事に。手術日の朝、主治医はますます悪化している母体を診察して午後までは持たないと、急遽午前の手術となりました。
月足らずで生まれた息子は2110グラムの小さな小さな命でした。そこから私の本当の闘いが始まりました。
一度息子を抱きしめただけでICUに入り、面会謝絶、明かりすら刺激になると薄暗い隔離された中で生まれたばかりの息子のことだけを考えていました。
その時私は、ぼんやりした意識の中で「命はこんなにあっけ無くなるものなのか」と感じていました。正直、家族は主治医からこのまま血圧が下がらなければ最悪の事態も有り得ると伝えられていたから。
ぼんやりした意識の中で、息子に母の姿を、言葉を残してやらなければと、ICUにカメラを持ってきてもらい、私は遺言ビデオを撮りました。
その時のありったけの想いを生まれたばかりの息子に残そうと。
薄皮を剥いでいくように、少しずつ回復の道を辿れたのはお医者様や助産師さんのお陰、そして目には見えない何か、それは神様仏様なのか御先祖様なのか、確かに見えないものにも私は救われました。
撮影したビデオは、お陰様でその後見ることもなく、家の片隅に眠っています。
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「和顔施」とは仏教の言葉で笑顔を施すこと。こんなご時世だからこそ、笑顔で!
有難い事にたまたま私は生かされている。
「出会った人とは仲良くしなさい。人は生きてるだけで3食食べて排泄をして地球に迷惑をかけているんだから」とは、私の母の教えです。人は人からの影響で自分を作っていく。その逆も然り。
和顔施とは瀬戸内寂聴先生から教わった仏教の言葉。笑顔を施すこと。こんなご時世だからこそ、笑顔で!
だって命には限りがあるんだから。
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親愛なるイタリアの友人たちへエールを送ります
Robertoファミリー
Patorizia
Guido
Ariana & Sonia
南 果歩 プロフィール
Kaho Minami/1984年に映画『伽倻子のために』で俳優デビュー。最近の出演作に、NHK 大河ドラマ『麒麟がくる』。映画『MISS OSAKA』『脳天パラダイス』の2本が2020年公開予定。著書に『眠るまえに、お話ふたつ』(講談社)、『瞬間幸福』(文化出版局)。
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photograph_Takashi Noguchi[San Drago]
styling_Kuniko Sakamoto
hair & make-up_Keizo Kuroda[K Three]
文_南 果歩
(大人のおしゃれ手帖 2020年6月号)
web edit_FASHION BOX, Satoko Ishikawa[vivace]