辛酸なめ子が自粛明けの夜に遭遇! 300円の娯楽を全力で楽しむ人間を見て感じたこととは?

辛酸なめ子が自粛明けの夜に遭遇! 300円の娯楽を全力で楽しむ人間を見て感じたこととは?

『steady.』で好評連載中の「辛酸なめ子の覗き見♡OL妄想劇場」。今回は新型コロナウイルスに伴う国の緊急事態宣言が解除された日に、辛酸なめ子さんが遭遇した出来事について語ってもらいましょう!

≪目次≫
●自粛中、心の隙間に入り込んできた癒やしのアイテムについて
●コンビニの前でしゃがむ女性はヤンキーでもパリピでもない地味そうなキャラ
●PROFILE

自粛中、心の隙間に入り込んできた癒やしのアイテムについて

長かった外出自粛期間。営業が再開されたので、コスメ関係の仕事をしている女友達と久しぶりにカフェで会いました。

「ずっと家から出ていなくて、おかしくなりそうでした」と語る彼女は、自粛中、どうでもいい話しかしないチャラいYouTuberの動画にハマっていたそうです。その、コンビニ弁当が主食の元ホストのYouTuberは芸能ネタについてトークして時々炎上しているようでした。数十万再生されると一日数万円の収入が。チャラい見た目と軽いトークで油断させて、かなりの収入を稼いでいたとはうらやましいです。自粛で退屈だったり孤独な人の心の隙間に入り込んでくる絶妙な動画に思えてきました。

私の方は自粛中、公園で時々鳩と戯れたり、家で天然石に話しかける日々だったのですが、その女友達によると、フランスでは家や植物と話す人々についてこんな精神科医のコメントがあったそうです。曰く「長引く外出禁止の結果、壁や植物に向かって喋る行為は正常であり相談に来る必要はありません。そのかわり壁や植物が返事しだしたらすぐ連絡してください」と……。女友達は、精神科医の言葉に「さすがフランス。エスプリがきいてます」と感心していましたが、私は鳩や石に話しかけてたまに返事が返ってきたので、やばいところまで来ていたのかも、と内心焦りました(鳩も石も励ましてくれたのですが……)。とくに4月5月は、日本中の人にとって誰も経験したことのないような、俗世から隔絶された修行のような期間で、心や体に影響があるのも当然です。先日も夜、珍しい光景を目にしました。


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コンビニの前でしゃがむ女性はヤンキーでもパリピでもない地味そうなキャラ

その夜は、新型コロナウイルスに伴う国の緊急事態宣言が、ついに解除されたという記念すべき日でした。気温が高くなってきたこともあり、世の中に解放感が漂いはじめていました。そんな月曜の夜21時頃、道を歩いていたらコンビニの方から「ワーーッ!!」とかいう度を越した叫びが響いてくるのが聞こえました。今まで自粛で抑さえ込んでいたルサンチマンが爆発しているかのようです。若干警戒しながら近付くと、コンビニの前にたむろしていたのは若者というよりも、ちょっとイケてない男女5人のグループでした。地味っぽい見た目ながら、パリピのように騒ぎ散らかしています。見るとコンビニの前にはガチャガチャが並んでいました。白いシャツの女性がガチャガチャの前にしゃがみ、お金を入れて「テッテレーーー!!!」という擬音を叫びながらカプセルを取り出しました。仲間のひとりがその様子をスマホで撮影。彼女はカプセルを確認すると「やった~~!!」「イエーイ!!」と歓喜の叫びを上げていました。友人ではなくガチャガチャの方を向いて叫んでいて、一応、感染リスクを考えているようでした。「これ、欲しいやつ! 可愛い~!!」「マジ!? すげーな!!」と盛り上がりまくっています。ガチャガチャは、アンパンマンからウルトラマン、ガンダムのザク、魔進戦隊キラメイジャーなどバラエティ豊かです。彼女が手に入れたガチャガチャは、ドラゴンボールのゴジータのフィギュアのようでした。

「次のガチャガチャ行くぞ!」とその女子は拳を振り上げ宣言。皆でそのまま道を直進していきました。その先にセブン‐イレブンがあるけれどとくにガチャガチャはない記憶ですが、楽しそうだからとくに指摘せず彼らを見送りました。ガチャガチャは1回300円という安さ。長らく商業施設もクローズし、めぼしいものが買えず、物欲も抑えられていたので、300円のガチャガチャの景品であんなに大喜びできるようになったのでしょう。童心に帰って価値観がリセットされたかのようです。コンビニがガチャガチャを置くのはお客を増やす販促効果を狙ってのことですが、彼らは店内には一切入らず……。ガチャガチャを回しても日本経済は全然回っていないですが大丈夫でしょうか? でも、たった300円で幸せになれるし、コンビニ前のガチャガチャがパーティ会場にもなるのです。娯楽がなければないで楽しめる方法を見つけ出す人間の能力に驚嘆しました。

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PROFILE

辛酸なめ子が自粛明けの夜に遭遇! 300円の娯楽を全力で楽しむ人間を見て感じたこととは?

辛酸なめ子(しんさん・なめこ)

漫画家、コラムニスト。皇室、セレブリティ、スピリチュアルなどの分野に精通。著書は『女子校育ち』(筑摩書房)、『セレブマニア』(ぶんか社)、『辛酸なめ子のつぶやきデトックス』(宝島社)など。『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)は、日本のカルチャー要素をキーワードに、漫画タッチで構成されています。ツイッターのシュールボイスもお見逃しなく。@godblessnameko


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steady. 2020年8月号
WEB編集/FASHION BOX
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