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[連載(6)ヨシダナギのココだけの話]カメラに興味がないフォトグラファーの撮影方法 ~前編~

(2020年 7月30日 更新)

どうも、こんにちは。三脚すらまともに使用できないフォトグラファーのヨシダナギです。

≪目次≫

※本記事は2017年4月16日に初掲載されました

 

ヨシダ、カメラに興味を持って怒られる

私は機械音痴な上に、カメラにも興味がない。しかし、先日ふと、とある小ぶりなカメラが気になって調べようとしたところ、マネジメントのキミノに「ヨシダさんはカメラに興味持たなくていいんです! Nikonさんに提供してもらっているカメラだけを使用していてください! カメラは要りません!」と、叱られるという出来事があった。フォトグラファーがカメラに興味を持って怒られるって、どういうことだろうか(ただ、このまま興味を持たなくていいと言われて、少しホッとした自分もいた)。
今回は、そんなカメラに興味も知識もない私が、どのように撮影を行っているのかについて話してみようと思う。

 

ヨシダナギが“1日3時間”しか撮影できない理由

前回のコラムで“撮影旅行中は膨大な空き時間がある”と綴ったのだが、それは何故か。
それはココだけの話、私の現地での撮影時間は最長で1日3時間程度しかないからだ。

恥ずかしいことに、私にはカメラや写真の知識が全くもってないのである。カメラと写真に興味がないせいで上達も遅い。過去に何十冊とカメラの本を買ってはみたが、活字恐怖症のせいで、その本を全て鍋敷きへと変化させてしまった。私の性格上、自身の作品に関して「実際にこの目で見た色を忠実に再現しよう」などという職人のような繊細なこだわりなども、悲しいことに持ち合わせていない。そんな大雑把な性格ではあるのだが、アフリカで写真を撮り始めた頃から1つだけ「ココだけは出来るだけ本物に近づけたい」と、密かに想いながらトライし続けていることがある。

それは、アフリカ人のキレイな黒い肌の色の表現である。
「アフリカ人の肌は黒い」と一口に言っても、ミルクチョコレートのような美味しそうな色もあれば、赤土のように赤みを帯びた肌、艶のある深煎りコーヒーを連想させる肌色や、マットブラックの肌といった具合に、生まれた地区や民族によってその色は大きく違って、それがまたどれも美しいのだ。

こんなに美しい黒い肌があるというのに、2年半くらい前までは、全くもって彼らの肌の色をキレイに写真におさめることができずにいた。それは何故かというと、私のカメラの知識が乏しすぎるのが大きな原因であることは言うまでもないが、彼らの肌は私たち黄色人種と違って、撮る時間帯によって青光りすることもあれば、赤く反射することもある。時には、紫色に写ってしまうこともあるのだ。
周りのプロカメラマンに対処法を尋ねてはみたものの、現地でアフリカ人を撮ったことのある経験者はおらず、“困った時のGoogle先生”にすがってみたが、何故かエロサイトしか出てこないし、“アフリカ人の撮り方”が記されている参考書すら見つからなかった。

「どうしたら彼らの美しい肌の色を写真におさめることができるのだろうか」と、手探りでトライし続けること数年……。やっと2年半ほど前に“日の出から約1時間半”と“日が沈みきるまでの約1時間半”ならば、彼らの肌の色が変色せずにキレイにカメラにおさまるという結論に辿り着いたのだ。もちろん、その国の地形や天候(特に雲の出方)によって多少、撮影時間に幅が出てくるのだが、基本的には1日の撮影時間は朝・夕で長くとも合計3時間しかない(もし、私がカメラを熟知しているスキル豊富な人間であれば、他の時間帯でもガンガン撮影可能になるのだろうが、今の私のスキルではこれが限界である)。

それ故に、撮影時間が充分に確保されているならいいが、撮影日が1日や2日しか確保できないスケジュールだと正直、私は気が気ではない。また雨が降りやすい地区ともなると尚更、「最低でも1枚は作品を撮ることができるのだろうか……」と、精神的に追い込まれて、お決まりの嘔吐き(えずき)が始まり、指先に蕁麻疹が出てカメラを持つことに支障をきたす。

