雑誌『steady.』で好評連載中の「辛酸なめ子の覗き見♡OL妄想劇場」。今回はマスクが必須になった新しいライフスタイルについて、辛酸なめ子さんが思うことを語ります。
マスク生活での新しいライフスタイル。フェティッシュな嗜好も……
マスク生活はいつまで続くのでしょうか……。安いマスクが普通に売られるようになったのはありがたいです。マスクホルダーやマスクケースなどマスク関連アイテムも増えてきました。先日、マスク内に入れる便利そうな器具を発見し、購入。マスクと口の間に入れる器具で、口とマスクの間に空間を作ってくれます。息がしやすくなり、口紅がつくのも防止。しかしその器具をハメたら、逆にマスク内に熱気がこもり、水蒸気が発生してしまいました。しかも、その器具を人に見せたら、「猿ぐつわかギャグボール(SM用品の口枷)をハメているのかと思った」と言われてしまい……。1人プレイをしている変態疑惑が。いっぽう、男性週刊誌で、マスクをつけたままの新しい生活様式でのセックスの楽しみ方の記事を見かけました。プレイ感で興奮するそうです。また、熟年男性の、妻のほうれい線がマスクで見えなくなってよいというコメントも……。マスクライフが長くなると、不便な中でも人は楽しみ方を見つけようとするようです。私個人では、道でひとり思い出し笑い&萌え笑いしてもマスクだとバレないので好都合です。ただあるとき、マスクの下は笑顔で歩いていたら不審な目で見られ、あとで鏡で確認したら目も完全に笑っていました……。
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マスクで顔を隠すことで気まずいトークも気がラクに
カフェなど店内ではマスクを外してもOKという不文律があるようで、都心のカフェに行くと若い女性がノーマスクで大声で喋り倒していてちょっと不安になることがあります。普段のストレスを発散しているのかもしれません。でも反対に女性同士がカフェで集っていて、お互いずっとマスクのまま、という光景を目にすることもあります。先日、金曜日の夕方頃、都内のカフェにいたら、あとから入ってきた女性2人組の会話が耳に入ってきました。よく通る声で、ぽっちゃりめの女性がマスクのままで切り出した話は、「実は、会社を辞めないとならなくなって……」という衝撃の内容でした。全く知らない人ですが、どんないきさつか気になってしまいます。「上司と私の働き方についての感覚が違って、もっとガツガツ仕事してほしかったみたい。会社の中で私の優先順位が低くなったみたいで、コロナもあって経済的に厳しいからって言われて……」。話を聞いているショートカットの女性は「そうですか」とただ聞くのに徹しているようでした。彼女もマスクをつけたままです。「解雇の方が失業保険が出るって知ってたけど、私の中で糸がぷつっと切れたみたいになって、辞めることにしました。すごく勉強させてもらったし会社には感謝してる。やりたいことと親和性も高かったし……」と、不本意な退職でも感謝の気持ちを語る女性は強いです。続いて彼女は声をひそめ「会社の経営、すごいやばいみたい」と打ち明けました。「十年以上働いている人もずっと同じお給料らしくて。会社の状態知ってるのはマネージャーさんと私しかいない」「そんなにやばいんですか」と、同僚の女性。「今回のことはショックだったけど、就職活動してキャリアアップできればいいかな。webのディレクションちょっとやったくらいではなかなか難しいかもしれないけど」と、辞める女性は吹っ切れたようでした。そして同僚の女性に「もしそろそろって言われたら解雇にしてもらった方がいいよ」と、アドバイス。やはり失業保険の有無は大きいです。すると同僚の女性は「実は私も再就職が決まって……」とカミングアウト。彼女なりに会社の状況を察して脱出を考えていたのでしょうか。裏切られたともいえる報告ですが、「えっ、それは賢い。おめでとうございます」と、辞める女性は祝福。さっき自分の仕事に対して謙遜していたのから一転し「最近はコンペにも参加してて……」と女のプライドとして仕事があるアピールをしていました。気持ちはわかります。
結局お互い会社を辞める報告になった会合でしたが、最後まで2人はマスクのまま……。ドリンクもほとんど減っていませんでした。気まずいときや相手に本心を見せたくないとき、マスクはかなり役立ちます。お互いの飛沫を交換することもなく後腐れなく別れられます。
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PROFILE/辛酸なめ子
(しんさん・なめこ)
漫画家、コラムニスト。皇室、セレブリティ、スピリチュアルなどの分野に精通。著書は『女子校育ち』(筑摩書房)、『セレブマニア』(ぶんか社)、『辛酸なめ子のつぶやきデトックス』(宝島社)など。『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)は、日本のカルチャー要素をキーワードに、漫画タッチで構成されています。ツイッターのシュールボイスもお見逃しなく。@godblessnameko
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(steady. 2020年11月号)
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WEB編集/FASHION BOX