NHK大河ドラマ『青天を衝け』で話題の渋沢栄一はどんな人? 渋沢史料館館長が解説

NHK大河ドラマ『青天を衝け』で話題の渋沢栄一はどんな人? 渋沢史料館館長が解説

大河ドラマの主人公、渋沢栄一さんってどんな人?

NHK大河ドラマ『青天を衝け』が2月にスタートしました。今回は近現代が舞台となります。主役の「渋沢栄一」は新しい一万円札の顔。いったいどんな活躍をした人なのか、取材しました。

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単なる実業家ではなく、現代の日本の基礎を築いた人

いよいよ2021年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』が始まりました。吉沢亮さん主演で、幕末から明治時代を舞台に「日本資本主義の父」と称される実業家・渋沢栄一の活躍を描きます。渋沢栄一といえば、2024年から新一万円札の図柄として選ばれたことでも話題になりました。

では、渋沢栄一の功績とはいったい何だったのでしょうか? 約500の企業を育て、約600の社会公共事業に携わったといいますが、それが今の日本とどのような関係があるのでしょうか?

渋沢栄一がやり遂げた仕事とその意味、彼の人柄などについて、渋沢史料館館長で『青天を衝け』の時代考証も行っている井上潤さんにお話をおうかがいしました。

民間外交、社会福祉、教育など幅広い分野で活躍

渋沢栄一が新一万円札の図柄に選ばれた理由について、麻生財務相は「日本人の誰しもが知っている代表的な実業家」などと説明しました。井上さんは「渋沢栄一がただの実業家ではなかったことが選ばれた理由では」と推測します。
「渋沢は日本で初めて銀行を設立した人物、銀行という制度を確立させた人物として知られています。しかし、実際はもっと幅広く活躍をした人物なのです」

渋沢栄一が行ったのは企業の設立だけではありません。民間外交、社会福祉、教育事業、医療などなど多岐にわたります。「我々が今、生活しているあらゆる分野に渋沢が関わっていたと言っていいでしょう。現代の日本の基礎を作ったのが渋沢栄一なのです」と井上さん。

つまり、一つだけの功績ではなく、日本の近代化を総合的に推進した功績が評価されて、渋沢栄一は最高額の紙幣の図柄に選ばれたというわけなのです。

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利益を求めるときに道義・道徳に反してはいけないという信念

人々が生活する上で必要な事業を行う

では、渋沢栄一はどんなことを考えながら、500もの企業の設立・育成に携わってきたのでしょうか?

井上さんはこう説明します。
「渋沢栄一は、日本の国を強くするために必要なのは、政治の力や軍事の力ではないことに若い頃気づきました。一番大切なのは経済力。そのために産業を振興させなければいけないと考えたのです」

産業を振興させるために、渋沢栄一が最初に着手したのが金融でした。つまり、銀行の設立です。

人々が生活する上で必要な事業を行う会社という組織を確立して広めたのも渋沢栄一です。銀行のほかに、製紙、紡績、鉄道、海運、ガス、電気など、国の基幹インフラを担う会社を次々と生み出していきました。
「世の中をリードするぐらい民間の力を向上させていかなければ、世の中は発展していかないんだという信念を渋沢は持っていました」

最大の転機になったのは、20代の頃のヨーロッパ各国訪問です。渋沢はヨーロッパで学んだことを帰国後、次々と事業化していきました。なかでも渋沢が注目したのがパリで見た新聞の存在です。自分が聞いた演説が、翌日には新聞になって人々の手元に情報となって届いていることに驚きました。
「情報ツールの必要性を痛感した渋沢は、日本でも新聞を作るために製紙工場、印刷工場、新聞社を立ち上げました。それが現在の王子ホールディングス、共同印刷、日本経済新聞社です。いかに渋沢が総合的に物事を見ていたかがわかると思います」

渋沢は新聞を作って利益をあげようとしたのではなく、新聞で情報を人々に届けることを考えていました。渋沢の最大の目的は利益ではなく、事業が世の中のためになって持続することなのです。
「利益を求めることがいけないことだとは考えていません。ただ、利益を求めるときに道義・道徳に反してはいけないと考えていました」

