『steady.』で好評連載中の「辛酸なめ子の覗き見♡OL妄想劇場」。今回は上野動物園の子パンダ、シャンシャンに熱い視線を送るパンダウォッチャーたちの、謎に包まれた生態を目撃！
辛酸なめ子／Nameko Shinsan
漫画家、コラムニスト。皇室、セレブリティ、 スピリチュアルなどの分野に精通。著書は 『女子校育ち』（筑摩書房）、『セレブマニ ア』（ぶんか社）、『辛酸なめ子のつぶやき デトックス』（宝島社）など。『辛酸なめ子の 現代社会学』（幻冬舎文庫）は、日本のカ ルチャー要素をキーワードに、漫画タッチで 構成されています。ツイッターのシュールボ イスもお見逃しなく。
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延長レンタルが決まった子パンダ。しばらく日本人の心の癒しに……
パンダは愛されるために地球に存在しているのでしょうか。上野の子パンダ、シャンシャンが2019年に中国に返還される予定が、2020年末まで延期されたそうでよかったです。
シャンシャンには少し思い入れがあります。まだ生まれて間もない頃。パンダの子育ては難しいと聞いていたので、応援の念を送るために動物園に行きました。囲いで覆われているパンダ舎の前で祈るような気持ちで佇んでいたら、母パンダの念を受信。「この子は強いから大丈夫」と言っていたような……。
一般公開の初日にも朝早くから並びました。係員に早く進むように促され、お母さんのあとをついていくシャンシャンを一瞬見られただけでしたが……。それでも圧倒的な可愛さに目頭が熱くなりました。
一眼レフで撮影するパンダマニアの女性もいました。そして昨年は、パンダウォッチャーで有名な高氏さんの撮影風景を見学。数分の見学タイムの間はずっとカメラのファンイダーをのぞいて連写しまくっていて、ほとんどパンダを肉眼で見ていない、とおっしゃっていたのが印象的でした。
そのときも800枚くらい撮影されたそうで、家にはパンダの写真データだけで3テラバイトのHDが40個にもなっているとのことでした。そこから大ヒット写真集やカレンダーが生まれていくのでしょう。パンダ利権にあやかりたいです……。
動いているパンダの生身の癒し効果は半端なくて、お母さんのシンシンの周りを歩き回るシャンシャン、股間丸出しで寝るリーリーの姿を見て和みました。また、会場にはパンダアイテムを身につけた女子がいたり、見終わったあとまた並び直してパンダに会いにいく人もいて、アイドルイベントのようでした。
パンダ側は人間を意識することもなく、基本無視している塩対応がまたファン心理をかき立てるのかもしれません。
大雨の中、明らかにパンダ推しの女性がまっすぐ動物園へ……
先日は、大雨の上野公園でひとり早足で歩いている女性の姿が目に留まりました。彼女は、パンダの写真が4頭もプリントされた傘を差していて目立ちまくっていました。
こんな天候の日が絶好のお披露目チャンスです。誰がどう見ても動物園に向かっているといういでたちで、彼女は確固たる足取りでまっすぐ上野動物園の方に歩いていきました。悪天候なので動物園の周りは閑散としています。だからこそ、空いている日を狙ったのでしょう。
ふだんは結構お金に余裕のあるOLさんなのか、その服装にはパンダへの本気度が現れていました。赤いワンピに黒いショートブーツ。トレンチコートをはおり、バッグはグッチ。髪は完璧に巻かれていて大雨でも乱れていません。トレンディドラマのヒロインのような雰囲気で、パンダに求婚しそうな勢いすら感じます。
彼女はそのまま年間パスポート売り場に行き、2400円の年パス購入。そしてそのままラミネート窓口に行き、ラミネート加工してもらっていました。かなり段取りがスムーズです。窓口の係員と会話し、パンダ舎の並び列を確認。約30分の待機列ができていました。
それを知った彼女は動物園に入らず、隣の美術館へ。まさかのフェイントに意表を突かれました。なぜ、パンダの方に急ぎ足で歩いていたのに、「クリムト展」を先に観に行ったのでしょう。金箔が貼られたゴージャスなクリムトの絵画と、白と黒のモノトーンのパンダを対比したいと思ったのかもしれません。パンダのシンプルな美しさ、自然の造形美を見いだすために……。パンダ推しの女性はアカデミックな方だったようです。
この日は、雨のためか一日を通してふだんより20〜30分待ち時間が少なかったようです。比較的ゆっくりパンダを見られたことでしょう。彼女の推しはどのパンダか気になります。女性として、お父さんパンダに惹かれていたり……？
しかし彼女の傘のパンダはそもそも上野動物園のパンダかどうか不明です。調べたら海外の商品らしく、同じ人間というだけでジャニーズコンサートで全然違う知らない外国人のうちわを掲げているようなもの。パンダに勝負服で会いにいったり、人間の方が珍しい生き物であることはまちがいなさそうです。
辛酸なめ子が見かけたお坊さんとメガネ女子のギルティフリーラブ
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edit_Ayaki Ando[vivace], FASHION BOX
（steady. 2019年8月号）
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