よって、私の作品数が少ないのは、撮影スキルの乏しさと撮影時間の短さのためだと推測される。

ヨシダナギ連載
出典: FASHION BOX

写真展に足を運んでくださった方々から、毎回のように「作品数が思っていたより少なかった」「もっと見たかった」などと言われる度に、こんな私でも「撮影スキルがないならばないなりに、どうにかこうにか撮れる時間帯を増やして、少しでも多くの作品をつくらなければ……!」という思いが、ふと過(よぎ)ったりもする。が、先日のニジェール共和国でのロケで現地ガイドから「ナギの撮影は大変効率的で素晴らしい!」と絶賛されてしまった為、やはり私の撮影時間がこれ以上増えることはなさそうだ。

その上、特にこだわりもないくせに、なぜか1回の渡航で私が世に出せる作品数は1~3枚という安定のコストパフォーマンスの悪さを叩き出している。というか、3枚出せたら御の字である。仮に、3枚以上出せたらそれは自分でも信じられないほどの奇跡に近い(というよりは、奇跡を起こしてくれたモデル陣への感謝しかない)。

今後も私のカメラスキルが極端に向上しない限り(マネジメントのキミノからもカメラに興味を持つなと言われている以上、これに関しては、もうほぼほぼ兆しがない)作品数が極端に増えることはないので、写真展で作品が1~2枚しか増えていなくても「あ、1年で2枚も作品増えたじゃん☆」とか「あ、この民族に関しては3枚以上増えているってことは奇跡が起きたのか」といった具合に生温かい目で見守っていただけると嬉しい。

 

ガラにもなく、長くなってしまったので、撮影中の話は来週に回させていただきたいと思う。

[連載(1)ヨシダナギのココだけの話]フォトグラファー?

[連載(2)ヨシダナギのココだけの話]アフリカは「恋人」ではなく「古女房」

[連載(3)ヨシダナギのココだけの話]アフリカでも常に“受け身” ヨシダ流コミュニケーション術


[連載(4)ヨシダナギのココだけの話]ヨシダの一問一答!~カメラから貧乳まで編~

[連載(5)ヨシダナギのココだけの話]アフリカでの膨大な空き時間の過ごし方

[連載(7)ヨシダナギのココだけの話]カメラに興味がないフォトグラファーの撮影方法 ~後編~

[連載(8)ヨシダナギのココだけの話]コウモリも美味かもしれない~“食”への飽くなき探求心~

[連載(9)ヨシダナギのココだけの話]ヨシダの一問一答!~蝶野正洋から植田正冶まで編~

[連載(10)ヨシダナギのココだけの話]レタッチ方法だって独学でいいんじゃない。

[連載(11)ヨシダナギのココだけの話]「ヨシダ」は実はデュオだった!? ポンコツ式仕事術

 

ヨシダナギ/Profile

ヨシダナギProfile
ヨシダナギ
出典: FASHION BOX

(nagi yoshida)

1986 年生まれ。フォトグラファー。
2009年より単身アフリカへ。以来、独学で写真を学び、アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影、発表。
唯一無二の色彩と直感的な生き方が評価され、2017年には日経ビジネス誌で「次代を創る100人」、雑誌『Pen』「Penクリエイター・アワード 2017」へ選出。「講談社出版文化賞」写真賞を受賞。
著書に、写真集『SURI COLLECTION』(いろは出版)、写真集『HEROES ヨシダナギBEST作品集』(ライツ社)、紀行本『ヨシダ、裸でアフリカをゆく』(扶桑社)、エッセイ『ヨシダナギの拾われる力』(CCCメディアハウス)がある。2020年には世界中のドラァグクイーンを被写体とした作品集『DRAGQUEEN ‐No Light, No Queen‐』を発表。
近年は、阿寒湖イコロシアター「ロストカムイ」キービジュアル撮影、山形県「ものづくり」プロモーションのムービーディレクション、タヒチ航空のプロモーションビジュアル撮影など国内外での撮影やディレクションなどを多く手がける。
公式サイト http://nagi-yoshida.com/

Text:ヨシダナギ
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Web edit:FASHION BOX

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