間違った利益の求め方をしている企業は長続きしないと主張していた渋沢ですが、実際に彼が設立した企業の中には100年以上経った今でも存続している会社が185社もあるから驚きです。

会社は事業主だけのものではなく、みんなのものだという考え方

目指していたことはSDGsやCSR

「日本資本主義の父」と称されることが多い渋沢栄一ですが、実は「資本主義」という言葉をあまり使わなかったそうです。渋沢は、会社は事業主だけのものではなく、みんなのものだと説き続けました。利益は一人が独占するのではなく、みんなの生活を豊かにするために利益が満遍なく行き渡るようなシステムを考えていたのです。
「今、SDGsとかCSR(企業の社会的責任)などが言われていますが、実は明治の時代から渋沢がやっていたことなんですよ」

では、なぜそのような考えに至ったのでしょうか?

幼い頃、渋沢の生家は父親の努力もあって、非常に豊かな農家でした。しかし、領主はそのような家々を狙い撃ちするように搾取を続けました。
「領主が潤っても領民が潤うわけでない。それを領地が潤うとは言わないのではないだろうか。領民が潤うことが、領地が潤うという意味ではないだろうか。渋沢は若い頃からこのような問題意識を持っていたと思われます」

利益の独占を嫌い、公平に分配されなければいけないと考えていた渋沢はやがて「官尊民卑の打破」を目指すようになります。また、出資を集めて大きな事業を立ち上げ、そこで得られた利益を公平に分配することを「合本主義」と呼びました。「このような考え方は渋沢の幼年期の理不尽な体験がもとになっているのではないでしょうか」と井上さんは指摘しています。

渋沢の著書として名高いのが『論語と算盤』です。近年は若い人たちの間でも読まれていて渋沢栄一ブームを起こしていますが、間違えてはいけないポイントがあると井上さんは説きます。
「論語(道理)と算盤(利益)を天秤にかけるのではなく、渋沢は論語と算盤を絶えず一体になるよう求めています。そのことを忘れないでほしいですね」

渋沢が亡くなってから今年で90年が経ちますが、利益に走る企業が社会の歪みを引き起こし、環境面でも大きな変化に直面している現代こそ、渋沢栄一の教えを学んで受け継いでいくべきでしょう。

ところで、渋沢はどのような人柄だったのでしょうか?
「仕事に関しては厳しい人でしたが、相手の意見をしっかり聞く人でした。渋沢は敵をつくらなかったことでも知られています。一度、暴漢に襲われたことがありますが、監獄から出てきた犯人を自邸に招き、これからは世の中でしっかり生きていってもらいたいとお金を渡して帰したそうです。こんなところからも渋沢の人柄がわかるでしょう」

家族にも優しかった渋沢ですが、実はかなりモテたそう。やっぱり話を聞く男はモテるのでしょうね。

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渋沢栄一ゆかりのおすすめのスポット

明治神宮~外苑周辺
渋沢は明治神宮の創建にも深く関わっています。また、神宮外苑の絵画館や神宮球場などは人々の憩いの場でありつつ、自然な形で明治の時代を感じてもらいたいという渋沢の意図が込められて造られた場所です。

生誕地
渋沢の生誕地である埼玉県深谷市には旧渋沢邸「中の家」や尾高惇忠生家があります。渋沢が生まれた場所の空気を感じましょう。渋沢栄一アンドロイドがいる渋沢栄一記念館は現在、事前予約制で公開中。

渋沢史料館
井上さんが館長を務める渋沢史料館。渋沢が愛した飛鳥山の渋沢栄一旧邸跡地に建っています。本館のほか、大正時代に建てられた「晩香廬」と「青淵文庫」も見ることができます。現在は完全予約制で公開中。

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教えてくれたのは……渋沢史料館館長 井上潤さん

【PROFILE】
2004年より現職。今年の大河ドラマでは時代考証も担当。著書に『渋沢栄一伝:道理に欠けず、正義に外れず』(ミネルヴァ書房)など。

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text:Kumao Oyama
illustration:Natsuki Suyama
大人のおしゃれ手帖 2021年4月号

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